骨董屋
その機械からは聞き馴染みのない音がした。気泡が割れるような連続した音と、物を引きずるような音が混じっている。
顔を近づけてその機械をよく見ると、いくつか記号の様な物が書かれていた。
「ラヂオという物だそうだよ」
骨董屋の店主は別の商品の修理をしながらそう言った。
「音が出ているけれど、何に使う機械なんです?」
「さぁ、知らないよ。僕は歴史学の先生じゃあないんでね」
店内の棚やショーケースには、緑や茶褐色に錆びた機械が一定の幅で綺麗に並んでいる。学の無い私にも、これらが私が生まれる前に起こった大戦よりも古い機械だという事が見て取れた。
「すごい数ですね。どこから集めたんですか?」
「海だよ。集めるためにずいぶん長い間潜っていたものだから、僕の体にまで錆が出来てしまうかと思ったよ」
店主は修理をしていた手を止め、腰ほどの高さがあるその機械をトンと床の上に置いた。
「それはなんです? プロペラの様に見えますが」
「水中用の推進機か、冷却用のファンじゃあないかな」
機械には一本の足が付いていて、それがプロペラ機を支えている様に見えた。足にはいくつかのボタンの様な物がついており、ここにもまたいくつかの記号の様な物が書かれていた。
「ラヂオみたいな名前はあるんですか?」
「さぁ、知らないよ。似たような物を集めて同じような文字が書かれていたら、勝手に名前を付けている」
九十年程前からこの場所に骨董屋がある事は知っていたが、こんなに面白いお店だとは思わなかった。店主は歴史学の先生では無いと言っていたけれど、古代の文字が読めるだなんて只者では無いのだろう。
「あの、質問しても良いですか」
「あんたさっきから質問が多いね。僕も気になっていた事があるんだけど、聞いて良いかな」
すみません、と私は軽く頭を下げてから店主の質問を待った。
「その足、引きずってここまで来たようだけど故障かい?」
「あぁ、気が付かなかった」
私は緩んでいた脚部のボルトを強く締め直した。