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第7話 炎上系の共犯者

第7話 炎上系の共犯者

■アリマ・トウマ 視点


夜の新宿、雑居ビルの一角にあるバー「ルート66」。カウンターの片隅で、アリマ・トウマは仲間たちとグラスを打ち鳴らしていた。


「見たか? 長野の突撃動画、再生数120万超え。広告ついたし、案件も3つ来てる」


「俺なんかフォロワー2万人増えたぜ。やっぱユナ様は炎上の神やわ」


歓声と笑い声の中、アリマはスマホを取り出し、ユナとのメッセージ履歴を確認する。


【次はテレビ局の報道部に行って。現場の“編集者”にスポット当てて】


【了解。“演者”から“裏方”へってわけね。ちょっと趣向を変えるわ】


彼は口元をにやりと歪めた。だがその目には、焦りとも取れる微かな翳りが浮かんでいた。


■ユナ 視点


ユナのスタジオ。モニターにはアリマがテレビ局内を突撃する映像が映っていた。局の駐車場に隠しカメラを忍ばせ、編集担当者へ次々にインタビューを仕掛ける。


「ヒラタ・ジュンペイさんの番組で編集してる方ですか?」「報道って“正義”なんですよね?」


社員が困惑し、やがてセキュリティが駆けつける。映像はそのまま編集され、《テレビ局の裏方にも“正義”はあるのか?》というタイトルでアップロードされた。


動画内でアリマは語る。


「芸能人を潰す映像を編集してたやつらは、今も笑って生活してる。じゃあ俺らが同じことしても、文句ないよな?」


■カワサキ・レイナ 視点


レイナはモニターの前で険しい表情を浮かべていた。コメント欄には異変が起きていた。


【やりすぎ】【裏方を晒すのは違う】【子供を追い詰めるのは非道】


これまでの絶対支持とは異なる、冷静な意見が目立ち始めていた。


「風向き、変わってきた……」


だがユナは平然と答える。


「観客は常に“揺れ”を求める。“全肯定”が続くと飽きるの。だから、私は一度“悪役”にならなきゃいけない」


■アリマ・トウマ 視点


その夜、アリマはユナに電話をかけていた。


「ユナ……ちょっと、やばいかも。今回の突撃、“未成年への取材”ってことで、警察から事情聴取の連絡きた」


「それが報道だったら、問題にはならなかった。あなたは“正義の側”じゃないから責められる。私と同じだよ」


「……ユナ、本当にそれでいいのか?」


「いいの。“狂った正義”を演じる。私はそれを通して、“本物の加害者”を浮かび上がらせるつもりだから」


■ヨコイ・サトシ 視点


出版社「ブンゲイ社」。編集会議で、ヨコイは新しい週刊特集の見出し案を読み上げていた。


「《復讐の狂信者たち——正義はどこに消えたのか》」


若手記者が口を挟む。


「でも、読者の同情がユナに集まる可能性もあります。“彼女は自分を犠牲にして戦ってる”って論調も……」


「だからこそ、“共犯者”の存在を明らかにする。アリマを全面に出し、ユナが“制御不能な暴力の首謀者”だという構図にする。それが報道の構図だろう?」


その日、同誌は予定より二日早く発売され、ネット上でも特集記事が無料公開された。


■記事内容


——「彼女は父の名誉を回復するために、同じ手法で人々を傷つけている。“正義”と“報復”の境界線は、もはや完全に崩壊した」


■ユナ 視点


その記事を読みながら、ユナは静かに笑った。


「よく書けてる。私が“怪物”になればなるほど、視聴者は“過去”を振り返らざるを得なくなる」


レイナは声を落とした。


「……それでも、アリマは終わった。活動停止、企業案件打ち切り、SNSも炎上続き。彼は“共犯者”だったけど、壊れていい人間じゃなかったよ」


「壊したのは、社会だよ。私はただ、それを映してるだけ」


ユナの瞳には、狂気でも激情でもない——透き通った覚悟だけがあった。


■ナレーション


その後、アリマ・トウマは正式に任意同行を求められ、以後の活動は事実上停止。世間は彼を“ユナに利用された男”と称した。


だが、ユナは何も弁解しなかった。ただ一言、こう述べた。


「これで一人、“共犯者”が切られた」







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