第11話 親友の協力
第11話 親友の協力
■カワサキ・レイナ 視点
日が落ちた渋谷のコワーキングスペース。その一角に設けられた、YouTube配信用のオペレーションルームには、冷たいLEDライトと低いキーボード音だけが響いていた。
レイナは膝にMacBookを乗せ、画面にはユナのチャンネル分析データが並ぶ。リアルタイムの視聴数、トレンドの波形、アンチコメントの抽出キーワード。
「ユナ、今週の動向まとめたよ。登録者117万人突破。炎上便乗企業からの広告依頼、7件」
ユナはソファで脚を組み、スマホを見たまま答える。
「全部切って。便乗組は、父の敵だから」
レイナは頷き、広告枠を一括でキャンセルする操作に移る。
高校時代からの友人。最初に話しかけたのはレイナだった。
「アンタ、父親あんなに有名やのに、なんか無理して普通にしてへん?」
その関西弁の軽さが、ユナにとって唯一、日常に戻れる橋だった。
■ユナ 視点
レイナの操作を横目に、ユナは白紙のノートを開いていた。
「次の一手は、“記者の沈黙”に踏み込む。報道側の中で、誰が疑問を感じてたのか。その証拠が必要」
「告発者がいる?」
「うん、アユミが繋いでくれた。“元報道スタッフ”が数人、内部記録を持ってる」
ユナの目は、どこまでも静かだった。
「私は、父が笑わせてきた“舞台”を、今、怒りで染め直してる。だけど……本当は、ただ“誰かに寄り添ってほしかった”だけなんだ」
■アユミ 視点
その夜、アユミは自宅の一室で過去の音声データを整理していた。
「……俺ら、これでいいのか? また誰か、壊れるぞ」
「“視聴者が求めてる”から、やるしかないだろ。あのネタでバズった回、見てないのか?」
記者たちの生々しいやりとり。時に笑い、時に戸惑いながら、誰かの人生を“切り取る”日常。
「これはただの記録じゃない。これが“沈黙の構造”だ」
アユミはその音声を一本のZIPファイルにまとめ、ユナのチャンネル用のクラウドフォルダに送信した。
【ファイル名:silent_truths.zip】
■レイナ 視点
ファイルを受け取ったレイナは、その中から一つの音声に手が止まった。
——「タカタの件、事実関係ぐちゃぐちゃだったけど、“芸人だからしょうがない”って通したんだよ」
「これ……完全に、捏造の黙認じゃない?」
ユナは頷いた。
「これで、“報道の正義”が実在しなかった証明になる」
■動画配信『沈黙の共犯者たち』
タイトル:《報道の裏側、語られなかった録音》
画面には、モザイク処理された顔と音声変調された記者の証言が流れる。
「俺は、あの日、記事の事実確認を止めようとした。でも、編集長が“数字が取れるなら出せ”って……もう、何も信じられなかった」
「正義? そんなもん、社の都合でいくらでも書き換えられる」
ユナのナレーションが重なる。
「沈黙の中に、真実が埋もれている。私は、その沈黙を暴く」
■SNS反応
【こんな証言、はじめて見た】【記者って、内部で疑問持ってても何もできないの?】【報道って……こんな構造なのか】
「#報道の裏側」「#沈黙の共犯者たち」などのタグがトレンド入りする。
■レイナ 視点
動画公開後の反響を見つめながら、レイナはつぶやく。
「ここまで来た。もう誰にも止められない。……でもユナ、お前はどこに向かってるの?」
その問いに、ユナは静かに答える。
「“父の死”が、ただの“数字”で終わらない場所へ」
■ラストシーン
深夜、レイナはユナと二人、渋谷の交差点に立っていた。
「……これが戦場か」
ユナは歩道橋の上から街を見下ろし、こう言った。
「父さんは“笑い”で人を救おうとした。私は“怒り”で人を目覚めさせたい。どっちが正しかったかは、もう少し先で分かるよ」




