断罪5
言葉通り私たちは村に滞在し、畑を耕し、家畜たちの糞尿を集め肥料としてまいて周った。
夜には農民たちと暖炉の側で語らう。男たちは木製のコップの酒をちびりと啜り、女たちは繕い物をしながら耳を傾ける。癒しの一時だ。
ジャンが話しかけてきた。農民たちのリーダー格で、歳のころは50歳。私が最初に話しかけた瀬の高い男だ。
「しかし、伯爵家のお姫様がうんこだらで農作業なんてね、たまげたわ」
最初はおっかなびっくりだった農民たちも、共に作業するうちに気軽に声を掛けてくるようになっていた。
「種まきは時間との勝負だし、皆でやった方が早いからね」
私はニコリとして答えた。
「お嬢様、伯爵家の人間ともあろうものが、そのような気安い言葉遣いをしてはなりませんぞ!」
「セバスチャン、そんな格好で言っては説得力がないよ」
私は呆れて言葉を返した。
どれだけ忠告しても着替えなかったため、セバスチャンの服はひらひらが泥で茶色に染まり酷い有様だ。
「そうだ、セバスチャンさん、俺の服を貸してやるよ」
「いえ、私めは…」
「借りておきなさいよ。サイズは調整してあげるよ」
女たちに服を脱がされ、セバスチャンは野良着に着替えさせられてしまった。
2週間の種まきを終える頃には、文句たらたらだったセバスチャンも立派な農夫姿も板につき、屋敷に帰った際は門番に止められ厳しく検分されたのだった。
秋になると嬉しい便りが届いた。収穫量は例年の2倍となった。喜んだ父上は伯爵家の領土全ての農地の管理を私に任せてくれた。各地へはニール村で誼を結んだ村人に出向いてもらい、耕作の指導をしてもらった。私が15歳になる頃には、フーシェ伯領の収穫量は数倍にアップし、家もより豊かになっていた。