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響界のレゾナンス  作者: 近松 叡
始まりのプローロ
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M05. 符術

 物はついでだと他にも気になったことを聞いてみることにした。


「ところで、ロディーナさんはあそこで何をしてたんですか?」


「私は、プローロ村の村長さんの依頼であの辺りを調査していたんです。音素濃度が高いとは聞いていたんですが、まさかホロウノートが発現するなんて…。

ソーシさんには本当に助けられました」


「ホロウノート?」


「ソーシさんが倒したあの魔物ですよ」


「あぁ、あいつか。うるさいだけのやつでしたね………え?」


 爽志はそこまで言って違和感を覚えた。ロディーナが聞きなれないことを言ったからだ。


「ま、魔物?今、魔物って言いました?」


「はい、ホロウノートは魔物です。音素濃度が高い場所に発現するんですよ」


「い、いや、そうじゃなくって…」

(何言ってんだ?確かに変なやつだったけど、アレが魔物?)


「なんです?」


「あの、つかぬことを伺いますが、この辺りには魔物が出るんですか…?」


「えぇ、頻繁ではありませんが…。ただ、今回の様なことは珍しいことです。同時多発的に音素濃度が乱れる場所が出来るなんて…」


(…なんか状況的になりきりコスプレって感じじゃないよな、これ…)


「もう一つ聞いても良いですか?」


「どうぞ」


「ここって、地球ですか?」


「ちきゅう?…ごめんなさい。ちょっとわからないです」


「えーっと、星の名前って言ったら良いのかな?この星のことを何て呼んでます?」


「あぁ、それなら。…この星はクラルステラと呼ばれています」


(聞いたことないぞ…。マジか…頭がこんがらがってきた)


「あ、泉が見えてきましたよ!あそこで休息を取りましょうか」


「は、はい。わかりました」

 

 泉のそばに腰を下ろす。ソーシの頭は混乱しっぱなしだ。自分が何故こんなことになっているのか、全く理解が出来ない。


「あの、ソーシさん。私からも一つ伺っても良いでしょうか?」


 朗らかだったロディーナが一転、神妙な面持ちになる。


「は、はい。なんでしょうか?」


「先ほど私を助けていただいた一撃のことです。

…私はボーダーチューナーになるために、師匠の下で修業し、たくさんの書物を読み漁りました。けれど、ソーシさんが放った符術については見たことも聞いたこともありません」


 ロディーナは少し戸惑ったような表情だ。不安と好奇心とが入り混じっているように見える。


「初対面にも関わらず失礼な質問かもしれません。でも、どうしても気になってしまって…。あれは何という符術なのでしょうか?」


「あれって…。あの白黒のやつをぶっ飛ばした…?」


「はい、あれです!」


 爽志は答えに窮した。ぶっ飛ばしたあれ、と言うのはボーカルが表現方法の一つとして使うシャウトというものだ。

 爽志にとっては軽音楽部での活動で身に付けたボーカル技術に過ぎないので、特別なものではない。


「えーっと、シャウトってやつです」


「シャウト?」


「そうです。ボーカルが歌う時に使ったりするやつで―」


「ボーカル!それは知っています!《響楽団ギルド》に所属するルーディオが持つ肩書のことですね!…では、ボーカルが持つ《天来符術》(てんらいふじゅつ)を使われたのですか?!」


 爽志は聞いたことのない言葉の羅列に思考停止しそうだ。このままではかなわないと、逆に質問をすることにした。


「あ、あの!俺ここに来るのは初めてで、ロディーナさんが言っていることが全然わからないんです…。もし良かったらこの辺りのこと、教えて貰えませんか?」


「…私ったらごめんなさい!つい興奮してたくさん質問しちゃいました。

ソーシさんのお話も聞かないとですよね。…どうぞ!私でわかることならお答えします」


「えっと、そしたらまず、…符術ってなんですか?」


「符術とは、超常的な現象を引き起こす方法のことです。例えば、火を燃やしたり、水を流したり、風を吹かせたり…」


「す、凄いですね…。本当にそんなことが?」


「はい、やってみせましょうか?」


ロディーナはそう言うと近くの枯れ木に向かってゴニョゴニョと何かを唱え始めた。


「我はくべる 炎の因子 炎音ホノン 一色いっしき!」


「フラマ!」


 ―――ボウッ―――


 ロディーナの手のひらからこぶし大の火球が放たれ、枯れ木が燃え上がる。そして、そのままパチパチと音を立て、燃え尽きてしまった。


「こんな感じです」


「凄い!なんだこれ!凄い!…え?!凄い!!」


 爽志は驚きのあまり語彙力が無くなった。しかし、それほど超常的な現象だ。


「今のは炎音ホノンという属性の符術です。一色いっしきという初歩的なものですが、火を起こすくらいならこれで十分ですね」


「こ、こんなこと現実に引き起こせるなんて、信じられないです…」


「これくらいのことなら子供でも出来ますよ。恐らくソーシさんも術色じゅつしきを学べばすぐに使用出来るでしょう」


 爽志は自分の両方の手のひらを握っては開き、握っては開きしてみる。自分にそんな力が眠っているとはとても思えない。


「ただ、それには音素というモノが必要になります。簡単に言えば燃料ですね。多くは自然界に存在するものですが、生物や無生物にも備わっています。今の炎音は私自身の音素を放出したものです」


「…音素。それって俺にも備わっているんですか?」


「勿論。誰にでも備わっていますから」


「俺にも…!…あの、自分自身の音素って、いくらでも湧いてくるんですか?」


 ロディーナは首を振った。


「いいえ、残念ながら有限です。使い過ぎると段々と頭が重くなってきて、最後には気を失ってしまうでしょう。死んでしまうほどではありませんけどね」


「そうなんですね…。あ、もう一つ聞きたいんですけど、ボーカルが持つなんとかって符術は―」


―――ゴォオオオオ―――


 爽志の声を遮るように突如として強烈な風が吹いた。

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