第3話『眠れる森の少女たちと、目覚めた剣』
“変える力”を持つ少年、エリオス。
けれどその力のことを、彼自身はまだ知らない。
彼は神々によって力を封印され、記憶を失い、別の世界に転送された“神の子”。
今はただの少年として、普通の日々を過ごしている――そう思っていた。
この日、学校は休み。
本当はゆっくり寝ていたいエリオスだったが、育ての親・ライゼンに叩き起こされ、朝から軽い修行をさせられる。
ライゼンは男勝りの口調を使うものの、内面はとても優しく、彼女の言葉には不思議とあたたかさがあった。
昼になると、森の中へひとり足を運んだエリオス。
空気の澄んだその場所で、彼はふしぎな“光に包まれた場所”を見つける。
そこに眠っていたのは、赤い髪と緑の髪をもつ、双子のような少女たち。
そのとき、エリオスの手にしていた石が、突然“剣”へと変わった。
そして現れる黒き魔物。
眠りから目覚めた少女たちは、風とともに魔物を斬り裂く。
気持ちが物を変えたのか?
剣と風が共鳴した理由は?
そして、なぜ彼女たちはそこに眠っていたのか――
運命の歯車が、ゆっくりと音を立て始める。
第3話では、出会いと戦い、そして笑いと食欲と、少しの希望が交錯する「日常と目覚め」の物語が描かれていく。
魔物との戦いが終わり、森には再び静けさが広がっていた。
だけどその静けさは、さっきまでの“張り詰めた感じ”とは少し違う。
少しだけ、あたたかくて、やさしい空気だった。
リセリアは、まだ手に持っていたエリオスの“変わった剣”を見つめていた。
銀色の刃は、どこかやわらかく光っている。
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リセリア:「ねえ、これ……本当に君の?」
エリオス:「え? う、うん……いや、作ったっていうより、石が勝手に……」
フィローネ:「でも、それって君の気持ちに反応したんだと思うよ?」
エリオス:「気持ち……?」
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自分の中から何かがあふれて、石を変えた。
それが“気持ちの力”だとしたら――
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リセリア:「まあ、細かいことはどうでもいいや」
リセリアはぽすんと苔の上に座り込む。
リセリア:「お腹すいたし」
フィローネ:「お姉ちゃん、さっきまで寝てたのに!」
リセリア:「寝たあとはお腹がすく。それがルール」
エリオス:「ええっと……パンと、ジャムと……りんご、ならあるけど」
リセリア&フィローネ:「それ、食べる!」
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即答。勢いすごい。
あっという間に、エリオスのリュックの中身は空っぽになった。
エリオス:「俺の昼ごはん~~!」
リセリア:「ふふっ、ごちそうさま」
にっこり笑うリセリアと、まだりんごをもぐもぐしているフィローネ。
でも、不思議と怒る気になれなかった。
それどころか――楽しい。
エリオスは、ふたりのやりとりを見ながら、ほんの少しだけ肩の力が抜けた気がした。
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エリオス:(……俺、今までこんなに誰かと笑ったこと、あったっけ?)
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森の奥、木々のすき間から、光がこぼれる。
リセリアとフィローネは、木陰の下で丸くなって寝転んでいる。
その姿は、まるで長い夢から覚めた猫のようだった。
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エリオスは、まだ剣を見つめていた。
あのとき確かに石だったものが、気持ちとともに剣に変わった。
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エリオス:(もしかして……俺、本当に、何か変えられるのかも)
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ふと見ると、リセリアはまたゴロゴロして、フィローネは木の実を探していた。
リセリア:「なあ、次は何か焼いたやつ食べたくない? 肉とか」
フィローネ:「じゃあ、鳥を探して……あ、でも可哀想?」
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そんな他愛のないやり取り。
けれど、それがなんだか心地よかった。
森の光の中で、エリオスの心に芽生えたのは――
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“誰かといるって、いいかもしれない”という、ごく当たり前で、ごく大切な想いだった。
今回のエピソードでは、戦いの緊張感のあとに訪れる「ほっとする時間」、そして誰かと一緒に笑い合う日常を描きました。
リセリアの飾らない強さと食いしん坊な一面、フィローネの素直で少し不思議な感性。
そんな彼女たちと過ごす中で、エリオスの心にも変化が芽生えていきます。
まだまだ謎の多いふたりの少女。
彼女たちがなぜ“眠っていたのか”、どこから来たのか、そして――エリオスの力が何を意味するのか。
読んでくださったあなたへ。
ありがとうございます。エリオスの旅は、まだはじまったばかりです。