第21話 封印された証拠
第21話 封印された証拠
■モリヤマ・ケンジ 視点
深夜1時、都内の古びた事務所ビル。その地下金庫の前で、モリヤマ・ケンジは立ち尽くしていた。
セキュリティロックを解除する指先が震える。思い出したのは、ヒサシの死後、守るべきだと信じて封印した“最後の証拠”。
金庫の扉が軋むような音を立てて開く。中には、いくつもの茶封筒。その一つを手に取り、封の上に貼られたラベルをじっと見つめた。
《ヒサシ関連音声記録・未公開・要弁護士同席》
彼はスマートフォンを取り出し、タカタ・ユナに電話をかけた。
「……これを出せば、確実に数人は潰れる。死人が出るかもしれん。それでも、出す覚悟あるか?」
ユナの返事は、数秒の沈黙のあとだった。
「……はい。“終わらせたい”んです。“あの夜”の真実を出すことで」
■ユナ 視点
翌朝、ユナは編集室でUSBを受け取り、PCに接続した。
再生された音声——六本木のホテル。複数の芸人たちの笑い声。その中に、記憶の奥底に眠っていた父の声が混じる。
『おい、それ以上はやめとけ。強制じゃないと分からせたらアカン』
続いて別の芸人の声。
『断ったら芸能界に入れへんだけやろ? 選べるわけないやん』
空気が凍るような沈黙。そして録音は突然切れる。
■動画配信:《週刊誌が切り取った真実——未編集音声、公開》
映像は冒頭、何も映さず、音声のみが流れる。
その後、ユナの語りが始まる。
「この音声には、父・ヒサシが“主犯ではなかった”ことを示す言葉が記録されています。そして、この音声は当時、週刊誌が“編集して切り捨てた”部分です」
「問題の本質は、“父が何をしたか”ではなく、“誰が守られて、誰が捨てられたか”です」
■SNSの反響
【これが真実……?】【他の芸人の声、名前出せ】【なぜ今まで黙ってた】
だが一方で、こんな声もあった。
【ユナの怒りは理解する。でも、これ以上は危ない】【彼女自身が壊れていく気がする】
■レイナ 視点
「ユナ、これで満足なの?」
レイナは画面を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「父さんが守ろうとした“後輩”たちの声。それを晒すことで、父の正義は保たれるの?……それとも壊れるの?」
ユナはその問いに答えなかった。ただ静かに、自分の言葉でノートに書いた。
——「真実を出すことで、誰かが潰れるなら。私は、その責任を引き受ける」
■ヒラタ(コメンテーター)視点
TV局の控室、画面に流れるユナの配信を見ながら、ヒラタは無言だった。
彼の顔に浮かんだのは、1年前の番組で発した一言——
「この芸人、限界きてるよね。そろそろ降板じゃない?」
軽く言ったつもりだった。だが、その一言が、どれだけ重かったか、今になって突き刺さっていた。
■ユナ 視点
USBの内容すべてを公開したその夜、ユナは最後のテロップを画面に入れた。
《この真実は、誰のためにあるのか。あなたが決めてください》
その直後、コメント欄には無数の言葉が流れた。
——【ありがとう】【遅すぎたけど、やっと聞けた】【もう誰も責めないで】
その言葉の嵐を見ながら、ユナは静かに笑った。
「やっと、“沈黙”の責任を、誰かと分かち合えた気がする」
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