婚約破棄した悪役令嬢が「ふはははは!よくぞ我が正体を見破ったな!」とか言ってきた上に、か弱い男爵令嬢が「ついに正体を現したな!魔王め!」とか言い出したんだが、どうしたらいい?
あらすじから読むことをオススメします。
「マオ!
貴様との婚約を破棄する!」
俺は婚約者であり、侯爵令嬢であるマオ・ウワルーイを指差し、高らかに宣言した。
「そ、そんなっ!
ヒロ・インカワ様っ!
お考え直しくださいましっ!」
俺に婚約破棄を告げられたマオが俺にすがってくる。
王子である俺に捨てられることは、国での生活がほとんど絶望的となるということだ。
「ふんっ!
貴様の悪行はすでに分かっているんだよ!」
「わ、わたくしは悪行などっ!」
その時、俺の後ろからおずおずと現れた女性が、俺の腕に隠れるようにマオに顔を見せる。
「ユ、ユウ・シャツヨ男爵令嬢っ!」
ユウの姿を見たマオが顔をひきつらせる。
「そうだっ!
貴様はユウに今までどれだけの嫌がらせをしてきたんだっ!
彼女がそれに、どれだけ傷付いたと思っている!」
俺がそう言うと、ユウは俺の背中に隠れ、その細い体を震わせる。
ああ。
なんて可哀想なユウ。
俺はユウを抱き寄せ、髪を優しく撫でてやる。
「……ヒロ様」
ユウは安心したように、その身を俺に預け、嬉しそうに撫でられる。
やはりユウはかわいい。
それに、華奢で可憐だ。
彼女は、俺が守ってやらなければ。
「あ、あ、あなたが!
そのようにヒロ様の庇護欲を煽るから!
わたくしの婚約者に近寄らないように注意しただけですわっ!」
マオが全身をわなわなと震わせて、こちらを指差す。
それに恐怖を感じて、ユウがきゃっと俺の背中に隠れる。
ああ。
かわいいなぁ、ユウ。
安心しろ。
俺がおまえを守るからな。
「うるさい!
貴様のそういうところが気に食わんのだ!
とにかく、貴様との婚約など解消だ!
さっさと出ていけ!」
俺が指を指して、はっきりと宣言すると、マオはあからさまにショックを受けた顔をした。
たしかに、マオのような背も高く、肉感的な体を持つ女も捨てがたいが、やはり俺はユウのようなか弱い女性を守っていきたいのだ。
「ん?」
わなわなと唇を震わせるマオの様子がおかしい。
「いつまでそこにいるつもりだ?
ほら。
さっさと出ていけ!」
俺に追い打ちをかけられ、マオは体をびくっと揺らす。
「……おのれ」
うん?
「おのれおのれおのれおのれ!
我の計画もここまでかぁ~!!」
「うわっ!」
突然、マオが異形の生物へと変貌した。
黒いマントを羽織ったそれは、おでこの横に2本の長い角を生やし、口には邪悪な牙が並ぶ。
眼光は鋭く、人を近付けない暗黒のオーラを纏っていた。
「きゃーー!!」
俺は思わず女みたいな声を上げていた。
や、やばい。漏らしそう。
周りの人々も叫び声を上げて逃げていく。
待って!
俺を置いてかないで!
「ついに正体を現したな!
魔王め!」
え?
ユウさん?
「ふははははっ!
よくぞ我が正体を見破ったな!
やはり貴様が勇者だったか!」
魔王さんとお知り合いでしたか?
「おまえがヒロ様に近付き、内側から王国を破壊しようとしていたことは分かっていた!」
え?そうなの?
「だから、貴様はそこのバカ王子に取り入って、我を追い出そうとしたのだなっ!」
あれ?いまバカって言った?
「当然だ!
このバカなら、すぐに私を庇護すると思ってな!」
ユウ?せめて王子はつけて?
「おのれ!
勇者め!
許さん!」
マオ、改め魔王は、両手をこちらにかざす。
「魔王獄炎波!」
「きゃーー!!」
魔王の手のひらからものすごい炎が襲ってくる。
この悲鳴は誰だって?
俺だよ!
「ふっ!
勇者聖光盾!」
ユウ、改め勇者様が軽く笑いながら左手を炎に向けると、光の盾が現れて、向かってくる炎をすべてかき消した。
「お、おのれ!おのれ!」
魔王は怒り心頭といった様子で、天を仰いで力を解放しようとする。
「させない!
いまだっ!
勇者雷光剣!」
勇者様が右手に出現させた剣を天に掲げると、雷が剣に落ちて、剣はバチバチと雷を帯びる。
「滅びよっ!
魔王!」
そして、雷光の速さで魔王に迫り、その首をあっさりとはねた。
「ば、ばかなぁ……ぐわぁぁぁぁーー!!」
そして、魔王は爆発して消え去った。
「きゃーーー!!!」
俺はその爆風に巻き上げられる。
え?いい加減慣れたまえ。
この叫び声は俺だ。
「きゃーー……あ、あれ?」
が、
「大丈夫ですか?
ヒロ様?」
俺は勇者様の腕に抱かれて、お姫様だっこ状態で助けてもらっていた。
「は、はい」
思わず敬語になってしまう。
「ふふ。
ヒロ様はかわいらしいですね」
そう言って微笑むユウは、誰よりもカッコよかった。
「脅威は滅びました。
ですが、いつまた新たな脅威が現れるか分かりません。
これからは、私がヒロ様のお側で、ずっとお守りしてさしあげますね」
「は、はい、ユウ様」
か、カッコいい~~。
そうして俺は、完全にユウ様の虜となったのだった。
数年後。
「ヒロ様!
ただいま帰りましたよ~!」
「ユウ様!
おかえりなさい!」
「「ママ!
おかえり~!」」
父のあとを継いで王となった俺は、ユウ様を正式に勇者に認定。
結婚もして、2人の子宝にも恵まれた。
ユウ様は王妃の立場でありながら、勇者として各地を点々とし、魔物を狩り続けている。
「マオ!
掃除は終わったの?」
「お、終わりました~。
ユウ様~」
こいつは魔王の成れの果てである。
ユウ様にやられ、魔力のすべてを失ったマオはただの人間になっていた。
それをユウ様が監視も兼ねて、城で召し使いとして使ってやることになったのだ。
今ではすっかり毒気も抜けて、子供たちの良い遊び相手になっている。
「魔王はいなくなったけど、まだまだ脅威はなくなりません。
愛するあなたと我が子と、そしてこの国を守るために、私の戦いは終わらないわ!」
か、カッコいい~~!
「どこまででもついていきます!
ユウ様!」
そうして、俺はユウ様の小さくて大きい背中に身を寄せるのだった。