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オリヴィエの歌  作者: ずここ
2/5

負け戦の始まり

「なんとか、もう半月周もちそうだな」


リガールは落ち着いた声で言った。


月周

一年を分ける、「〇〇期」の中で更に分けられる周期のことを指す。


そして現在は、氷皇の期・十七日だ。


「だが、これじゃ次の戦までには多分もたないな」


リガールの言葉に、オリヴィエは苦しい現状を返事の言葉にする。


「また、半月周したらどこかを略奪か……やらなきゃ生きられんことが分かってても、戦以外の殺しは、ここに妙に応える」


そう言ってリガールは自分の胸を親指で指す。


「だからこそ、俺たちは戦って、生き抜いて、殺した人間に礼をするんだ。生かしてくれてありがとう、ってな。俺たちは間違っていない」


オリヴィエは低い声で、心に言い聞かせる。


その晩、オリヴィエたちは手に入れた物資を、団長に根こそぎ没収された。




「え? もう?」


オリヴィエの腑抜けた声が森に響く。


あの略奪から約半月周した頃、オリヴィエたちは、大陸最大の面積を持つ、ガントの森に足を運んでいた。


このあたりに戝が出たとのことで、その討伐依頼をとある国から任された。

その賊はかなりの手練らしく、国の守備隊の小隊が討伐に出たが、帰ってきたのはたったの三人だったという。


そのため、傭兵団の中でも特に強い小隊が五つ集まり、連隊でこの任務に臨んでいた。


連隊

戦地に赴く際、小隊を五つの四百人程度からなる部隊を連隊と呼ぶ。

連帯を指揮するのは、連隊長と呼ばれる地位を持つもので、この連隊長は、貴族出身であることが絶対条件になってくる。つまりは、ある程度の学がなければ、まずなることはできない。


「国に戻るつったって、まだ戝の討伐どころか、奴らを見つけてすらいないんだぞ?」


そんな中、部隊に帰還命令が出された。


「…………連隊長の話によると、国からの指示らしくて……団長も逆らえないらしいんですよ……」

「連隊長が言っていたのか……なら、本当の可能性は高いな……」


そして、オリヴィエの小隊を指揮する連隊長は、義理堅く、情に厚く、真っ直ぐな性格で、とにかく良い人だ。

五年以上いるこの傭兵団で、その連隊長が嘘をついているところをオリヴィエは見たことがなかった。


「仕方ない、引き返そう」


このときオリヴィエは、少し心がざわついていた。こんな仕事を長年続けてきたせいか、よからぬことが起きるタイミングがだいたいわかってきていた。


オリヴィエたちが国内に戻り、そのざわつきが示した通り、オリヴィエの予想は的中した。


どうやら、戝討伐の依頼を受けた国が戦争を始めるらしい。

それも、「ヴァルセボ帝国」。超大国だ。


ヴァルセボ帝国は、大陸で最も大きく、強い。

どれだけ武勇に優れている国も、この国との戦争はしたくないといい、多くの戦地を駆け抜けてきた屈強な傭兵たちは、どれだけ金を積まれようと、この国を相手にすることに関しては首を横に振る。


オリヴィエたちが雇われている国は「フィルリア」という王政の国だ。

はっきり言って、弱い国だ。


数年前にもヴァルセボに戦争を仕掛けたが、そのときはたった三日で戦争が終結した。その際にフィルリア側からの不可侵条約も結んだ。


それより数年前にも、「レグリア共和国」と呼ばれる、かつての軍事的超国家と同盟を結んで戦争をふっかけたが、約半年で終結。その後レグリア共和国は帝国と合併し、帝国の一部となった。


「はっきり言って馬鹿だろ。国王」


リガールは率直な感想を述べる。


「二回も勝負をしかけてどちらとも負けてるんだぞ? 今やったって勝てるわけ無いだろ。やっぱ馬鹿国王だな」

「まぁ、そう言うな」


オリヴィエは、リガールの止まらない暴言に制止の声をかける。


「国王だって焦ってるんだ。年々減っていくばかりの国民からの信頼。同盟連合からの強制脱退。そして、臣下からの信頼もだ」


そう、フィルリア王国は、崩壊しかけている。

不必要な他国への牽制などの度重なる暴挙により、大陸の北側に位置する国々が加盟する同盟連合から強制脱退を食らわせられ、それらが原因で国民の反乱も起こり、最近は国王の暗殺未遂もあったそうだ。


「だから、その焦りからこんな決断に至ったんだろうな。もう侵略するしかないって。ま、それがこの国の破滅にもつながるんだが……」


オリヴィエら顔を下げながらそれを言う。


「というより、団長はどうするんだろう? やっぱり王国側につくのか? それとも帝国で安全な道を取るのか?」


リガールは分厚い筋肉の腕を組み、首を小さく傾げる。


「たぶん、自分の地位を守るために王国側に着くだろうな。あの人はそういう人だ」

「だよなー。やっぱそうだよなー。こんなんだから貴族ってのは嫌いなんだよ……」


団長は、王国の子爵の位に着く貴族だ。

そのため、家の誇りを守るためだかなんだかで、おそらくは王国側に着く。実際、数年前の帝国との戦でもそうであった。


「…………そう、だな……」


リガールの溜息言葉に、オリヴィエは少しのどが詰まったように返事をする。


こうして結局、オリヴィエたちは王国側に着くこととなり、もう半月周後には戦争が始まった。




「全軍突撃ーっ!」


王国の将軍の合図とともに、フィルリアとヴァルセボを両断する山岳地帯で戦は始まった。


王国は従軍して戦果を出せば、それ相応の金を払うと布令を出し、自分たちを加えた傭兵団三つを雇うことに成功した。

それらの傭兵団と正規軍を合わせて、総勢十万人を超えた。


たった半月周で良くこれだけ集めたものだと、オリヴィエは内心感心していた。


「てめぇら! 死ぬんじゃねぇぞ!」


そして、連隊長の合図とともに、オリヴィエたちも進軍を開始する。


オリヴィエは愛用の剣であるクレイモアを、リガールは愛用の剣のツヴァイヘンダーを挙げ、帝国兵へ突撃する。


オリヴィエの小隊も、二人に続いていく。


オリヴィエはその身体では想像できないほど軽いステップで敵を翻弄しながら右に左に斬り伏せ、リガールは腕の二倍以上ある巨大な刀身を振り回しながら敵をねじ伏せる。


「出たぞ! 朱桃しゅとうのオリヴィエと嚮刃きょうじんのリガールだ!」


帝国兵が声を張り上げた。

オリヴィエの二つ名である朱桃は、返り血を浴びたその髪色から、リガールの二つ名である嚮刃は、先へ進んで向かい、その巨剣を振るう姿からそれぞれ名付けられた。


「戦果を上げたいものは前に出ろ! あの二人の功績はデカいぞ!」


そう言って、戦果目当ての帝国兵が三十人程前に出る。


オリヴィエは右へ、リガールは左へそれぞれ分かれ、兵を分散させる。


「俺の名はグラッス! オリヴィエ! お前をやって俺は高みを目指す!」

「そうかい……! なら、俺もお前を殺して高みを目指す」


グラッスと名乗った帝国兵は、手に持った長槍を突きだす。

オリヴィエはそれを軽く避けると、虎の如き猛撃をかます。しかし、グラッスと名乗った帝国兵はそれを紙一重で避けた。


「あっぶねぇ! おぉらっ!」


するとすかさずもう一突き。それはオリヴィエには優しく、この帝国兵には鋭い。

クレイモアで卵を持つよう、槍を優しくいなすと、オリヴィエには研がれ、帝国兵には尖った刃が帝国兵の顔面に直撃する。


「ぐうぇらっ!」


刺さった直後、すぐクレイモアを抜き、円環を描くように振って血を払う。


「さぁ! どんどん来い! 負けると分かっていても、やるなら徹底的にだ!」


オリヴィエの周りには、帝国兵が取り囲んでいた。




「私の名はナールガリアス・フォン・ピトリッチェ!」


美しい毛並みの黒馬にまたがり、鉄の突撃槍ランスと白銀の鎧を身に着けた騎士が、リガールの前に立ちはだかる。


「私は貴公との決闘を申し込―――!」

「話が長い」


その一言を告げると、リガールはツヴァイヘンダーを大きく横に振り、騎士を仰向けの形に落馬させる。


「ぐおっ!」


そこへすかさず、罪人に杭を刺すようにしてツヴァイヘンダーを左胸にぶち込む。


「があっ! ……な、なんとっ! 卑劣……な……」


そこで騎士は息絶えた。


「なるべく話は短くしろ」


それを言いながらツヴァイヘンダーを抜くと、リガールは背のある方に顔を向け、叫ぶ。


「さぁ! もっと来い! 負け戦だとわかっていても、やるなら徹底的にだ!」


その二人の狂姿に、帝国の兵たちは口々に言う。


「化け物め……!」

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