反逆の意志
戦の初日は昼頃に始まり、夜へ差し掛かる頃に終わった。
「小隊の被害は?」
オリヴィエは、初日の戦闘での戦死者を確認する。
「俺たちの小隊からは三十三人が、傭兵団全体だと八百人近く死んだみたいだ。連隊も一つ壊滅状態らしい。まぁ、かなり数は抑えられたほうだな」
リガールは落ち着いた様子でそれを言う。
しかし、下唇を軽く結ぶその姿から、小隊の半分近い数の人間が死んだことに、少し悔しがっているように見えた。
「オリヴィエ」
すると、背から凛々しい声が聞こえた。
振り向くと、そこには連隊長の姿があった。
「本隊より合流指示が出た。至急身支度を整えろ」
「え、合流ですか?」
オリヴィエ自身、いずれ本隊との合流は予想していたが、それを遥かに上回る早さでの合流命令に驚きを隠せなかった。
「夜のうちに移動を済ませたい。早めに準備を整えろ」
「待ってください」
この場を立ち去ろうとした連隊長を、オリヴィエは呼び止める。
「なんだ?」
「早すぎませんか? 連隊が一つ壊滅状態とはいえ、残りの連隊はそこまで被害が大きいわけじゃないです。それなのにどうして?」
「…………少しこっちに来い」
連隊長は小さな間を置いてから、着いてくるように言うと、来た方とは別の方へ歩き始める。
「あれ? 隊長、連隊長、どこへ行くんですか?」
傭兵の一人が、二人を見て声をかける。
「手を止めるな。俺が戻ってきたら直ぐに出発できるようにしておけ」
「あ、はい」
連隊長の指示に、傭兵は止めていた手を再び動かし始める。
そうして、オリヴィエは木々が周りよりも多く、視界の悪い場所に連れてこられる。
「オリヴィエ、今から話すことは、どうか内密にしてほしい。できるか?」
「え……ま、まぁ、連隊長がそう言うなら……」
「そうか、ありがとう」
連隊長は、視界が悪い中でも分かるぐらいには深く頭を下げ、礼を言う。
「頭を上げてください……! 貴方は子爵ですよ!? 平民に頭を下げるなんて……」
それを言うと、連隊長は頭を勢いよく上げ、話を始める。
「まずは、俺がやりたいことから言おう。団長を、暗殺したい」
「……………は?」
唐突すぎる連隊長の発言に、オリヴィエは耳を疑った。
「え? どうしてですか?」
「あの人は、もうそろそろで歳が五十を超える。そのせいで、最近は判断も鈍り始めている。それに加えて、貴族の誇りを守るためだとかで兵を無駄に死なせている。俺たち傭兵は、誇りとかで戦っちゃいけない、誇りを捨てるからこその傭兵なのに……」
今の団長の欠点を、連隊長は端から順に並べていく。
「今日の戦だって、本当は被害も伝えられた数の倍はある。団長は隠したんだ。それに加えて、後方に残る本隊だけでの退却という案も出してる……!」
「な! そんな!」
オリヴィエは驚愕する。
「このままでは、この傭兵団は腐りきって滅ぶ! だからこそ、暗殺すべきなんだ。暗殺の計画はできている。そのためには、お前の力が必要なんだ。どうか力を貸してほしい」
連隊長は真っ直ぐな目を向けていた。
オリヴィエは決断を下す。
「できません」
オリヴィエは断る。
「そうか! お前なら決断してくれると信じて……! は? 今、なんて?」
オリヴィエの大きな予想外の言葉に、恐ろしいほど連隊長は目を見開いた。
「……たとえこの傭兵団が腐っていたとしても、俺の判断であいつらを危険に脅かすようなことは避けたいんです。ですので、できません」
「…………」
森にしばらく沈黙が降りる。
「…………そう、か……」
連隊長が口を開く。
「!!」
その途端、一気に背筋が凍りつくのを感じた。
「あくまでも、お前はあの男の側につくんだな?」
連隊長は、背にこしらえたブロードソードを抜くと、オリヴィエに突きつけこう言った。
「なら、ここで死んでくれ」