表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

2 幼女VSパンツ

ネタが思い浮かんだので書きました。

「魔王!覚悟!」

 私が繰り出した武技は『紅業炎』。

 この武技だけで戦っても、女剣士である私でも男共より何倍も強い。

 そのため、こうして国王から直々魔王討伐の任を受け、討伐軍二個師団のリーダーとなった。


 だが、私の武技は魔王が召喚した一つ目のコウモリの魔物に当たり霧散した。

 この武技は遠くの敵を攻撃できて威力もかなり高いのだが、誘導も効かず、攻撃のダメージは最初に触れたものとその周辺のみ。

 魔王はこの武技の特徴をよく理解していて、先ほどから雑魚を無数に召喚している。


 しかし、こちらも対策がない訳じゃない。


 首筋に小石が当たる感触。

 フェリーシアは相変わらずコントロールがいい。

 私が急ぎその場に伏せると、後ろから来たメイルーの魔法攻撃が頭上を通り過ぎる。


 バリバリと轟音を立てて雑魚を一掃するその攻撃の名は『サンダーストーム』。その名の通り雷撃だが、彼女のそれは範囲も威力も半端ない。


 だが、その攻撃をゆっくり見ている暇はない。

 私は攻撃が終わる前にダッシュし、魔王に向けて剣を振る。

「業火切り!」


 案の定、隣の魔族が魔王を庇うべく間に割って入り、大剣で受け止めた。

 魔王四天王の一人、ヴゥルク……なんちゃらだ。

 魔族達は全員身長三メートルを超える大きさで、筋骨隆々の鍛え抜かれた体だ。そんな魔族と剣でまっとうに戦えるわけはない。


 でもこれも想定済み。

「セイント・シフト!」

「!」

 ヴゥルクなんちゃらの顔が驚愕に歪む。

 当たり前だ。この技は私が剣にまとっている業火切りの炎属性の魔法を聖属性に一瞬で変化させるものだ。


「「「ヴィーニャ?」」」

 仲間たちも驚いている。無理もない。

 何故なら、この技は今まで人前で使った事がないからだ。

 この日のために密かに特訓していたのだ。


 私の聖属性の剣が、闇属性で強化されているヴゥルグなんちゃらの剣を切り裂き、奴の体を真っ二つ……

 浅かったか。

 奴は五メートルほど後退した。


 だが、ヴゥルグなんちゃらの利き腕は頂いた。

 まあ、一時間もすれば再生するだろうが、そんな余裕を与えるつもりはない。

「セイントスラッシュ!」

 今度は最初から聖属性だ。

 しかし、魔王の結界に阻まれる。


「アイス・シフト!」

 私は剣にまとわせている聖属性の魔法を氷属性に……

 変えるわけがない。そもそもそんな技は知らない。


 かかった。

 魔王が防壁を対氷属性に変えたようだ。剣が防壁を破壊した。

 剣はそのまま魔王を切断……

「くはっ!」


 くっ!後ちょっとだったのに。ヴゥルグなんちゃらの蹴りの方が早かったか。

 五メートルほど吹き飛ばされてしまった。

 幸い骨は大丈夫なようだが、追撃が怖い。そのまま転がり、十分距離をとる。


「ふっ、ふははははは、あははははは」

 魔王が突然笑い出した。

 この笑いは定番だな。

 何かが想定通りにいったのだろう。

 ムカつく。


「ヴゥルグファトシルムュライハクトを傷つけてくれて有難う。お陰で条件が整った」


 何の準備が整ったのか気になるところだが、待ってやる義理はない。

「クイック……くっ!」

 急ぎ、高速移動の魔法をキャンセルする。

 遅かったか。

 床に描かれていた魔法陣が輝き出した。

 くそっ!ヴゥルグなんちゃらの血が起動の鍵だったか。迂闊だった。


「あはは、あーはははははっ。ウジ虫どもめ、破壊神に捻り潰されるがいい!」


 王の間は強い光に包まれる。


「さあ、破壊神よ。この者たちを食らいつくすがいい!」

 光が弱まり薄目を開けると、そこには人影が見える。

 魔王とヴゥルグなんちゃらだけでも手一杯なのに、その上破壊神?

 どうする?一旦退却するか?


「何言ってるんですか?人間なんて食べるわけないじゃないですか」

 えっ?女の子の声?


 そこにいたのは一〇歳くらいの女の子だった。

 赤毛で、後ろには短い二つの三つ編み。

 母親のものだろうか、大きめのエプロン。そのエプロンにはバランスの悪い大きめのポケットが付いていた。


 そして何よりも目を引いたのは彼女が持っている……ウサギ?

 彼女はその生き物の耳の付け根あたりを握っているが、その握った手を肩くらいまであげても、四肢を縮めて大人しくしているその生き物が床に付きそうだ。

 デカい。

 しかも額のそれは何?角?角だよね。


「貴様!どこから紛れ込んだ!」

 ヴゥルグなんちゃらが剣を振り上げて女の子に向かう。

 危ない。

 私は咄嗟に女の子の前に立ち、ヴゥルグなんちゃらの剣を受け止め……

「がはっ!」

 誰かがいきなり後ろに引っ張ったため、仰向けに転倒してしまった。馬鹿が、女の子が危険にされされているんだぞ。


「お姉さん。カッコよく私を庇うのは嬉しいんですけど、ろくな防御結界も展開せずに攻撃を受けるのは無謀ですよ」

 なっ?この子が私を引っ張ったの?

 いや、まさか。でも他に誰もいないし。えっ?まさか。あんな馬鹿力で?女の子が?


「あの手の攻撃を受け止めるには、全属性魔法反射壁と物理エネルギー変換シールドが……あっ……ああっ!」

 女の子は自分の左手を見て驚きの声を上げた。

 その先には、ウサギ?の耳だけが残っていた。


 よく見ると、そのウサギもどきは耳を切られ、私たちとヴゥルグなんちゃらの中間地点でのたうっていた。


「!」

「ぐはっ!」

 ウサギもどきの姿が突然消えたと思ったら、次の瞬間ヴゥルグなんちゃらに激突していた。

 いや、違う。角で刺したんだ。


 ウサギもどきは体をくねらせて器用に角を抜くと、床に降りた瞬間再び姿が消えた。


 ビシィィィィィ


 突然魔王のいる方角から大きな音がして目を向けると、魔王の前に大きなくぼみができていて、その中心にウサギもどきが埋まっていた。

 その横には先ほどの女の子。

 えっ?いつの間に?

 今まで私の横にいたよね?


「あっ」

 女の子があっけに取られた顔をしている。何故だ?

「くうぅ、ケガさせても無理やり抑え込んでおくべきだったぁ!」

 あっ、ウサギもどきはもう消えている。足が速い、速すぎる。


 ググワアァァァァァァァ!


 その時、物凄い咆哮と共に魔力の衝撃が魔王の間を襲った。

「「「「うわあぁぁぁぁ」」」」

「「「「キャアァァァァァ」」」」

 私や支団の者達は思わず声を上げ、耳をふさぐ。


 ピギャァァァァァ


 先ほどのウサギもどきが叫びを上げて咆哮の主の前に転がる。

 強い魔力波を間近で浴びたのだから無理もない。


「魔王様、間に合いました」

「おう、ビトゥレピヒシラントスレムリ。でかした」

 現れたのは魔王四天王の一人、ビトゥなんちゃらと……

「……屍竜」


 竜と言っても正確には竜ではない。

 ヤツには翼はない。

 だが、赤黒いタダレたような皮膚と長い四肢。血走った目。

 そして何よりも強い腐敗臭。

 くそっ、あんなのを飼いならしていたのか。


 屍竜は目の前で倒れているウサギもどきを咥えて口を上に上げると、口を大きく開いて丸飲みにした。


 くそっ!どうする?撤退する時間は稼げるのか?

 アイツと戦うのは問題外だ。

 奴の毒のブレスがやっかいだ。少しでも吸い込めば、即死すればいい方で、運が悪いと数年間死ぬほどの苦しみに悶え苦しむ。もちろん助かる術はない。

 加えてあの頑丈さ。ドラゴンと違ってウロコはないが、魔法で強化されたその皮膚は下手なドラゴンよりはるかに硬……

 


「ふざけんなぁ!」

「「「「「えええええええええええええええええ?」」」」


 グシャッという音と共に、突然屍竜の頭の横に現れた女の子の横回し蹴りを受けて屍竜の左頭部がひしゃげ、眼球が飛び出した。


 あの……頑丈さ……ドラゴンより……硬い…………


 ええぇぇ?何で屍竜の頭を泥団子みたいに軽々と潰せるの?


 あっ、女の子は空中で屍竜の鼻先を掴むと、そのまま自分の体を引き寄せてヤツの右頭部に移動した。


「さっさと吐き出せ!」

 再び回し蹴りを食らい、グシャッという音と共に今度は右頭部が潰れて眼球が飛び出した。


 ズウゥゥゥゥゥン


 屍竜がゆっくりと倒れていく。

 目の当たりにしても信じられない。あんな小さな女の子が。


「ほらっ、さっさと吐き出しなさい!」

 女の子は何度も何度も屍竜の腹に蹴りを入れる。

 その蹴りは尋常ではない強さなのは、ヤツの腹の変形ぐあいなどから分かる。


 グハッ


 ついに屍竜がウサギもどきを吐き出した。


「ああっ、ピュリフィーティア!」

 女の子がかなり密度の濃い魔法を展開し、ウサギもどきを包む。


「メイルー!あれ、何の魔法か分かる?」

「分からない。少なくとも三〇以上の超高度な術式を使ってるわ。到底人間が使える技じゃないわよ、アレは」


 言われなくてもわかっている。何故なら消化液で半分溶けかかっていたウサギもどきが目の前で再生していってるんだから。


「良かった~」

 女の子は、フサフサの毛並みまで完全に再生されたウサギもどきに近づくと、そっと抱きしめた。

 彼女のペットだったのだろか。

 でも最初現れた時は耳を掴んでたよね。


 まあ、でもウサギもどきを心配してこうして抱きしめている姿を見ると、胸が熱くなる。

 周りを見渡すと、魔術師などの女性陣は目に涙を浮かべている。


 ブシュュュュュュ


 ええっ?

 ウサギもどきから血が噴き出した?何で?


 女の子は左手でウサギもどきの角、右手で後ろ脚を握り、すくっと立ち上がった。

 切り口から血がボタボタと流れ落ちている。


「あ……あ……あなたが殺したの?」

 誰が聞いたのか。まあ、今はそんな事どうでもいい。

 女の子は何故か不思議そうに首を傾げている。


「ええ、私が首をはねましたけど、それが何か?」

 いやいや、何かじゃないでしょ?

「ああっ!まさかこのウサギを狙っているんですか?これは私が捕まえたものですから私のものです!」

 いや、頬を膨らませて可愛らしく怒っても、誰もそんな生き物食べないわよ。


「だって、あなた今、必死でそのウサギ?を救い出してたじゃない」

「そりゃあ、必死に救い出しますよ。ウサギはとても美味しいんですから」

 私の質問に、何当たり前のことを聞いているんだって顔してるけど、全然当たり前じゃないから。


「つまり、自分の食材を取り返すためだけに屍竜を倒したって言うの?」

「屍?ああ、クサイトカゲの事ですね。当たり前じゃないですか。こいつら、いつもいつも人の獲物を横取りしようとするんですよ」

 そんな理由で屍竜殺す幼女って……


「で、でも、高度な治癒魔法をかけてたじゃない。どうせ殺すなら普通そこまでする?」

「全然高度じゃないですよ。初級の洗浄と回復の複合魔法ですよ」

 おかしそうに笑っているけど、あれだけの密度、そして三〇以上の術式って普通じゃないから。


「それに、お姉さんは知らないみたいだけど、クサイトカゲに食べられた獲物はものすごく臭いんですよ。丁寧に洗っても、煮ても焼いても。だから臭み成分を分解して、さらに食材の活力を高めてから首を落とすんです」

「…………」

 ダメだ。生きている世界が違いすぎる。彼女の考えについていけない。


「で?あなたたち。まだ、やんちゃするんですか?」

 女の子に睨まれて、魔王とその部下二人が高速で首を横に振る。

「ならいいですけど、いい大人が魔王様ごっこなんて子供っぽいことして恥ずかしくないんですか?」

「ま……魔王様ごっこ?」


「あ、血が抜けた」

 女の子がウサギもどきを確認してニッコリとする。

 そして……

「な?なにそれ?」

 ウサギもどきの頭が、吸い込まれるように変形して女の子のエプロンのポケットに入っていく?

「それって、このポケットのことですか?」

 そう言いながら、今度はウサギもどきの胴体がポケットに吸い込まれていく。何であの大きさのものがそのポケットに入るの?


「これは四次元ポ……収納ポケットです」

 なぜ言い直す?


「そ、それは貴方の魔法なの?」

 収納魔法?いや、そんな魔法はまだ開発されていない。少なくともこの世界では。彼女の世界では開発されたの?


「これはマジック・アイテムですよ」

「「「マジック・アイテム?」」」

 この場にいた全員が驚きの声を上げた。

 こんな便利なアイテムがあるなんて。信じられない。


「そ、そのアイテム、売って頂戴!お金なら金貨五枚、いや、一緒に王都まで来てくれたら金貨百枚出すから!」

「「「「ああっ、ヴィーニャずるい!」」」

 皆が抗議の声をあげる。まあ、当たり前か。

「こ、この子が他にも収納ポケット持ってたら、皆にも回すから!」

 必死の弁明に、どうにか他の皆も渋々納得してくれたみたいだ。


 だが、一人納得していない者がいた。当の女の子だ。

「お姉さん。金なんて錬金術を学び始めて最初に生成する金属じゃないですか。そんな物と引き換えに貴重なアイテムを渡すわけないじゃないですか」

 ……えっ?

「「「「えええぇぇぇぇぇぇ?」」」」


 と言う事は、この子の世界では錬金習いたての子供でも簡単に金が作れちゃうの?

「そ、その錬金の初歩をお姉さんに教えて……」

「ダメです!」

 私の言葉を制したのは魔術師のタニア。


「何で?金の生成よ。その知識があれば皆お金持ちになるのよ」

「なるわけないでしょ!この脳筋が!」

 そ、そこまで言う?泣いちゃうよ?


「考えてみて下さい。この技術が一般に知れ渡ったら誰でも簡単に金が作れるんですよ?そうなったら誰が高いお金を出して金を買いますか?金なんてくず鉄同然になります」

 考えてみれば当たり前か。気軽に手に入る金属に誰も価値を見出さない。

「経済の常識が大きくくつがえります。下手すると国の経済を混乱させた罪で打ち首ですよ!」

 あ、あぶねぇ。タニアが忠告してくれなかったら処刑されていたかも……


「あ、となると……私たちに払えるものはないわね。あなたが収納ポケットの作り方を知ってたら良かったんだけど。さすがにね……」

 金の生成はすごく魅力的だったけど、この収納ポケットも喉から手が出るほど欲しいアイテムなのよね。特に女の子は。


「えっ?作れますよ」

「「「「作れるんかい?」」」」

 この子、なに不思議そうな顔をしてるの?こんな高度なアイテムを貴方のような幼女が作れるなんて誰も思わないわよ。


「でも、これを作るのにはとても希少な素材が必要です。お姉さん達では到底買うことができないと思いますよ」

「希少な素材?」


「そう、とっても希少な素材、銅です」

「「「「銅?」」」」


 女の子が自慢げに語り始める。

「この四次……収納ポケットには銅を一〇八グラムも使っているんですよ。私だってそれだけの銅を買うだけのお金を手に入れるために、竜の山に行ってポンポコドラゴンを二六匹倒した……」

「その銅って、これの事?」

 メイルーが巾着から銅貨を取り出して女の子に見せる。


「ブロンズ・メダリオン?あの超大金持ちが持っていると言う?お姉さんスーパー・リッチな人だったんですか?」

 どうも金属の価値がこちらの世界とは大きく異なるらしい。

 ひょっとして、マジックアイテムに銅を使うから銅が少なくなったのだろうか。


「これで良かったあげるわ。だから、その収納ポケットとやらを作ってくれないかな?」

「わ、私も、私も」

「お、俺も……」

 皆がいっせいに巾着から銅貨を取り出す。勿論、私も。

 ……って、そこの魔王たち、何であなたたちも銅貨を出してるの?私達今まで敵対してたよね。


「うおぉぉぉ、こんなに……皆さんお金持ちだったんですね。いいですよ、ちゃちゃっと作っちゃいますよ」

「「「「うおぉぉぉぉぉぉ」」」」

 全員が歓喜の叫びを上げる。もちろん私も。


「では皆さん、ポケットを付ける布を出して下さい」

「「「……えっ?」」」

 何人かが驚きの声をあげる。主に私達、鎧組だ。


 魔術師達は布のローブなどを身にまとっているけど、私たちは鎧だ。布の服は着ていない。


「『えっ』、て。当たり前じゃないですか。どこにポケットを付けるんですか?金属の上には付けられませんよ」

 とは言っても、魔王城に乗り込むのに荷物が入ったリュックを背負ってくる訳じゃないし……どうしよう。


「あ……あの、し、下着でもいいかな?」

 顔を赤くしながら質問したのは私と同じ女剣士のルフィーナ。下着、その手があったか。


「布だったら下着でも構いませんよ」

 女の子はニッコリと微笑む。


「えっと……その……」

 ルフィーナが周りに目を向けてもじもじする。

「ああ、確かに殿方たちの前で下着は見せられませんね。では……ブラインド・シールド」

 突然、私たちの周りに黒いドームのようなものが現れた。

 咄嗟に身構えたが、女の子は気にせずにドームの壁まで移動して、その壁に頭を埋めた。

「女性の方たちはこちらに入って下さぁい!」

 どうやら、出入りはできるようだ。

「この壁は私が許可した人しか入れませんから、殿方たちは入ってこれません。安心して下さい」


「「「「わあぁ♪」」」」

 みんな安心して服を脱ぎ始める。

 私もインナーを女の子に渡すため、鎧を外していく。


「あっ」

 しまったぁぁぁぁぁぁ。

「ヴィーニャ、あなた……」

 くうっ!昨日の魔王城前の戦いで最後のインナーがボロボロになったから革の服で代用していたんだっけ。

「か……革じゃダメかな」

「無理ですね」

 くうぅぅぅぅ。ダメかぁ。


「ルフィーナ。あなたのインナー……」

「ダメですよ。私もこれしかないんですから」

 鎧組はダメか。それなら。


「……タニア……」

「ダメです。私達魔術師はインナー着ていないんですから、差し上げたくても無理です」

 ああぁぁぁ。そんなぁ。


 くそぉ。あの時、オーガに出くわしてなかったら……


 ……あっ、ある。布が一つだけ。


「ヴィーニャ……あなた……」

 私が後ろを向いて何をしているかを悟ったフェリーシアが軽蔑をにじませた声を向けてくる。

 その声に反応して他の者達もこちらに顔を向けているのが気配で分かる。

 そして辺りに漂う気まずい雰囲気。

 わかってるよ!自分が何をしているか。


「こ……これ!これでお願い」

「「「「……」」」」

 ち、沈黙が痛い。

 お願いみんな。そんな汚物を見るような目で見ないで。


「……お姉さん。私今まで何人かの人に四次……収納ポケットを作ってくれと頼まれましたが、脱ぎたてのパンツを差し出されたのは初めてですよ」

 仕方ないじゃん。他に布がないんだから!


「まあ、いいですけどね……プュリフィケーション」

 私のパンツが青白く光ってる。

「なにこれ?清浄魔法?」

「はい、初歩の魔法ですけど?」

 私が魔術師組に顔を向けると、彼女たちが激しく首を横に振る。

 どうやら魔術師組の誰も使えないほど高度な魔法らしい。



      ◆      ◆


「助かったわ。これで今後は遠征などが楽になるわ」

 何しろ、替えの服や下着を持っていけるのだから。

 この手の遠征では荷物になる衣服はなるべく持っていかない。そんなものより食糧や薬など、不足すると死につながるものが優先されるからだ。 その結果、女の子を捨てなければならなくなる。つまり、平気で数週間も風呂に入らず、水で体も拭けず、下着すらろくに替えないで進軍し続けなければならないのだ。

 でも、このアイテムがあれば、替えの衣服だけでなく、基礎化粧品だって持ち歩ける。

 女性にとって夢のようなアイテムなのだ。


「いえいえ。私の方こそこんなにたくさんのブロンズメダリオンをいただいて。とても嬉しいです」

 女の子は先ほどから頬が緩みっぱなしだ。


 あれから女の子は全員分の収納ポケットを取り付けて、更に女子達には先ほどの「プュリフィケーション」を教えてくれた。


「では私はそろそろ帰りますね」

「えっ?帰るってどうやって?」

 私の質問に、女の子は魔王の間の魔法陣を見て少し考えたあと、収納ポケットから石筆を取り出して何やら書き足し始めた。


「まあ、こんなところですね。とこで、そこのなんちゃって魔王!」

「は、はい!!」

 魔王がビクビクしている。それだけこの子が怖いのか。まあ、私も敵には回したくないわね。


「なんで、何度も何度も私を召喚するんですか?」

 えっ?

 この魔王。そんなに何度も呼び出してたの?

 あっ、首を横に振ってる。


「前の人にも、その前の人にも言いましたよね。私はか弱い村娘だって」

((((それ、絶対に違う!))))


「ここっ!魔法陣のこの部分が間違ってるの!ここはね……」

「ご、ごめんなさい。もう召喚しないから」

 あっ、魔王が土下座して謝ってる。

 できれば私が魔王をボコって土下座させたかったな。


「ま、まあいいです。反省しているなら……では、私はこれで帰りますね」

 そう言って、女の子は屍竜に手を向ける。

 すると、屍竜から流れ出た血が動き出して魔法陣の方に向かって……こない?途中で止まった?

 あっ、女の子が顔をしかめてる。

 そして魔法陣に更に複雑な術式を書き込んで行くと、今度はさっき抜いたウサギもどきの血に手を向ける。

 その血が動き出して魔法陣に触れると、魔法陣が淡いピンク光った。


 屍竜の臭い血を使いたがらなかったのは分かるけど、何故最初からウサギもどきの血を使わなかったのかしら。ひょっとして血の量が少なかったから?


「ね、ねえ。あなたたちの世界では、皆あなたみたいに強いの?」

 私の質問に、女の子はおかしそうに笑う。

「なに言ってるんですか。私はか弱い村娘ですよ。近所のお兄ちゃんなんか小石を投げつけて鉄竜の頭を粉砕できるんですから。私なんてまだなだです」

「「「「…………」」」」


 暫らくすると魔法陣から眩い光が溢れて、辺りを包む。そしてその光が収まった時には女の子の姿はそこにはなかった。



「人間たちよ」

 女の子の姿が消えても無言で立ち尽くしていた私たちに魔王から声が掛けられた。


「今から手紙をしたためるから、おぬしたちの王に届けてはもらえぬか?和平の交渉をしたい」

「「「「「えっ!」」」」

 私達は……いや、魔王四天王の二人も含めて全員が驚きの声をあげる。

 だって、今まで戦争していたのよ。それをこうもアッサリと和平だなんて。

 まあ、こちらとしては助かるけど。

 どう見ても魔王と四天王二人の戦力は、魔王の間に集結している私達一個師団を遥かに凌駕しているから。


 何か言いたげにしていた四天王二人を威圧で黙らせて、魔王は約束通り手紙を書き始めた。


「あと、我々が召喚した者についてだが、変異型のバハムートだった事にしないか?それでここにいる全員で倒した事にして欲しいんじゃが……」

「分かりました」

「「「ヴィーニャ?」」」

 あなた達の言いたいことは分かるよ。でも……

「私もヴィーニャに賛成」

 タニアが私の意見に賛同する。まあ、頭のいい娘だ、賛同することは分かっていた。


「タニア、あなたも国王様に虚偽の報告をするの?」

「国王に対する背任行為ととられても文句は言えないぞ!」

 他のメンバーが私達に怒りをぶつけてくる。


「だったら、あなた達だけ真実を告げればいい。一〇歳くらいの女の子が屍竜の頭蓋骨を蹴り一つで粉砕したって。私もタニアもバハムートだと言うから」

「「「「!!」」」」

「そ……そんな事したら虚偽申請をしたとして、こっちが処刑されるじゃないか!」

「だからよ。こちらがいくら真実を告げても、相手がそれを受け入れられなければ、こっちが嘘つきにされてしまうの。分かった?だからこの場に現れたのはバハムートの変異体。いい?私だって納得しているわけじゃないわ。でも仕方がないことなの」

 皆がうなだれる。一応は受け入れてくれたかな?

 まあ、一人二人真相を言い出したところで誰も信じやしないんだけど。


「では、この手紙をそなた達の王に」

「たしかに」

 魔王から手紙を預かり、私たちは魔王の間から出る。


「なあ、勇者よ」

 その時、後ろから魔王に声を掛けられた。


「強さって……何だろうな」

 私が知りたいわ!

 これでも強さを極めるために血のにじむような剣と魔法の特訓を十年以上やってきたのよ。

 それを何?蹴り一つで屍竜の頭を粉砕?近所のお兄ちゃんは小石でなんちゃらドラゴンの頭を吹き飛ばす?



「王都に戻ったら、花嫁修業でも始めようかな……」

「「「「えええぇぇぇぇ?」」」」

 魔王城から出た私がポツリとつぶやくと、皆が驚きの声を上げた。


「な、なによ!私が結婚したがったらおかしいの?」

「い、いえ……確かに……私も強さを求めるのが空しくなりました。そうですね。二人して花嫁修業しましょう」

「あ、じゃあ、私も」

「私も!」

 ルフィーナを筆頭に女剣士たちは私に賛同してくれた。

 みんな同じ気持ちだったようだ。


 さあ、あとひと踏ん張りだ。

 帰るまでが遠征だからな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ