第5話『まだ知らない君のこと』
これは、ひとりの少年が「自分の弱さ」と向き合い、
「誰かを守る力」を求めて歩きだす物語です。
戦う理由も、強さの意味も、人によってちがう。
だけど――その答えを探す旅は、きっと誰かの心にも重なるはず。
まだ見ぬ世界へ、さあ、いこう。
放課後。
最初の授業が終わると、生徒たちはそれぞれの部活動や自由活動に向かった。
エリオスたちは教室に残っていたが、周囲の生徒たちの視線は、まだ彼に向けられていた。
砕けた水晶。
それは、ただの「事故」として処理されたけれど――誰もが気づいていた。
あれは、ただの魔力ではなかった。
リセリアは、口をとがらせながら椅子に座っていた。
リセリア:「はあー、最初から目立っちゃってさ……ま、エリオスらしいっちゃらしいけど」
そう言いつつも、気にしているのは明らかだった。
彼女にとって、エリオスは「大事なもの」。だからこそ、余計な注目を集めてほしくない気持ちもあった。
フィローネ:「……あれは、“拒絶反応”だったのかもしれない」
ぽつりと、フィローネが言った。
エリオス:「拒絶……?」
フィローネ:「うん。あの水晶、“普通の魔力”を測るためのものだよ。でも、エリオスくんの力は“変換”。きっと、測ろうとすること自体が間違いだったんだと思う」
その言葉に、リセリアも頷いた。
リセリア:「ってことは……学校が用意した“普通”の仕組みに、エリオスは合わなかったってわけね」
エリオス:「でも、それって……僕だけが、変なんじゃ……」
フィローネ:「ううん、違う。“変”なんじゃなくて、“まだ知られてない”だけ」
フィローネの声は、静かでやさしかった。
それでいて、どこか深い確信に満ちていた。
――まるで、彼女自身が「知られざる何か」を知っているかのように。
⸻
その夜。
ライゼンの家の屋根裏にある、小さな展望窓から星が見える。
エリオスは、その星を眺めながら、リセリアとフィローネと並んで布団にくるまっていた。
エリオス:「今日……ちょっと、こわかったかも」
リセリア:「え?」
エリオス:「“また何か壊すんじゃないか”って。僕の力、やっぱり“危ない”のかな……」
しん、とした空気が流れる。
けれど、次の瞬間――
リセリア:「バカ」
エリオス:「へっ?」
リセリア:「自分のこと“危ない”なんて言うな。エリオスがいなかったら、、私たちも、こんなふうに一緒に笑えてなかったじゃん」
横から抱きつくようにして、リセリアは彼の腕を掴んだ。
フィローネ:「エリオスくんは、“変換”の力を持ってる。物だけじゃなくて、人の気持ちとか、未来とか――たぶん“何か大切なもの”を変える力なんだよ」
エリオス:「……」
フィローネ:「だからね。私は、知りたい。エリオスくんのこと、もっと」
星の光が、三人の瞳にやさしく差し込んでいた。
⸻
そして――翌日。
学園に、新たな転入生の姿があった。
???:「あら、ここがシェアリアって学園? ふふ、面白そうねぇ……」
銀の仮面をつけた少女が、門の前に立っていた。
背中には黒い羽根。手には不思議な形の楽器。
その視線は、まだ知らぬ“ある少年”へと向かっていた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語では、「心の強さ」や「誰かを守る力」というテーマを大切に書きました。
登場人物たちは失敗もするし、悩むこともあるけれど、それでも前に進もうとします。
そんな姿が、どこかで誰かの背中を押せたなら、とても嬉しいです。
もし気に入っていただけたら、ぜひ次の話も読んでみてください。
これからも、物語を通してたくさんの「気持ち」を届けていけたらと思っています。
また会いましょう!