第18話 悲しむ権利なし
第18話 悲しむ権利なし
■ユナ 視点
速報のテロップが、SNSのタイムラインを駆け巡った。
《記者・キタ・タロウの父、持病の悪化により死去》
報道は最小限にとどまり、キタ家は通夜・葬儀ともに非公開を希望。メディアもそれを尊重する姿勢を見せていた。
だがその夜、ユナのチャンネルに投稿された一本の動画は、沈黙の中に強烈な火を投げ込んだ。
タイトル:《記者の親が死んだ? —— その悲しみに“権利”はあるのか》
■配信映像
白い背景の前、ユナは一人で座っていた。照明は最小限、表情を覆い隠すほどに陰影が濃い。
「今日、ある記者の親が亡くなりました。死は、本来誰にとっても悲しみです。……でも」
ユナは静かに目線を上げ、カメラを見つめる。
「“あの人たち”が私の父を潰したとき、誰かが悲しんでくれましたか? “報道されたから仕方ない”と笑った。誰も、父の命に値段をつけたことを恥じなかった」
「だから私は言います。“記者が親を亡くしても、悲しむ権利なんてない”。だってそれが、あなたたちが築いた“報道のルール”でしょ?」
■カワサキ・レイナ 視点
モニターの前で、レイナは両手で顔を覆った。
「ユナ……もう自分を“壊す”ために動画を作ってる」
その声はかすれ、哀しみに満ちていた。
■ウメダ・ショウ 視点
「これは“処刑”じゃない。“自死”の布石だよ。言葉を刃にして、最後に自分に突き刺すための準備だ」
配信後、彼は静かにそう呟いた。
■ユナ 視点(母・ヨシコの病室)
翌日、ユナは母の病室を訪れていた。点滴の音だけが響く空間。静かに寝息を立てる母の手を握り、呟く。
「ママ……父さんのこと、誰も守ってくれなかった。でも、今度は違う。私が“終わらせる”から」
母は目を覚まさなかった。だが、その手のぬくもりが、唯一の現実の接点だった。
■非公開動画
深夜、一本の動画が限定公開された。
タイトル:《最期に伝えたいことが、ひとつだけあります》
カメラの前、ユナは目を伏せたまま語り出す。
「私の戦いはもうすぐ終わります。これ以上、誰かに悲しんでほしいとは思いません。だって——私自身が、もう“悲しみ”を感じられなくなってるから」
画面はそのままフェードアウト。再生終了後、沈黙だけが残された。
■SNS反応
【これは危ない】【誰か止めてあげて】【でも、彼女の言葉が痛いほどわかる】
一方で冷酷な声もあった。
【加害者ムーブ】【死者で感情操るな】【もう報復劇は終わっていい】
■キタ・タロウ 視点
父の棺の前、キタは誰もいない部屋で手を合わせていた。
「……父さん、こんな形で人の憎しみの対象になるなんて、誰が想像しただろうな」
そこに、一本の通知がスマホに入った。
——《ユナの最新投稿、父の死に言及》
彼は再生ボタンを押し、ユナの言葉を最後まで聞いた。
そして、こう呟いた。
「そうか……君は“人間の感情”そのものに、決着をつけようとしてるんだな」
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