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作者: 柊 蒼輝

「ねぇ、聞いたー?ひととひとまる」

 彼女が言った。あたしは、車を海岸線から外れるように、ハンドルを左に切った。

「知らね」

 あいつが言う。

「噂の話はしたよ。岩手山爆発して津波が来るだの、富士山爆発して日本沈没だの迷信だってば」

「本当なんだってば」

 ヤツも言う。

「それがさー、わんこがいて、吠えられるとダメなんだって。」

 あたしは、「ちょっと揺れるよー?」と言いながら、アクセルとクラッチを操作して砂山を超える。車が大きく上下に揺れた。海を目の前にした駐車場に止めた。

「だから、なんで吠えられるとダメなの」

「気づかれるんだってば」

「何ー?番犬?」

 あたしは、煙草に火を着け、降りるべきか考える。

「あぶね、頭ぶつけた。」

 あいつが頭を摩りながら、珈琲を飲み始めた。

「だからってこんな時間に来るし、肝試しなの?」

「弱腰だなー、わんこいねーよ」

 あたしは煙草をふぅと吹いて、車のウインドウを少し開ける。湿り気のある風が社内に流れてきた。暗闇のライトに灯された海は白吹雪きを拭きながら寄せては返す。

「ほら花火セット、線香花火だけ取るよー」

「だからって集まったからってやらなくても」

「でるよ、気を付けな」

 彼女が言う。あたしは煙草を持ったままドアを開けた。5人揃って車を降りると、駐車場から砂浜に続く階段を降りる。

「ちょっと」

「しっ」

 あたしが煙草の火を持って、花火に火を着ける。線香花火が玉を造りながら、ちらちらと燈火が散っている。彼女は小声でぼそぼそと「これをー移して、ほら」と言って彼女が持っている花火に火を移す。これを繰り返して行くらしい。あたしは腕時計を見た。間に合うな、と思いながら皆んな無言で花火を移していく。円を描いて5人集ってやっていると、黒の半袖が汗に滲んだ。最後の花火の玉が落ちてせーのと皆で言った

「南無ー観世ー未甘陀ー・・・禪」

 手を合わせる。そしてどうすんの?と聞こうとすると彼女が全員持っていた線香花火の手持ちを集め、あたしに渡した。

「お願い」

 あたしは頷いて、煙草に火を着け、それを頼りにテトラポットに置きに歩いて行った。重たい足音が聞こえる。波打ち際を通ってビーチサンダルを濡らしながら歩くと、寄せて濡れた脚元にパシャりと音が聞こえて波が帰って行った。テトラポットに置いて帰ろうとした時、わんと犬が吠えた。何百人の足音が揃って聞こえる。あたしは煙草を捨て逃げようと翻して走った。あいつが車のドアを開けて乗り込もうとしてる。あちこちで犬が吠える音が聞こえる。やばい。

 その時、彼女が悲鳴を上げた。あたしは息を切らしながら階段を登る。風が一筋走って首に当たって、激痛が走る。手で押さえて見ると手に血が滲んでいた。

「全員乗れ!」

 あいつの叫び声が聞こえた。あたしは階段を登り切って運転席に素早く乗り込む。車のエンジンをつけライトをつけると焦ってパッシングしてしまった。その時、曇った風を吸い込んでぐぅと息ができなくなる。窓を閉めて喉を押えていると、あいつが気付いてシートを倒してあたしを後部座席にひきずり移し、運転席に乗り込んで車をバックさせようとギアを入れた。

 とたん、窓という窓に平手がべたべたとついた。全員が悲鳴を上げた。

 今まで黙っていた彼女が眼鏡を外して行った。

「巻いて帰ろう」

「散」

 あたしは、息をするのに必死で彼女を掴む。車が動いて砂山を乗り越えて走り去った。

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