第9話 SNSの支援者
第9話 SNSの支援者
■シミズ・アユミ 視点
都内の静かな住宅街。アユミは自室の窓を閉め、遮光カーテンを引いた。部屋には複数のモニターと録画装置、そしてスマートフォンの通知音が鳴り響く。
「……来た」
SNSのDMには、匿名アカウントからの情報提供。
【キタ・カナエが通う塾、今日の18時頃に父親が迎えに来る。車種は黒のセダン。ナンバー末尾27】
アユミは躊躇なくスクリーンショットを撮り、ユナのセキュア回線に送信した。
かつて、彼女も“壊された家族”の中にいた。
10年前、父がタレントとして報道に晒され、家庭は一夜で崩壊した。以来、アユミは「真実」に飢えた人間となった。
「情報は力。そして、それを武器にできるのが、今の時代よ」
■ユナ 視点
「ありがとう、アユミ。これでまた一つ、“彼らの仮面”が剥がせる」
ユナは静かに言った。画面には、カナエと父・キタが一緒に歩く姿をとらえた過去映像。ユナはその一場面にナレーションを重ねていく。
「この人は“加害者”の一員。そして、今は“被害者ヅラ”して、世間の同情を集めようとしている」
レイナが戸惑った表情を浮かべる。
「でも、娘は……」
「彼女の父が報道で他人を壊してた時、誰が“さすがに”って言って止めた? 誰も止めなかった。だから私は、同じだけ“返す”」
■SNS上のアユミのアカウント
@truth_relay
【ユナさんの最新動画を補足:キタ記者の過去の書籍にある“報道哲学”を読み解く】
【娘を使って同情を集めるな。父の筆で壊された人生は数知れず】
フォロワーは瞬く間に5万人を突破。アユミは“真実の情報屋”として神格化され始めていた。
そこへ新たなDMが届く。
【私の父もメディアに潰された元タレントです。何か協力できませんか?】
アユミはスマホを閉じ、呟く。
「もう誰にも止められない。これは“連鎖”だから」
■レイナ 視点
「ユナ、聞いて。“キタ記者の娘が自殺未遂した”って書き込みがある」
レイナの声が震えていた。
「さすがに——これは、線を越えてる」
だがユナの表情は変わらない。
「“さすがに”なんて言葉、父が殺されたとき誰も使わなかった。報道の現場で、“もうやめよう”って声をあげた人がいた? いなかった。だから私は、最後までやる。あの人たちがしたように」
■ウメダ・ショウ 視点
その夜、弁護士ウメダは報道関連の資料を抱えて帰宅途中だった。SNSでは、アユミの投稿が“第3の報道”として拡散されていた。
【法の正義では裁けないなら、倫理の正義で対抗する】
その言葉に既視感を覚えた。ヒサシが法廷で語った言葉と重なったからだ。
「ユナは今、父が使えなかった“力”を使って、社会構造を逆転させようとしてる。でも——その代償が、彼女自身にならなければいいが……」
■ユナ 視点
ユナは動画の最後に語る。
「“かわいそう”って、簡単に言わないで。私の母は、父を奪われてから毎日が地獄だった。人の命を“話題”にしてきた人たちが、今“人として”扱われる理由なんて、ない」
そして、こう締めくくる。
「これは、“報道の鏡写し”。私はただ、彼らのやったことを返してるだけ。支援してくれる人がいる限り、私は止まらない。正義とは——誰が語るかじゃない。“何をしてきたか”で決まるんだよ」
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