第1話 雷の女と、少年の朝
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この世界には、ただひとつだけ存在する特別な力がある。
それは、物を、姿を、運命を――“別のもの”に変えてしまう力。
けれど、その力を持つ者は、たったひとりしかいない。
ある村に、少年がいた。
よく笑い、よく転び、よく空を見上げる、どこにでもいるような少年。
でも彼の中には、“誰にもない何か”があった。
それは、石を剣に、風を炎に、無を有に変える力。
本人すら気づいていない。
その力が、やがて世界を揺るがすほどのものだということに。
この物語は、
そんな力を持つ少年が、「何を変えるのか」を選ぶ物語。
世界か。
誰かか。
それとも――自分自身か。
まだ誰も知らない。
けれどその選択が、すべてを変えていく。
朝の日差しが、山の家をゆっくりと照らしていた。
鳥の声が聞こえる。
薪のはぜる音、石鍋から立ち上る湯気。
まだ少し冷たい空気が、窓の隙間から忍び込んでくる。
ライゼン:「起きろ、エリオス。朝だ」
エリオス:「……今日は休みでしょ……寝かせてよ……」
ライゼン:「朝飯、冷めるぞ。あとで“残りもの”になっても知らないからな」
エリオス:「……うわ、目玉焼きの香り……ずるい……」
布団の中でごろごろと転がりながら、
エリオスはようやく顔を出した。
台所では、ライゼンがエプロン姿で手早く調理をしていた。
見た目は雷の神獣。
でも、中身はガミガミうるさい姉御で、そして――
たまに、ものすごく家庭的な一面を見せる。
ライゼン:「お前、昨日“剣の素振り”サボったろ」
エリオス:「……バレたか」
ライゼン:「バレるに決まってんだろ。鍋のふたより大きな音してたしな」
エリオス:「……え、あれ聞こえてたの?」
ライゼン:「あたしを誰だと思ってんだ。雷の加減、耳の加減、全部極めてんだよ」
そんな言葉をかわしながら、ふたりはちゃぶ台を囲む。
焼きたてのパン、焦げ目のついた目玉焼き、具だくさんのスープ。
エリオスは「いただきます!」と元気に手を合わせ、
遠慮なくパンを頬張った。
エリオス:「んー、やっぱライゼンのごはんが一番!」
ライゼン:「おだてても修行は減らさないぞ」
エリオス:「そのセリフ、毎回言ってる気がする……」
ライゼン:「“あたしの口癖”ってやつだ」
エリオス:「……あー、あの人の?」
ふと、ライゼンの目が少し遠くを見る。
その声に、ほんの少しだけ懐かしさがにじんだ。
ライゼン:「ああ。……かっこいい人だったよ。昔な。口調も、目つきも、生き方も。全部」
その言葉に、エリオスは静かに耳を傾ける。
心のどこかが、じんわりと温かくなる。
エリオス:「じゃあ、俺も……いつか、誰かの憧れになるのかな」
ライゼン:「なるさ。だから、鍛えるんだよ」
エリオス:「……やっぱり修行する流れ!? 休みの日なのにー!」
ライゼン:「あたしの子になった時点で、そういう運命だ。覚悟しとけ」
そう言って、ライゼンは笑った。
男前な笑み。けれど、どこか母親にも似た強さと優しさがある。
朝食を終えるころには、日が高くなっていた。
ライゼン:「食ったら外出とけ。山の上の空気でも吸ってこい。寝腐るなよ」
エリオス:「はいはい……森には入っちゃダメ、だよね?」
ライゼン:「……そういうことになってる」
エリオスはジャケットを羽織って、ドアを開ける。
差し込む光に目を細めながら、彼は小さく伸びをした。
エリオス:「さて、今日はどんな日になるかなぁ……」
――この日。
彼はまだ知らない。
“運命”という名の出会いが、森の奥で彼を待っていることを。
『あとがき|変わるのは世界か、心か』
物語をここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この物語は、「変えられる力」を持ってしまった少年が、
何を変えるべきか、何を守るべきかを、自分で見つけていく話です。
彼の前には、多くの分かれ道がありました。
けれど選ぶのは、誰でもない“彼自身”。
どこかにいるかもしれない、
「変わりたいけれど、変わるのが怖い」誰かに、
この物語が少しでも届いたなら、とても嬉しいです。
そして、彼の旅はまだ続いていきます。
その先に何が待っているのか、
一緒に見届けてもらえたら幸いです。