第九話:初の護衛(前編)
翌朝八時半前には、酒場の一階テーブル席に三人の姿があった。
「そろそろ時間だし、カウンターの方に行ってみようか?」
ゼイルの声かけに二人は頷き、皆でカウンターへと移動する。
「おはよう!」
女店主の景気の良い挨拶が三人を出迎える。
「「「おはようございます」」」
三人も挨拶を返すと、早速護衛の依頼について店主が話を始める。
「この方が今回の依頼者で、商人のジーニーさんだよ」
そう言うと店主は傍らにいた、小太りの中年男性を紹介する。
「商人のジーニーだ。今回の護衛、よろしく頼むね」
ジーニーは人当たりのよさそうな笑顔で三人に声をかける。
「ゼイルです。よろしくお願いします」
「メニイです。こちらこそよろしくお願いします」
「ミリィーです。お願いします」
顔合わせを終えると皆で酒場の外に出る。
外には荷馬車が一台待機していた。
ジーニーが馬車の御者席に座ると、程なくしてパンタンへと向かった。
「ジーニーさんはいつもパンタンで商売されてるんですか?」
ゼイルが尋ねる。
「そうだよ。ここいらの特産品を仕入れて、パンタンで売っているんだ」
メニイが反応する。
「パンタンというと、ここら辺では一番の都会ですね?」
「ああ、そうだね。物価が高いから、同じ物でも他より高く売れるのさ」
「そうなんですね」
するとミリィーが呟いた。
「パンタンに行くのは久しぶりね」
「ミリィーは行ったことがあるんだ?」
ゼイルが質問すると
「ええ。何カ月か前に一度だけ行ったことがあるわ。とても賑わっていて、
珍しいものも手に入るわ 」
「へ~」
などと話しながら進んでゆくと、森が見えてきた。
「この森には大したモンスターはいないんだが、盗賊に襲われる事例が何件か
発生していてね。念のために君達を雇ったということだ 」
「そうなんですね」
ジーニーの発言にメニイが返事する。
そして森に入ると陽の光が遮られて薄暗くなり、何処かから鳥の鳴き声などが聞こえてくるようになった。
「確かにここは人気がなくて、狙われそうね」
ミリィーが呟く。
そうして陽が落ちるまで森の道を進み
「もうすぐ森を抜けるよ」
とジーニーが皆に声をかけた直後のことであった。
「前方から複数人、何者かが近づいてくるわ!」
ミリィーが緊張した面持ちで声を上げる。
ゼイルが反応して馬車の前に出る。
「馬車の側面両側、森の中からも来る!」
ミリィーは告げると、馬車を止めたジーニーとメニイと共に馬車の後方に移動する。
間も無くして、いかにも盗賊といったような風貌の男達が馬車の前方と左右から三人ずつ現れた。
前方にいる真ん中の男が横暴な口調で言った。
「金目の物は全て置いていけ!馬車の後ろに隠れてる女二人もな」
ゼイルは男を諭すように答える。
「・・・悪いことは言わないから、ここは引いた方が身の為だぞ」
「あぁ? 何を言ってやがる。状況わかってんのか?
馬車の後ろにいるのはオッサンと女二人だろう?
俺たち三人がお前を足止めしたらどうなるか・・・わからねえのか?」
そう男に問われたゼイルは再度警告した。
「もう一度言う。今の内に引いた方が良いぞ」
すると男は激怒して声を荒げる。
「もういい!お前らやっちま・・・」
男が言い終わる前に馬車の左側にいる三人に、次々と空中に発生した氷の杭が刺さり、声を上げる間も無く氷塊へと化していった。
「なんだ・・・何が起こってる!?」
代表らしき男が狼狽えている間に、馬車の右側にいる男が一人氷漬けになっていく。
その間にゼイルは前方の三人に近づいていた。
そして左手を前に差し出し詠唱をする。
「ファイアボール!」
剣の間合いに入る直前で発生した火球は、吸い込まれるように前方左側の男に着弾する。
「ぐあああぁっ・・・!」
男は叫び声を残して吹っ飛ぶ。
ゼイルはそのまま真ん中の男の左横に走りこむ。
すると一番右側にいた男は代表の男がいる為に、ゼイルに攻撃が出来ない。
「クソがぁ!!」
代表の男が自身の右横にいるゼイルに剣を振るおうと右腕を胸の前に構える。
が、その時にはゼイルの右手が、左腰に挿してある剣の柄にかかっていた。
そして代表の男が剣をふるう前にゼイルは居合切りを浴びせる。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
そう呟くと代表の男は崩れ落ちる。
奥にいた男が攻撃をする為に、代表の男を背中側から避けるように回り込んだ時には、ゼイルは馬車を背に距離をとっていた。
馬車の右側にいる二人の盗賊は、氷漬けになった仲間を見て混乱しながらも、馬車の後方へと弾かれた様に走り出す。
と片方の男が氷に包まれる。
残った男は何とか一人で後方までたどり着いた。
しかし、そこには短剣を構えたミリィーが二人を守るように立ちはだかっていた。
男は一瞬たじろいだ後、声を上げて剣を上段に構え、振り下ろそうとした。
「うわああああっ・・・」
しかし、その剣が振り下ろされることは無かった。
そこにはただ、氷塊が佇んでいた。
「ふー。こっちは片付いたよ!」
ミリィーは自分を落ち着けるように息を吐くとゼイルに声をかける。
「こちらもあと一人、いたけど・・・」
残った盗賊の一人は、全力で森の中に逃げ込んでいた。
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