断罪8
「殿下、次は私と踊ってくださいませ」
「いえ、私の方が先ですわ」
「はいはーい、順番ね」
王子はあっという間に他の女性たちに囲まれてしまった。
少し寂しく思ったが、王子とのダンスは当分遠慮したい心境だった。
「大丈夫か」
ロイが近づき、グラスに入った水を差し出してくれた。
礼を言って受け取ったが、ちょっと引っかかる。
「あなた、どうして敬語を使わないの?」
咎めるように見つめた。
「敬語は王族と上官にしか使わないことにしている。俺は近衛隊志望だからな」
澄ました顔で返してきた。少しムッとしたが、こちらも気安く話せた方が楽かと思い直した。
王子の方に目を向けると、バストの大きな女性とクルクルと踊っている。随分と楽しそうだ。
気を取り直し、傍らのロイに気になっていたことを尋ねた。
「ねえ、さっき何を言いかけたの」
「ああ、貴族のお嬢様が自ら野良仕事しているというのは本当なのだと思ってな」
「!!!」
慌てて手を胸元に隠した。農作業をしていると、どれだけ気を使ってケアをしても、どうしても荒れてしまう。この国の貴族は労働を下等なものだと思っている。理解のあるお父様でさえ、農作業にどっぷり浸かる私を見て、最後は渋い顔をしていた。領内のことだし影響あるまいと思っていたが、王都にまで噂になっていたとは。恥ずかしさで居た堪れず、ロイから顔を背けた。
「俺の祖父は、元は他国の貴族の出だったんだが、政変で追われてこの国にきた。それまで家事一つやってこなかった祖母は特に苦労したらしい。俺の知っている彼女の手は既に節くれてボロボロだったが、優しい手だった」
思わぬ優しげな語り口調だったのでそっと顔を戻した。ロイの榛色の瞳がこちらを向いていた。
「貴女も良い手をしている」
ドキリ
微かに浮かんだ笑みを見て、不覚にもときめいてしまった。
恐るべき乙女ゲーの世界。
その夜、私は念入りに手をケアして眠りについた。