【プロローグ】
――体が鉛のように重い。
公園の、砂場の上に仰向けに寝ている。
見上げると、数人の男女が、俺を見下ろして嘲笑っている。
「うっわ、コイツなんかおれの顔にらんでる……」
「マジキモいんだよ!こっちみんな!!!」
顔に大量の砂をかけられた。
息が苦しい……。
逃げたい。
しかし、この場から逃げようにも、両手両足を踏まれていて体が動かせない。
「死ねや!!!」
「消えろゴミ!!!」
左右から脇腹を強く蹴られる。
体中に痺れと痛みが走る。
「あーもう、マジやっちゃうか。このブタ」
ショートヘアの少女が、醜悪に満ちた表情で、俺の顔をにらみつける。
「もうあれ、やっちゃおうよ」
「オッケー」
少女に指示されて、少年がリュックの中からお菓子の缶のようなものを取り出した。
少女はそれを受け取って缶を開けると、俺の顔の前でかがんだ。
カサカサ……カサカサ……
缶の中から、なにやら音が気こえる。
背筋がスーッと凍えるような、嫌な音……。
「これ、見える?」
缶の中には……大量の毛虫が蠢いていた。
カサカサ……カサカサ……
カサカサ……カサカサ……
少女は缶を、俺の顔の上にかかげた。
そして……ゆっくりと、その缶を持つ手首を返す…………。
「じゃ、死んでね~」
っっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「……っはあっっっ!!!!!!!!」
――飛び起きたのは、ベッドの上だった。
もう何度この悪夢を見たことだろうか。
一生、この悪夢からは逃れられないのだろうか。
「ふうっ……」
強い虚脱感におそわれながら、スマホを見る。
6時10分……少し早いけど、もう起きるか……。
――俺、進堂晃は私立銘実学園に通う高校二年生。
東京の高校に通っていたが、一か月前に転校してきた。
いや、正確には「戻って」きた。
元々、この田舎町に住んでいたのだが、とあることをきっかけに小学生の頃に東京に引っ越した。
東京での生活は何不自由のない、充実したものだった。
両親は俺を本当に大切に育ててくれたし、学校には仲の良い友達だってそれなりにいた。
それでも俺は、全てを東京に置いて、一人でこの町に戻ることを決意した。
たった一つの目的のために――。