第24話 裏切りの相方
第24話 裏切りの相方
■ミナト・マサノリ 視点
夜の高円寺。シャッターが降りた劇場跡地の前に、ミナト・マサノリは立っていた。元相方、タカタ・ヒサシと笑いの世界を築いた、あの懐かしきステージ。
遠くから、ユナの足音が聞こえてくる。
「……来たか」
彼女は無言で立ち止まり、しばしその空気を味わうように壁を見上げた。
「父が“笑い”を始めた場所。でも、最後にここには戻れなかった」
ミナトが、わずかにうつむく。
「会って、話したいことがある」
■居酒屋の個室
「……ヒサシが潰された時、俺は何も言えんかった。怖かったんや」
「業界の空気を読めって? なら父は空気に殺されたんですね」
ユナの言葉は冷たいが、怒気はなかった。ただ、深い虚無が広がっていた。
ミナトは、ポケットから封筒を取り出す。
「ヒサシが死ぬ数週間前、俺に手紙をくれた。“マサ、黙っててええ。笑いを守ってくれ”って書いてあった。俺、それを免罪符にしてた」
ユナはその手紙を開かず、バッグにしまった。
「あなたが沈黙を選んだ結果、父の“笑い”は死にました。“正義”より“空気”を優先した代償は、私が受け取っています」
■ユナ 視点
その夜、動画がアップされた。
タイトル:《裏切りの相方——沈黙が殺した芸人の魂》
「私の父には、“戦友”がいました。でも、報道が出た瞬間、その人は何も言わず、ただ沈黙した」
画面には、過去の漫才映像が映し出される。笑い声、拍手、そして——突然の沈黙。
「“守れなかった”じゃない。“守らなかった”んです」
■SNS反応
【マサノリさん、あの時何してたの?】【芸人同士の“義理”ってそんなもん?】【ユナの言葉が刺さる……】
一方で、こんな声も。
【責めすぎでは】【ヒサシが望んだ沈黙かもしれない】【でもユナが言いたいこと、痛いほどわかる】
■レイナ 視点
編集スタジオ。ユナがネタ帳を開く。
「父は最後のページにこう書いてた。“笑いは武器。でも、その刃は強者に向けろ”」
「私は……“怒り”を向けるしかない。父さん、あなたの敵に“笑い”じゃ勝てなかった。だから、私は別のやり方を選んだ」
レイナはそっとノートを閉じた。
「でも、あなたが“選ばなかった方法”で戦い続けるのは、あまりにも孤独すぎる」
■ミナト 視点
自室のテレビに流れる、かつての漫才映像。
若き日のヒサシが笑っている。
「マサ、オチは“黙ってるほうが負け”ってやつやで!」
ミナトは思わず吹き出し、涙ぐんだ。
「……そうか。俺、あのときから負けてたんやな」
彼は電話を取り、ある番組のプロデューサーに連絡を入れた。
「……俺、もう一度だけ、喋らせてくれへんか?」
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