3 幼女VSパンツ リターンズ
ネタはだいぶ前から考えていたんですけど、もう一つの連載がメインとなって、こちらはなかなか書けないでいました。
今回は、2話で出て来た剣士のその後の話です。
「新郎アルフレッド・フォン・マイヤー、あなたはここにいるヴィーニャ・フォン・シュルツを、病める時も、健やかなる時も、楽しい時も、苦しい時も、妻として愛することを誓いますか?」
「誓います」
いよいよ、この時が来たわ。
大・大・大・玉の輿ぃぃぃぃぃぃ。
あの後、魔王軍との和解に成功した私達遠征軍は、本国に帰ったら一躍英雄扱い。
そして、私を含めた各大隊のリーダーは男爵位を与えられたのよ。これにはビックリしたわ。まあ、領地は貰えなかったけど。
でも、その翌日から縁談がたくさん来たのも驚いたわ。英雄と男爵の肩書って凄いのね。
その中でも飛び切りのエモノ……げふんげふん……縁談がアルフレッド。
なんと、マイヤー子爵の長男。しかも超が付くイケメン。
「新婦ヴィーニャ・フォン・シュルツ、あなたはここにいるアルフレッド・フォン・マイヤーをを、病める時も、健やかなる時も、楽しい時も、苦しい時も、妻として愛することを誓いますか?」
ああ、これで私も未来の子爵婦人。
人生の勝ち組よ♪
「イエ……」
「グレート・ジャルドゥー・ドラゴンが現れたぞぉぉぉぉぉ」
ちょっと、そのこ兵士!今、私の結婚式の真っ最中なんだけど……って、そりゃあ来るわよね。ここに彼の父、マイヤー伯爵を筆頭に、各種貴族が勢ぞろいなんだから。
しかし、グレート・ジャルドゥーとは厄介ね。
まあ、ここには元遠征組の主だったメンバーもいるし、子爵様の軍の共闘すれば……
―― ドグァァァァァァン
「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
ここかよ!グレート・ジャルドゥーが現れたって言うのは!
城壁の守備隊が見つけたんじゃないの?何で素通りさせてるのよ!
しかもグレート・ジャルドゥー。あなた、教会の壁を壊すって何?私、あなたに恨まれるような事をした?
「痛っ」
「ヴィーニャ!腕から血が!」
ああぁ、旦那様♪すかさず胸のポケットからハンカチを抜いて私の傷口に当ててくれるなんて。イケメンの上、超優しい♪
「大丈夫。これくらいかすり傷よ」
しかし、マズいわね。
フェリーシア、メイルー、その他の遠征組も今ので怪我をして戦えそうにないわ。致命傷じゃないけど、魔術師に治療してもらわないと。
「貴族様方、こちらへ」
牧師様、そんなところに隠し扉があったの?
でも助かるわ。
「兵士達は迎撃しつつ怪我人をここから連れ出して!貴族たちは私と一緒にそちらの扉へ!メイルー立てる?貴女は私と一緒に」
メイルー。ちょっと怪我が酷いわね。
とにかく彼女に肩を貸して連れて行く事にする。
子爵様たちが連れている魔術師にメイルーを治癒して貰えば、結界を張れる……っと、地下への階段?
随分深そうだけど、どこまで続いてるの?この階段。
これ、秘密の抜け道なんだよね?
「さあ、こちらへ」
「え?」
何?この空間。
「ここは?」
「はい、ここは自然魔力による結界が施された地下室です」
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」」
あ、メイルーとハモった。
でも、牧師様の言葉に呆れた声を出したのは私とメイルーだけ?何で?
こいつらバカ……げふんげふん……知能が少し足りない人達なの?
「ヴィーニャ。何か問題でも?」
あ、旦那様は分からなくても仕方がないわよね。戦いになど行った事ないんだから。
「グレート・ジャルドゥーが上で暴れて地下への通路が崩壊したら、下手すると掘り起こされるまで一か月以上掛かるわ。水は魔術師が出せるとしても、これだけの人数が生き永らえるだけの食料が無いのよ」
「「「「「「「あっ」」」」」」」
あっ、て。今頃気付いたの?どれだけ頭の中がお花畑なの?
あ、旦那様は良いのよ。イケメンで優しいから。
「皆!急いで戻るわ……」
―― ガラガラガラガラ
「うわっ……っと」
あぶねぇ、危うく通路の上から落ちて来た土砂に埋まるところだったわ。
「……手遅れのようね」
これは……どうしたものか。
「メイルー、自分の怪我を治せる?」
「ダメ。ちょっと、痛みで集中できない」
となると、旦那様のところの魔術師……
「私が治そう」
あ、この人が旦那様の所の魔術師なのね。
「メイルー、治療を受けながら聞いて。その怪我が治ったら、あの瓦礫を撤去できそう?」
「ん~……難しいかも」
メイルーでも難しいか。
魔法城で会った幼女が言ってた『近所のお兄ちゃん』だったら小石であの瓦礫を吹き飛ばせるのかな?
ん?幼女……
「メイルー。あの城で見た魔法陣。術式を覚えてる?」
「あの城って、あの城?」
「そう。魔王がバハムートの変異種を呼び出した」
もし、『近所のお兄ちゃん』を召喚できたら、ここから抜け出さるかも知れないわ。
「ん、やってみる」
おっ、もう治療が終わったの?さすが子爵様お抱え。治療は早いのね。
「皆、少し下がって貰えます?召喚用の魔法陣を描きますから」
「召喚?何を召喚するんだ?」
伯爵様、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。
「強力な助っ人ですよ」
「ヴィーニャ」
「ん?どうしたの?」
あっ、さすがメイルー。魔法陣はすでに出来上がっているみたいね。
「あの時、最後に書き加えられた術式も入れるね」
ああ、アレね。
確かあれは、少ない血で起動するための物だったわね。
「うん、お願いね」
おおっ、サクサクと流れるように魔法陣に術式を追加していく。いつ見ても彼女の魔法陣作成は芸術的ね。
「できた」
「有難う、メイルー」
よし、では血を捧げますか。
さっき、コッソリ取り出していたナイフを腕に当てて思い切り横に引く。どこからナイフを取り出したかは子爵様たち、特に旦那様には言えないけどね。
「ヴィーニャ!」
旦那様、落ち着いてね。
「大丈夫よ。これくらい魔王との戦いでは普通だったから」
「……普通って……」
おおっ、来た来たぁぁぁぁ。召喚の光が。
それにしても、相変わらず眩しすぎるわね、この光。
光に包まれている間、先ほど切った腕が仄かに暖かくなっている。メイルーが治癒魔法を掛けてくれているんだ。さすが長年一緒に戦って来た仲だ。
さあ来い。『近所のお兄ちゃん』来い。
…………
…………
だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!『幼女』だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
何この魔法陣。ひょっとして幼女しか呼び出せない魔法陣なの?
そう言えば前回彼女は、何度も呼び出されているって言ってたわよね。
後、何で毎回その……角の生えたウサギだか何だか知らない生き物を持ち歩いてるの?携帯食料なの?
あっ、目が合った。
「あっ、パンツのお姉さんじゃないですか」
だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「パンツ?」
ああっ、旦那様。そんな目で見ないで。
「お……お嬢ちゃん。だ、だ、誰かと勘違いしてるのかな?」
あの時と違って、あまり外に出ないで花嫁修業をしていたから日焼けも無くなって白い肌になってるし、何より今日は結婚式用にプロの方にお願いした気合の入ったメイクをしているから一目で同一人物と分かるはずは……あっ、きっとお姉さんは皆同じに見えるってやつだわ。きっとそうよ。
「何言ってるんですか。私が一度会った人の魔力波動を間違える訳無いじゃないですか。特にお姉さんはパンツと言う衝撃的な……」
「はい、ちょっとこちっちに来てね。状況説明するから」
何それ。その『メイクなんかじゃ誤魔化せないぜ』的な認識方法は!
「ちょっ、ちょっと、お姉さん?」
良し、ここなら旦那様達にも聞こえないわね。
「私はパンツのお姉さんじゃなくてヴィーニャ。後、パンツの事は黙っててくれるかな」
「えっ?何で……あっ」
今、気付いたのかよ。私の衣装に。
後、私と旦那様を交互に見るな。
そしてニヤニヤしない!
「そう言う事なら仕方ないですね。ヴィーニャお姉さん」
楽しんでいる顔がムカつくけど、黙っててくれるなら……まあ良いか。
で、話を聞きながらも、そのウサギもどきの首を落として血抜きするのね。
「ま、まあ。それで今の状況だけど、ほら、そこの入り口。瓦礫で埋まっちゃってるでしょ?上でドラゴンが暴れて生き埋めになっちゃったの。ねえ、貴女『近所のお兄ちゃん』を召喚できる?あの瓦礫を撤去して貰いたいんだけど」
小石でなんちゃらドラゴンの頭を粉砕できる程の怪力なら、あの瓦礫を吹き飛ばす事くらいできるわよね。
「あれ位なら私でも撤去できますよ」
出来るんかい!万能だな、幼女。
「じゃ、じゃあ、お願いしようかな」
「ええ、良いですよ。皆さんには前回、沢山の銅をくれた恩がありますから」
単なる銅貨だけどね。何か後ろめたい気持ち……
「あっ、血抜きが終わった」
そのポケットの中、いったい何匹分のウサギもどきが入ってるんだろう……
「それにしても、上で暴れているグレート・ジャルドゥー・ドラゴンをどうにかしないといけないわね。ねえ、屍竜……クサイトカゲだったかしら?それを簡単に倒してしまえる貴女にお願いするわ。私と一緒にドラゴンを食い止めて。お願い。旦那様達が逃げ延びる間だけで良いの」
グレート・ジャルドゥーは流石にこの幼女でも倒せないだろう。
屍竜は確かに強い。だけど毒が厄介なだけで、それさえどうにかなれば騎士達で取り囲んで倒せない竜ではない。
だけどグレート・ジャルドゥーは別だ。
次元が全然違う。
皮膚は鉄板より硬いうえ、分厚い皮下脂肪が衝撃を和らげるから打撃系の攻撃も効かない。
何より、あの超高温のブレス。
ハッキリ言って彼女と二人でも何分間、足止め出来るか。
可愛そうだが、メイルーにも付き合って貰おう。ゴメン、メイルー。
「ドラゴン?美味しいやつですか?」
なっ?何、食い気丸出しなの?ドラゴンよ?いくら屍竜を簡単に倒せるからと言って、未知のドラゴンの話を聞いて、そんなキラキラした目を向けてくる?普通。後、何で涎垂らしてるの?
「た……食べたことはないけど。とにかく、まずはここから出る事が先決ね」
「話はついたわ。この子とても優秀な魔術師で、あの瓦礫を撤去してくれるって」
「「「「おおぉぉ」」」」
さあ、下手な詮索される前に、さっさと瓦礫を撤去してもらいましょう。
「メイルー。彼女の術式を出来る限り分析して」
コッソリ耳打ちすると、彼女はコクリと頷いた。
まあ、私じゃ術式解析なんて無理だから、ここはプロに任せましょう。
「じゃあ、瓦礫を撤去しますね。皆さん離れてて下さい。アース・リペアリング!」
な、な、何?時間が巻き戻ったみたいに……
うわっ、何それ。土とか石のブロックとかが元の位置に戻っていく。
「はい、撤去完了です」
これ、撤去って言わないでしょぉぉぉぉぉぉぉ?
完全に崩落前の状態でしょ?
「だ、大丈夫なの?その……強度的に」
「崩れる前の状態に戻したでけですから、その時の強度のままですけど?」
そう。やはり元に戻したのね……って、何をサラッと言ってるの?それって瓦礫を撤去して固めるより遥かに難易度高いんじゃないの?
「メイルー……」
おおおぉぉぉぉ。彼女、顔面蒼白で口をパクパクさせてるよぉぉぉ。
「お姉さん!」
はっ、私も呆然としてしまった。
って、何で涎を垂らしてこっち見てるの?そんなにドラゴンを食べたいの?
ま、まあ。とにかく上のドラゴンをどうにかしなきゃ。
「皆さん!私とメイルー、そしてこの子は上に行ってグレート・ジャルドゥーをどうにかして別の場所に誘導させます。皆さんは暫らくここに留まって下さい。誘導に成功したら何らかの形で連絡しますから」
「ヴィーニャ?ダメだよ。とても危険だ」
ああっ、旦那様。とても優しい♪
「大丈夫よ。これでも私たちは魔王軍と戦った勇者よ」
二コッと微笑む。すると旦那様は少し顔を赤くした。とっても可愛い♪
「その子も連れて行くのか?」
ああ、子爵様はこの子の強さを知らないからね。
「先ほども言いましたけど、この子は大変優れた魔術師で、身体強化魔法も使えますから防御力は私より上です」
「な、何と……」
まあ、攻撃力も上だけどね。
「さあ、行きましょう。メイルー、大丈夫?」
「……はっ!一瞬世界の向こう側が見えたわ」
メイルー、お帰り。先ほどの魔法が余程ショックだったようね。
「さて、アレがそのドラゴン何だけど」
三人で地上に上がった私達。
扉の隙間から覗くと、教会は片側が完全に破壊されていた。
そしてグレート・ジャルドゥーはスヤスヤと眠っている。
暴れ疲れたのだろうか。
「あ、あれは……」
ん?幼女が震えてる。流石に彼女でもあのドラゴンは倒せないのかな?
「ポンポコドラゴンじゃないですかぁ♪」
「「ポンポコぉ?」」
ポンポコドラゴンって確か、彼女が収納ポケットを作るための銅を手に入れるために狩りまくったってやつじゃあ……
「つまり……アレを倒せるってこと?」
「ええ、倒せますよ。そして一匹倒すと銅が四グラムから五グラム買えるんですよ」
倒せるんだ……
しかもグレート・ジャルドゥーの価値、低っ!
「じゃあ、お願い。あのドラゴンを倒して」
「ええ、良いですよ。ああ、これでスペルの腕輪が作れます」
キラキラした目。
ちょっと頼み辛いけど……まあ仕方ないわ。
「それと、ドラゴンは私とメイルーが倒した事にして、死体は置いて行って欲しいんだけど」
「ええぇぇぇぇぇ!?それって、私、タダ働きじゃないですか!」
「ヴィーニャ!?」
二人の批判も分かる。分かるよ。勿論。
「メイルー、良く聞いて?グレート・ジャルドゥーの死体がこの場から消えていたら、誰が討伐したと信じてくれる?下手すると国王軍が大勢駆り出されて、居もしないドラゴンを何か月も探し続ける羽目になるのよ?それでも良いの?」
「うっ……そ、それは……」
うん、メイルーは頭の良い娘だ。分かってくれる。
「あっ、それで貴女の方だけど、勿論無報酬じゃ無いわよ。そ、そうね」
辺りを見回すと……あったあった。
「これ。この青銅の燭台三つ。これで手を打たない?」
「こ……これは……こんな物がこの世に有ったとは……」
やはり。この子にはこれが一番ね。
「ああっ、でもこれは子爵様の貴重な財宝。私が勝手に貴女にあげる事は出来ないわ」
「ああああぁぁぁぁ」
おっ?思った以上の落胆ぶり。
そこまで銅が貴重なんだ、この子達にとって。
「でも私と旦那様の結婚が無事終われば、これは私の財産でもあるから、貴女にこれをあげても何ら問題無いわね」
「良しっ!ポンポコドラゴンを倒しましょう。そしてお姉さんが無事に結婚できるようにしましょう!」
ふっ……さすが幼女。ちょろい。
「ふふっ。前回お姉さん達に沢山のブロンズメダリオンを頂いたから、この大型包丁を作ったんですよ」
いやいや、何を収納ポケットから出してるの?
それ包丁じゃないでしょ?
普通、自分の身長より長い刃物を包丁とは言わないでしょ?
「じゃあ、行きます」
あっ、彼女の姿が霞んだかと思ったら消えた……
「ギィィアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
えっ?何?今のグレート・ジャルドゥーの叫び?何か断末魔のような……
ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ?
ちょっと、そこの幼女!
何、魚みたいにバサバサとグレート・ジャルドゥーを捌いてるの?
確か、そいつの皮膚は鉄板より硬かったはずよね。
…………
…………
グレート・ジャルドゥー……あっけなく討伐されたわね……頭、皮一枚で繋がっている状態だし……
異世界の幼女……恐るべし……
「へへっ♪流石の切れ味でした。我ながら会心の出来です、この包丁」
いやいや、だからそれ包丁じゃないから。
「ね、ねえ貴女。その包丁?を譲ってくれない?」
「えぇ~、嫌ですよ、お姉さん。せっかく良く出来たんですから」
まあ、そう反応するでしょうね。
「勿論、タダとは言わないわ。そ、そう。この青銅の盆を二枚あげるから」
「おおぉぉ、良いんですか?これだけ有れば、こんな包丁程度なら百本は作れますよ」
そんなに作れるんかい!?
その業物、価値低っ!
「良いのよ。私達ではそれほどの切れ味の刃物は作れないわ。それに、私は騎士として旦那様の子爵領を守る義務があるの。だから財宝よりも旦那様を守れる武器が欲しいの」
まあ、安物の青銅の盆だけどね。
「そう言う事でしたら、喜んで♪」
おお、幼女。頬が緩みっぱなしだぞ。
そんなに銅の価値が高いんだ。この子の世界は。
「皆さん。グレート・ジャルドゥーは私とメイルーが倒しました」
「なっ、何と」
おお。子爵様、驚いてる。
「大丈夫?怪我は無いかい?」
とても心配そうな旦那様。優しい。優しすぎるよ。
「ええ、怪我はメイルーとこの子が治してくれました」
「子爵様ぁぁぁぁ!」
あ、子爵領の兵の方達が知らせを受けてやって来たようね。
「子爵様、ご無事で……うわぁぁぁ!」
ああ、そちらからだと瓦礫の陰でグレート・ジャルドゥーの死体が見えなかったのね。
「安心して、グレート・ジャルドゥーは私とメイルーで倒したから」
「お二人で倒されたんですか?」
まあ、普通はたった二人でなんか倒せないわよね。
「私には、この大剣があるからね」
くっ……お、重い。こんな重い物を軽々と振り回してたの?あの子。
よっ……と。えいっ!
くうぅぅ、三〇センチくらいしか突き刺さらない。
「おおぉぉ、グレート・ジャルドゥーの皮膚に刃を突き立てるとは!」
兵士の人達驚いてるけど、これを使ってスパスパとグレート・ジャルドゥーを捌くシーンを見せられた私達は感動を通り越して喪失感を覚えたわよ。
「流石、魔王と互角に戦った英雄だ」
う~ん……魔王とは戦ったけど……互角かと言えば違うような。
魔王が和解案を出したのは、あの幼女の強さを見せつけられたからだし。
「では、後の事はお願いね」
まあ、感動に浸っている兵士達に、いつまでも付き合ってられないわ。
それより、旦那様、旦那様♪
「それで、お姉さんは、その場でパンツを脱いで私に渡したんですよ」
があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
そこの幼女!旦那様に何を言ってるの?
説明したよね?旦那様と結婚出来なかったら報酬も無いって。説明したよね?
終わった……玉の輿が終わった……
儚い夢だったな……
ぐすん……
「ヴィーニャ?どうしたんだ?グレート・ジャルドゥーとの戦いで疲れたのか?」
「あ、ああ、大丈夫よ……そ、それより……二人で何を話していたの?」
「ああ、この子が前に召喚された時の事を話してくれてね」
何で喋っちゃうのよ……もう、私の将来台無しよ……
「何で、こんな良い話、今まで黙っていたんだ?」
えっ?
「あの時、私がペロンチョ・ドラゴンの酸を浴びて服を溶かされた時、メイルーお姉さんが急いで酸の中和をして、ヴィーニャお姉さんがパンツとマントを脱いで渡してくれて、とても嬉しかったです」
えっ?えっ?
「この子の事を思い、真っ先に動いたなんて、君はとても優しい人なんだね」
えっ?それって……
「今までは英雄と言う肩書に魅かれて、親の言いなりで結婚しようとしていたけど……その……改めて言わせてくれ。その……僕と結婚してくれないか?」
あ……あ……
「どう……かな?」
「イ、イエス。はい、結婚します♪」
旦那様♪ギュゥゥゥゥゥゥゥゥ♪
「ちょっ、ちょっと。苦しい……」
「ああ!御免なさい」
ううっ……長年の鍛錬で付いた筋肉が……
「父上、牧師様、今から屋敷に戻って結婚式の続きをしたいのですが」
「おい、アルフレッド。流石に日を改めた方が良いんじゃないか?」
「いえ、私は今すぐにでも彼女と結婚したいのです」
ああっ、旦那様。
私はこれ程までに愛されてる。
「ヴィーニャも良いね?」
「はい♪……っと、いけない、あの子を帰さなきゃ」
召喚しておいて、そのまま放置するところだったわ。
「あ、私の方は大丈夫です。勝手に帰りますから。ではお姉さん、お幸せに」
あっ……走って行ってしまった。
まだお礼も言ってないのに。
「さあ、ヴィーニャ。結婚式の続きをしよう」
「はいっ♪」
ああっ、こんなに素敵な旦那様と結婚できるなんて、夢みたい。
「でも、女性ばかりとは言え、人前でパンツを脱ぐのはどうかと思うよ」
「うぐっ……」
まあ、あの子が美談として纏めてくれたけど、どう言い繕っても人前でパンツを脱ぐのは非常識だよね。
「だからこれからは、僕が側で支えてあげるからね」
旦那様、優しい♪
だあぁぁぁぁい好き♪