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響界のレゾナンス  作者: 近松 叡
ペルティカの夜想曲
17/45

M16. 見たこともない世界

 爽志とロディーナがプローロ村を出発してから数時間が経過していた。その間、ずっと歩いていた二人は街道そばの木陰に腰を下ろし、休息を取っていた。ここまでの道中、爽志は開拓されていない大自然に目を奪われていた。どこまでも続く平原、頂上が見えない山、向こう岸が霞むほどの大河、大きな口をぱっくりと開けた洞窟。どこを見ても爽志が住んでいた場所とはスケールが段違いだ。都会どころか、田舎でも見られない景色にただただ感動するばかりであった。あまりの感動を誰かと共有したいあまり、ロディーナに嬉々として話し掛けていた。


「ロディーナさん、この辺りって本当に凄いところですね!俺、今まで生きてきてこんな景色見たことないですよ!」


「そうなんですか?確かに、ここファース地方は自然が豊かな場所だと言われていますね。

でも、そんなに嬉しそうにしている人は初めて見ました」


 ロディーナは新鮮なリアクションをする爽志を見てニコニコと微笑んでいる。しかし、このままのペースでは今日中にアルファベースに着くのは難しい。


「ソーシさん、アルファベースまではまだまだ掛かりそうです。今日はもう少し歩いて、どこかの村で宿泊させて貰いましょう」


「はい、わかりました。…あ、俺が景色に見とれてたせいで歩くペースが遅くなっちゃったんですよね?…すみません。俺がいた場所では見られないような景色ばかりだったから、ついつい見たくなってしまって」


 爽志はローグ村長の依頼でアルファベースに向かっているというのに、自分はまるで旅行気分でロディーナに迷惑を掛けてしまったかもしれないと反省した。


「良いんですよ。元々、今日明日で着くような旅では無いんです。プローロ村のことは心配ですが、すぐにホロウノートが発現するような事態にはならないと思いますし、ゆっくり行きましょう」


爽志の心配をよそに当のロディーナはそれほど焦りが無い様子だ。それを見て爽志は少し安心した。


「ありがとうございます。あ、そう言えば、この辺にはプローロ村以外にも村があるんですか?」


「はい、地図によるとこのまま街道を歩いていけば《ペルティカ》という村が見えてくるはずです。私も立ち寄ったことはありませんが、プローロに負けず劣らず、豊かな村だという話ですよ」


「へー、そうなんですね!楽しみだな!…あ、すみません!」


「ふふ、そんなに畏まることはありませんよ。旅は楽しまないと損じゃないですか。ソーシさんはソーシさんの感じるままで良いんです」


「ロディーナさん…。はい、じゃあほどほどに」


「はい、そうしてください。ふふ」


「ははは」


 穏やかな空気だ。穏やかで平和そのものといった世界。爽志は昨日のことを思い浮かべていた。到底信じられないが、実際に目の当たりにした以上、音災というモノが存在することは間違いがない。ここが危険な世界であることは疑いようが無い事実だろう。元の世界に戻れなければこれから先も昨日のようなことが待ち受けているかもしれないのだ。

爽志は音災に遭って考えたことがある。そのことをロディーナに打ち明けることにした。


「あの、ロディーナさん。ちょっと相談があるんですけど…」


「はい?なんですか?」


「実はですね…。符術を学びたいんです。昨日はたまたま上手く行きましたけど、また同じことが起きた時に出来るとは限らないじゃないですか。

…だから、自分を護る力、周りの人を助ける力が欲しいんです」


「ソーシさん…」


「ダメですか…?」


「いいえ、そんなことありません!ソーシさんがそこまで考えているなんて思わなくって。

勿論、私で良ければお力になりますよ」


「ありがとうございます!」


「ちょうど良いものがあるんですよ。えっと、確か持ってきてたはず…」


 ロディーナはそう言うと、持ち物のカバンをゴソゴソと探り始めた。


「あった!ありました!…はい、ソーシさん!」


「これは…?」


 ロディーナが指し出したのはよく使い込まれた様子の緑色の本だ。


「初歩的な符術を記した入門書です。符術を学ぶ人が最初に必ず手に取る本としてとっても有名なんですよ」


「あ、ありがとうございます!」


 本を受け取った爽志は表紙をまじまじと見つめた。《符術の書・序》と書いてある。ランプロン道具店でもそうだったが、日本語とは似ても似つかない形だというのに爽志にはやはり読めてしまう。全く腑に落ちないが、読めるのであればそれに越したことはない。一旦、疑問には蓋をして有難く読ませて貰うことにした。


「でも、なんでこんな物をロディーナさんが?」


「私はボーダーチューナーという職業柄、各地を転々としているんですけど、立ち寄った村や町の子供たちから符術を教えてくれとせがまれることがあるんですよ。

誰彼構わず教えるわけではありませんが、そういう機会があったときのために持ち歩いているんです」


「なるほど…。じゃあ、これって子供用ってことですか…?」


「いいえ。勿論、子供にも理解出来る書き方をしてありますが、私自身初心を忘れないために読み返すこともありますし、必ずしも子供用というわけではありません」


「そうなんですね…!ありがとうございます!村までの道中で早速読ませて貰いますね!」


「はい、どうぞ。わからないことがあれば遠慮なく聞いてくださいね」


 しばらくして休息を終えた二人は出発した。そこからの爽志はさっきまでとは打って変わって周りの景色には目もくれず、ただひたすら本とにらめっこを始めた。途中わからないことがあれば、ロディーナを質問攻めにもしたし、試しに詠唱をしてもみた。だが、あの時のようにはなかなか上手く行かない。幸運にもフラマだけは発動出来るようだったが、威力はリトルホロウを消し去ったあの時ほどではなかった。

 爽志は上手く行かない焦りから眉間にしわが寄るばかりだったが、それを見るロディーナはどこか楽しそうだった。そうやって歩くうちに、前方に村らしきものが見えてきた。

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