断罪9
宴の後数日して父は郷里に帰ったが、私は城内に客人として滞在することを許されていた。父が大金を積んでくれたおかげだ。私は王子を探して城内の散策を始めた。昨日は少しロイにときめいてしまったが、私の推しはフランツ王子。グラついてはいけない。
王子の居室、ホール、訓練所、図書館、まで見て回ったが、どこにもいない。ゲームなら選択肢が出てきてどこかに必ずいるのに。ぼんやり歩いていると、いつの間にか普段使われていない中庭に出た。寂れた雰囲気。庭の植栽は枯れ、回廊の柱の優美な装飾を覆うように蜘蛛の巣が張り、埃が溜まっている。
「こんなところに王子はいないぞ」
聞き覚えのある声に私は顔を向けた。ロイだ。
「な、分かってたなら声をかけなさいよ。
…そんなことより、裏庭とはいえ王宮がこんなに荒れ果ててるなんて。掃除の担当はどこなの?」
「どこも。人手が足りなくて手が回っていないんだ。先代の国王は何度も無謀な戦争を繰り返していた。この国の財政はボロボロなのさ」
少し投げやりにロイは応えた。
乙女ゲームの世界の裏にこんな生々しい現実が。突きつけらて、目眩がしそうだったが、何事もお金が大事なのは、ここ数年の領地経営で身に染みていた。
荒れ果てた庭を振り返り、決意を新たにした。
「ねえ、それならなおさら、私は絶対に王子様と結婚しなくてはならないわ。そして、私はきっとこの国の役に立ってみせる」
「わかっている」
ロイは眩しそうにこちらを見て頷いた。
ロイは約束通り、王子と行動する機会を増やしてくれた。
剣技の試合、お忍びでの街への外出。
私たちは自然と3人で行動する機会が増え、昔の馴染みの時のように話ができるまでになっていた。決定的に距離を詰めることができないまま、数ヶ月が経ち、ついに本ヒロイン登場の日を迎えてしまった。