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響界のレゾナンス  作者: 近松 叡
始まりのプローロ
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M03. 異世界のムジカ

(逃げないと…!)


幸いにもホロウノートは発現したばかりで、まだこちらには気付いていないようだ。


(今のうちにどこか隠れられる場所を…!)


 出来るだけ冷静に周囲を見回す。すると、崩れた崖の間に人が入れるほどの穴があるのが見えた。ここからでは中がどうなっているかはわからないが、今はその穴に逃げ込むしかないようだ。ホロウノートはまだ気付いていない。ロディーナは意を決して穴へと走ることにした。


「…今!」


「?!…ヴヴ…ヴヴヴ・・・ヴヴ」


ホロウノートがこちらを振り向く。だが、ロディーナは構わず走り続けた。


「ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!」


 ホロウノートがロディーナに向け、咆哮を上げる。咆哮は衝撃波となりロディーナを襲う。


(間に合って!)


―――ドォオオオン―――


 間一髪、ロディーナは穴へと滑り込んだ。


「はぁ…はぁ…。危なかった…。とりあえず、これで少しは時間が稼げる」


 あれほどの叫び声だ。村の方へも異常は伝わっただろう。しばらく、ここで耐えればきっと助けが来てくれる。


「入口近くよりは奥の方が良いよね…」


 そう呟いてロディーナは穴の奥の方へと進もうとしたが、中は真っ暗闇で足を踏み出すのも一苦労といった状態だ。このまま進むのは危険だった。すると、ロディーナは詠唱を始める。


「我は恵む 光のしるべ 光音ライトン一色いっしき!」


「ルーペス!」


―――パァアッ―――


 光源の無い場所で使う初歩的な符術だ。光が穴の中を照らし出す。中は思っていた以上に広く、十人ほどは問題なく入れる空間だった。

 そのまま穴の奥の方へと歩いていくと、建造物らしきものが浮かび上がってきた。目を凝らしてよく見て見ると石で出来た祭壇のようだ。そして、祭壇の上には変わった服装をした女神像が祀られている。


「…なに?ここ…。どうして裏山にこんなものが…」


 ロディーナは祭壇の下部に文字が刻まれていることに気付いた。ところどころ擦れてはいるが、読める部分もある。何が書いてあるのか、読んでみることにした。


《異世界のムジカを召喚する時、世界の音は、調律されん》


「…一体、どういう意味だろう?」


 続きを読み進めていくと、こう書いてある。


《船を渡す者よ 代価を払い 共に歩め》


「船…代価…?」


―――ドゴォォオン!!―――


 その時、洞窟の入口付近で大きな爆発音がした。ホロウノートが発生させたものらしい。


(気付かれた?!)


 ロディーナは慌てて祭壇から離れ息を潜める。だが、ホロウノートに動きはない。どうやら、まだ見つかったわけでは無いようだ。しかし、それも時間の問題だと思われた。


(まだ助けは来ない。いったいどうしたら…)


不意に、どこからともなく声が聴こえてくる。若い男の声のようだ。


(音楽…好きな・・・は …なく…友だ。俺の中で)


「誰?!」


 返事は無かった。周囲を見回しても誰かがいる様子はない。その間に、再びホロウノートが洞窟の入口に攻撃を仕掛けてきた。どうやら中に何かがいると感づいたようだ。入口が大きく崩れ、中の様子がむき出しになる。


(ダメッ!このままじゃ…!)


(…死ぬ…か…もっ…親孝行しとく…だったな…)


 再び、男の声が聴こえた。声を聴いたロディーナはハッとした表情で祭壇を振り返った。先ほどとは違い、女神像がぼんやりと光をまとっている。


「異世界の…っ、ムジカ?!」


ロディーナは祭壇の前へ駆け寄り、ひざまずいて祈った。


「どうか、お助けください!異世界の神よ!」


女神像の光が少しだけ増した。だが、それ以上何かが起こる気配はない。


「ど、どうしたら良いの?!」


 その間にもホロウノートは近付いてくる。その顔は笑みを浮かべ、醜く歪んでいる。ロディーナの耳にさっきの声が再び響いてきた。


(こ…れが…代償か…よ)


「代…償?」


 ロディーナは何かに気付いたように叫んだ。


「代価!!!」


「ジュゼィさんに貰ったお花!!…えっと、それと…ごめんなさい!今日はこれだけしか持ち合わせがなくって!!!」


 ロディーナは祭壇にラジアータの花と、銅貨銭6枚を供え、再び祈った。


「異世界のムジカでも何でも良い!

どうか助けて!…心優しい人!」


―――パァアアアアア―――


 その瞬間、女神像が煌煌とした輝きを放ち、辺りが閃光に包まれた。





「ここは…?」


 音方 爽志は見慣れない場所に立っていた。辺りを見回すと、見慣れない女性と、祭壇。そして、見たこともない生き物がこちらを見ている。これは夢か?と思いかけた時、女性が必死の形相で話し掛けてきた。


「お願い!助けてください!」


 正直なところ状況は全く飲み込めないが、その言葉を聴いた爽志は迷わずに言い放った。


「…任せろ!!


 テメェがどこのどいつかなんてわからねぇし、生き物なのかそうじゃないのかもわからねぇ。…けどなぁ?テメェが悪い奴だってのはすーぐにわかったぜ!」


「ヴ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オオオオ!!!」


 爽志のただならぬ雰囲気に警戒心をあらわにしたホロウノートが威嚇をする。


「ほー、テメェがシャウトすんならこっちもシャウトだ…。…覚悟しろよ?」


 その言葉に触発されるように、ホロウノートは爽志に狙いを定め勢いよく突っ込んできた。


 爽志は迎え撃つように足を踏ん張る。そして―


「ァァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 爽志は声の形がわかるほどの凄まじいシャウトを放った。刹那、その音圧によりホロウノートはこの世界から吹き飛ばされていた。


「ふん、デカいのは図体だけだったな」


 ロディーナはそれを見て、ただ口をパクパクさせるほか無かった。

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