第10話 芸能界の裏側
第10話 芸能界の裏側
■モリヤマ・ケンジ 視点
赤坂の料亭「月影」。表向きは閉店しているその奥座敷で、芸能事務所マネージャーのモリヤマ・ケンジは、テレビ局の古株プロデューサーと向かい合っていた。
「タカタ・ヒサシの件、もう話題に出すなっていう空気が完全にできてる」
「そりゃそうだろ。代わりに別の若手を使って、数字も出てる。誰も得しない話題を蒸し返す必要ないってことだ」
モリヤマは苦く笑った。
「芸能界ってのは、不祥事と忘却で回ってる業界や。ヒサシさんが消された時、真っ先に“切った”のはスポンサーやなくて、こっち側や」
「だけど娘が、“構造”そのものをぶっ壊しにきてる。あのユナって子、マジで一発ぶっ放すぞ」
プロデューサーは苦い顔で頷いた。
■ユナ 視点
「次の配信は、“芸能界の裏側”。父がスキャンダルに巻き込まれた瞬間、誰が味方だったのか。誰が沈黙し、誰が最初に手を引いたか。全部明かす」
カメラの前で、ユナは低い声で言った。
レイナがモニター越しに口を挟む。
「業界全体に喧嘩売るってことになる。炎上じゃ済まないよ、今度は……」
「最初から“業界ごと”焼き払うつもりだった」
■配信映像
タイトル:《“沈黙の共犯者たち”——芸能界の倫理なき構造》
画面には父・ヒサシの活動履歴と所属事務所の契約解除日が表示される。
ナレーションは続く。
「スキャンダルが報道されたその翌日、父は所属事務所を解雇された。“イメージの悪化”を理由に、説明の機会も与えられず、一方的に“削除”された」
次に映るのは、父と親交が深かったと言われる司会者やプロデューサーが、別のタレントと笑い合うイベントの映像。
「“最高に笑わせてくれた”と言ってくれた人たちは、父が沈んだ瞬間、一斉に沈黙した。父は“商品”だった。売れなくなったら、即廃棄。それが芸能界の仕組みです」
■SNSの反応
【これは衝撃……】【ここまでされてたとは】【事務所の契約解除って、こんなスピードで?】
一部の芸能人までもがコメントを寄せる。
【自分も過去に似た経験がある。マネージャーに“口を閉じていろ”と言われた】
■モリヤマ・ケンジ 視点
その夜、モリヤマはユナからの連絡であるビルの屋上に呼び出された。
「来てくれてありがとうございます。父の最初の舞台から見ていたって、本当ですか?」
「本当や。彼の最初の舞台、小道具持ちとして横にいたんや。舞台袖で“やりきった”って泣いた日も覚えとる」
「……父の“死に様”を聞かせてください」
モリヤマは煙草に火をつけた。
「ヒサシさんは、自分がやられる覚悟は持ってた。でもな、“誰も助けてくれへんかった”ことだけは、最後まで悔しがってた」
ユナはうなずく。
「やっぱり“笑い”は父を守ってくれなかったんですね」
「違う。“笑い”が悪いんやない。芸人を守る仕組みが、どこにもなかった。スポンサーとテレビ局の顔色を伺って、誰も声をあげられへんかった。ワシもその一人や」
「あなたも、“沈黙の共犯者”なんですね」
その言葉に、モリヤマは返す言葉を持たなかった。
■声明と波紋
翌日、芸能事務所連盟は異例の声明を発表する。
《報道と所属タレントの対応について再検討の必要あり。報道被害による“即時契約解除”の実態を調査する》
声明に驚くネット世論とマスコミ。一部週刊誌が特集を組み始める。
「“報道されたら即契約解除”という慣習は、果たして正義だったのか?」
■ユナ 視点
ユナはカメラの前に立ち、最後にこう語った。
「父は、“笑い”という武器で戦った。でも“沈黙の壁”には勝てなかった。だから私は、“構造”を壊すことで、父を守る。これは、私の正義。そして、復讐の通過点にすぎない」
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