聖女は魔女と賭けをする
いろいろと突っ込み所があるかもしれませんが、、大目に見ていただければ幸いです。
(なろうラジオ大賞2への応募作品のため、文字数1000文字以内の超短編です)
魔王と呼ばれる存在が目の前で崩れ落ちていく。
ついに旅の目的を果たしたのに、魔王と対峙していた勇者一行からは、歓声の代わりに悲鳴が上がっていた。
それは、魔王と同時に、勇者もまた地面に倒れ伏したからだ。相討ちだった。
「お願いです、愛しい方。目を開けて…!」
もう虫の息の勇者をその腕に抱いているのは、勇者と共に戦った女魔法使い。
途中から勇者一行に加わった魔性の彼女は、膨大な魔力と数百年変わらないとも言われる美貌で、魔女と噂されていた。
その魔女が勇者から視線を上げた先には、旅の始めから勇者を支え続けた聖女がいた。聖女は、旅の目的を達したら勇者と婚姻を結ぶ予定だった。…勇者の心が魔女に奪われるまでは。
魔女は悲痛な声で聖女に呼び掛ける。
「貴女には、生涯一度きりの回復魔法が使えるのでしょう?」
生涯一度きり、つまり、命と引き換えの回復魔法だ。
けれど、同行していた戦士も、魔道士も、魔女の言葉に同意するような視線を聖女に向けた。魔王を倒した勇者を、聖女が身を呈して助けるのが至極当然であるかのように。
聖女は唇を噛んだ。
聖女が誰より勇者を愛していることを知っていながら、魔女と勇者の幸せのために、自らを犠牲にしろということか。
聖女は魔女に答えた。
「わかりました。けれど、私がその魔法を使った暁には、貴女の最も大切なものをいただきます。よろしいですか?」
「わかったわ」
魔女の顔には、どうせ死ぬのに何をという嘲笑が浮かぶ。けれど、聖女はこの時、言霊で魔女を縛る特殊な魔法を掛けていた。
聖女の祈りに応じて光が満ち、勇者の身体の傷が塞がっていく。それに呼応するように、聖女の身体は光の中に溶けるように消えようとしていた。
その時、
「や、やめて。いやあっ」
魔女からつんざくような悲鳴が上がり、反対に聖女の身体が輪郭を取り戻し始める。
聖女は感情のこもらない顔で、みるみるうちに髪が白くなり、肌が朽ちるように萎んでいく魔女を見つめた。
魔女の一番大切にしていたものは、永遠の命だった。勇者ではなく。
もし魔女が勇者を最も大切に想っていたなら、今頃、聖女は勇者とあの世に旅立っていただろう。
(…賭けには勝ったかもしれないけれど、勝負には負けたわ)
老婆になった魔女を腕にかき抱いて嘆き悲しむ勇者に背を向けて、聖女は静かにその場を後にした。
短い話でしたが、お付き合いくださりありがとうございました!