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響界のレゾナンス  作者: 近松 叡
ペルティカの夜想曲
31/45

M30. 覚悟

「…あはは、ありがとうございます。でも、もうクタクタですよ…」


「はは、俺もです。あのマメ白黒め、痛めつけてくれやがって…あれっ?!」


 爽志は言葉にして気付いた。一体どこに行ってしまったのか、先ほどまで爽志を取り囲んでいたリトルホロウたちの姿が見えないのだ。


「そ、そうだ!あいつらどこに?!」


 辺りを見回しても見当たらない。爽志は不意に気になって爆発した方に目を向けた。爆発の中心では土煙が収まってきている。そこには何も残っていないだろうと思われたが、土煙に混じってもぞもぞと(うごめ)く影が見えたような気がした。見間違いかと思わず目を擦る。しかし、目を凝らしてよく見てみると地面に何かが転がっているのがわかった。


「あ、れ…」


 それは先ほどまで爽志を取り囲んでいたリトルホロウたちだ。だが、先ほどまでの姿とは違い、体の輪郭がぼやけて今にも消えてしまいそうな状態に見える。


「…あいつら、なんで倒れて―」


―――グォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!―――


 その時、土煙の中心部から叫び声が聴こえた。二人は声がした方に目を向ける。やがて土煙が収まると、そこからホロウノートが姿を現した。


「ホロウノート?!どうして?!」


ボーダーブレイクは確実に直撃したはずである。そうなればホロウノートであってもただでは済まない。仮に直撃していなかったとしても大きなダメージを負うはずだ。しかし、ホロウノートには傷一つ付いていない。


「まさか…無傷だなんて…」


 爽志はハッとして倒れているリトルホロウを見た。


「…そうか!リトルホロウ!」


 倒れていたリトルホロウ。つまり、ホロウノートはリトルホロウたちに自らを守らせたのだ。


「何てこと…。じゃあ、さっきの叫び声はリトルホロウを呼ぶ声だったの…?」


「…そういうことですね。盾になれって命令をしたんでしょう」


「そんな…ホロウノートにそんな力があるなんて聞いたことがない…」


「ガァアアアア!!」


 ゆっくりと考える暇もなく、ホロウノートが咆哮をあげた。その顔は危うく消滅されそうになった危機感からか、怒りの感情が読み取れるほどに歪んでいた。前かがみになり、攻撃の体制を取っている。


「ロディーナさん。…まだ動けますか?」


「えぇ、大丈夫…」


「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」


 今度は咆哮の衝撃波が襲ってくる。二人はギリギリのところで身を(かわ)す。二人がそれまで立っていた場所は咆哮によって(えぐ)られていた。少しでも避けるのが遅れていたら今頃は地面に這いつくばっていたことだろう。


「ソーシさん!符術を!」


 爽志は黙って頷き、詠唱を始める。二人の手のひらに再び火球が形成された。ロディーナの合図でフラマを放つ。しかし、ホロウノートは火球を見ても避けようとしない。その代わり、手を上に振り上げ、鋭い爪を一気に振り下ろした。振り下ろされた爪が火球を切り裂くと、そのまま火球は爆散してしまった。


「ウソだろ?!」


「まだ!もう一度行きます!」


 だが、もう二人の限界は近い。符術が使えるのも後わずかというところだろう。ホロウノートがポーションを飲む時間をくれるとも思えない。しかし、このまま諦めるわけにはいかなかった。

 二人は再び詠唱を始める…が、それをホロウノートが許さない。詠唱するタイミングで爪を振り下ろすとその先からかまいたちのような衝撃波が襲ってきた。不意打ちのような攻撃に二人は反応が遅れてしまう。


「危ない!」


「キャッ!」


 致命傷は避けられたものの、ロディーナが足に攻撃を受けてしまった。爽志はホロウノートからかばうようにして駆け寄る。


「ロディーナさん!大丈夫ですか?!」


「だ、大丈夫です。まだ戦えますよ…」


 ロディーナは足から酷く出血していた。強がってはいるが、早く手当てをしなければ危ない状況だ。


「何言ってるんですか!こんな足じゃ無理ですよ!」


「で、でも、このままじゃペルティカの村が―」


―――ヴォオ゛オ゛ォ゛!―――


「マズい!避けて!」


 二人は間一髪で避ける。しかし、ロディーナの怪我の影響もあり、そう何度も避けられるものでは無い。


(どうする?!このままじゃやられちまう!)


「ソーシさん、肩を貸してください…!村の皆さんのためにも、絶対にここで食い止めるんです…!」


「?!ロディーナさん無理ですよ!一旦退きましょう!」


「…ダメです。私たちが逃げてしまったら村を守れる人が誰もいなくなってしまう」


「でも、このままじゃ死んじゃいますよ!!」


「…大丈夫、私は死にませんよ。だって、私が死んだら助けられるものも助けられなくなるじゃないですか」


 ロディーナはフラフラと倒れそうになりながら、爽志を安心させようとぎこちない笑顔を作った。


「ロディーナさん―」


「オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」


「?!…危ない!」


 ロディーナが爽志を突き飛ばした。咆哮の衝撃波が二人の間を縫うように通り抜けていく。爽志はロディーナのおかげで無事だったが、ロディーナは衝撃で吹き飛ばされてしまった。爽志が慌てて抱き起こす。


「ロディーナさん!どうして?!」


「…ソーシさんが危なかったから…体が動いちゃいました…」


(自分のことより、俺のことを…!)


 ロディーナはもう立てそうもない。その様子を見て、ホロウノートはしてやったりという表情だ。そして、今度は爽志を仕留めるために再び攻撃態勢を取り始めた。


「ソ、ソーシさん…逃げて…」


 自分のことより、他人の心配をする。そんなロディーナの姿に爽志は心を決めた。


「…ロディーナさん、大丈夫。俺がやる…!」


 爽志はそう言うと抱き起こしたロディーナをゆっくりと地面に寝かせた。


「ソーシさん…?」

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