好きの種
沙耶は、小さなカフェの隅でスケッチブックを開いていた。描いているのは、奇妙な形をした植物。葉っぱが丸く重なり合い、花は色のない透明。誰に見せても「なんだか変だね」「怖い」と言われる。けれど、沙耶にとっては愛おしい存在だった。
「どうしてこんなのを?」と友人に聞かれたことがある。
そのとき、沙耶は答えられなかった。ただ胸の奥が温かくなるから。理由なんてなかった。
今日もまた、彼女はその透明な花を描き続ける。
「人にわかってもらえなくても、私は好きって言えるもの」
そう心の中でつぶやくと、不思議と勇気が湧いてきた。
その瞬間、窓から差し込んだ朝の光が、白いページを透かし、スケッチの花をきらりと輝かせた。まるで「それでいい」と言ってくれているように。
沙耶は微笑んだ。好きは、誰に証明するためでもなく、自分の内に芽吹く種。外の評価に揺らぐことなく、自分が愛せること。
その小さな花が、彼女を支える光になっていた。