断罪4
準備を整え、与えられた領地の麦畑へと出向いた。執事のセバスチャンが馬で側に並びかけ話しかけてきた。
「お嬢様、仮にも伯爵家の御令嬢が少年のような格好をするとは頂けませんな」
私は狩りで少年たちが使用するシンプルな服を身につけていた。
「セバスチャン、あなたこそその格好は何?」
セバスチャンは、お茶会に行くときのヒラヒラの着いた執事服を身につけている。
セバスチャンは慇懃に胸に手を当てながら言った。
「私はいついかなる時も伯爵の家のものに相応しい佇まいを心がけております。お嬢様もそのような見窄らしい格好だと侮られますぞ!」
「今から向かう先は貴族の屋敷ではありません。あなたこそ後悔しますよ」
ニール村の畑では、数人の人々が鍬を振るい耕していた。ちょうど今は種まきの季節だ。作業をしている農民を集めさせ、馬上から声をかけた。
「皆さん、いつもご苦労様。
私はアレクシア、フーシェ伯爵の娘です。本日より私があなた方の主となります」
農民はバラバラと帽子をとり、おずおずとこちらを伺いつつ頭を下げた。貴族自ら農地に赴き、農民たちに声をかけることは、まずありえ無い。おまけに11歳の小娘が主人となると告げたので、彼らが戸惑うのも当然だろう。
私は威圧せずかつ卑屈にならないようにニコリと笑顔を浮かべた。3年分のマナーの修行で身につけた笑みだ。
「そこのあなた、あの畑、耕すのにどのぐらいかかりますか?」
畑を指差し、前に立っていた背の高い農夫に尋ねた。
「え、ええっと、10人でやって3日ってとこでしょうか…」
「では馬を使って1日で終えてみせます。セバスチャン、こちらへ」
セバスチャンが、不服そうな顔をして馬を引いて来た。馬には特製の鋤を取り付けている。
「しかしお嬢様、私は伯爵家の使用人でございます。何も農夫の真似事など、」
「ずべこべ言わず行きなさい」
厳しく言いつけると、セバスチャンは恨めしそうに畑に入っていった。馬が歩を進めるたび、鋤が畑を耕し、後ろには黒々とした土が盛り上がっていく。
農民たちはどよめいた。
「こんな、あのような立派な馬を俺たちの畑に…もったいないことでございます」
私は再びにっこり笑ってみせた。
「すべての畑を耕し終わるまで、私たちはこちらに滞在いたします」
「お嬢様!!!そんなご無体な!!!」
セバスチャンの声が畑に響いた。