表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
良さんとチロとぼくの物語  作者: 矢田箍史
4/4

新しい人生

バッグ二つを持って、また、ドヤ街に舞い戻った。宿にバッグを置くとスーパーに買い出しに行く。いつも通り街を歩く。今日は会えないと友衣さんからはメールをもらっていた。

 夜はいこい食堂に行き、二週間ほどまた毎日、お世話になりますとお願いする。旦那さんが(若い人はいろいろあるな)と言ってくれ、深くは聞かれずにホッとする。

  13日(月)、25日に使う、ユンボと運ぶ輸送用のセルフローダを依頼しに専門のレンタカー店に行く、共栄土木の頃にユンボ操作者として、ぼくはここに何度か足を運んでおり、要領はわかっていた。ぼくの免許では運べるユンボは限られ、パワー不足だが、しょうがない。土曜日午後から使用の月曜朝返却で、料金と保険料計五万円弱を支払う。取りに来る時間は後ほど連絡と告げて店を後にする。間違いなく予定どおりには戻せないだろうと胸が痛むがそれは忘れ去ることにする。

 ユンボを手配したら心も決まり、もう迷いはなくなる。実行するのみ。

 廉さんに、相談があり、会いたいが今週どこで大丈夫かとメールを送る。

夕方に、(木曜日夕方にいつものとんかつ屋で食事でも)との返信がある。

 14日(火)、デパートに行き時計を選ぶ、男性用、女性用、置時計を買う。

高級品を買ったわけではないがきちんととしたものを選んだつもり。(プレゼント用ですか)と聞かれるが咄嗟に仰々しいのは嫌だなと思い。普通で大丈夫と答える。家を出て以来こんな買い物をするのは始めて、心は軽くなる。

 15日(水)、竜一の家に電話をしてみる。想像していくつか考えておいた問答セリフをしゃべる。

「フジモータースです。お車の点検の件で御主人様はいらしゃいますか」と切り出す。

「旦那様は会社です」「では、夜にまたお電話させていただきます。何時ごろ御帰宅予定ですか」と切り返すと

「旦那様は今日こちらには帰ってきません。直接、旦那様の携帯に電話してください。お願いします」と切られてしまった。竜一のことも聞きたかったが、やはり、父親はなにかの事情であの邸宅には帰ってこないようだ。もう電話は出来ないが、計画通りに実行できると確信する。

 16日(木)、廉さんととんかつ屋で食事をする。土木の仕事を辞めたこと、年末からしばらく会えないことも伝える。廉さんは静かにぼくの話を聞いてくれる。ぼくがしようとしていることを全部話したい衝動にかられるが思いとどまる。そして時計を渡す。固辞するがどうにかお願いしてもらってもらう。廉さんは時計をはめてくれて素晴らしいねと喜んでくれる。

「俊ちゃん、何かあったのかい、何かしようとしているのかい。じじいに若いもんが形見分けかい」ぼくは何も言えない。

「俊ちゃん、じじいは長くないよ、数少ないドヤでできた友達として見送ってな。それが自然の摂理だよ。俊ちゃんは素直で一生懸命だから大丈夫。君のことわかる人は絶対に応援してくれるから、だからそのまま真直ぐ生きて、無理はするなよ、いいね」

 ぼくは丼に顔を伏せ、塩味のご飯を食べた。そして百人力の気分で廉さんを見送った。

 18日(土)、最終の下見に竜一の邸宅を見張る。今回はレンタカーを翌朝まで借りる。現場に行く前にホームセンターに寄り、フェイク用の工事中シートと引掛けるのに使う簡易ポールを少し多めに買う。

 邸宅はやはり乗用車は停まっておらず、竜一が乗り回しているバイクも無かった。家のまわりの樹木と柵を見て回り、工事中シートとポールでどう誤魔化すか考える。上手くできそうだ。お手伝いさんは予定通り17時に帰った。この日は深夜1時を回っても竜一は帰って来なかった。

 計画は決まった。後は12月25日の決行のみ

 19日(日)、2週間ぶりに友衣ちゃんに会う。他愛もない話をする。なぜか会えなくなるという話をできない。ただ、買ってきた時計だけは勢いで渡す。

「えーっクリスマスプレゼント?」と驚いて聞かれる。ああっ、そんなこと考えてもいなかった。そういえば、デパートはクリスマスバージョンだった、そしてプレゼントですかと聞かれたことを思い出す。今のぼくの頭には12月25日は良さんの命日、そして決行の日でしかなかった。

「あっ、そうです、来週の日曜日は会えないから」ドギマギして答える

「えーうそ、困る。じゃあ24日の夜会ってくれますか。食事でも」

「24日の夜」一瞬、決行の日のことを考える。

「わかりました」完全に勢いだった。

「じゃあ上野駅中央改札の前七時でいいですか」

「いいです」答えてしまった。

 友衣さんは嬉しそうに帰って行った。

 20日(月)、21日(火)は24日の夜、25日決行への不安と緊張で混乱し、部屋で拳立て伏せ三百回など過度なトレーニングで自分をごまかした。。

 22日(水)少し正気を取り戻す。銀行に行き預金残高を確認して、三年間分の生命保険引き落としの金額と二か月分の携帯料金と解約料金をを残しあとは引き出す。思ったよりずっと残っていた。その中から五万円を財布に入れる。通帳は破き、カードは割り、銀行印は名前をアスファルトで削りわからなくして、まとめてビニール袋に入れコンビニの燃えるゴミに捨てる。

 母親に電話をする。非通知のはずなのにワンコールで出る。まず、ガラクタの息子を詫びる。そして借りているお金を少しずつでも返すからと口座番号を確認する。(お金はいいから帰ってきてと電話番号を教えて)いつもの言葉を言われる。最後に父と妹にも謝っていたと伝えてと言い、また詫びて電話を切る。封筒に残っているお金をすべて母の口座に振り込む。

 

 23日(木)、シャワーではなく、銭湯に行く。コインランドリーで24日と25日の衣類を洗濯、乾燥させる。風呂場でよく洗った後、清めの水を何杯も浴びる。宿に一度戻り、置時計を持っていこい食堂に伺う。

旦那さんも奥さんもが喜んでくれ、カウンターの調理場、客席双方から見えるところに置いてくれる。普通の定食にスペシャルなおまけをつけてもらいごちそうになる。

 宿で25日の行動予定をもう一度確認する。

24日(金)、友衣さんと会う。アップした髪型と大人っぽい服装が眩しい。ぼくは昨日、洗ったジャンパとジーパンだったが。

 ぼくはお店などわからないので友衣さんに連れて行ってもらう。メイン通りから外れたビルの八階のイタリアンのお店だった。窓際で池が見渡せた。不忍の池だそうだ。友衣さんが料理を頼んでくれ、待っている間に(少しいびつでごめんなさい)と言う友衣さん手編みのオレンジ色のセーターと、なんとぼくがこの前、渡した時計と同じ型の男性用をもらった。

ぼくは目の前がクラクラしてしまう。ぼくは今日は何もプレゼントは持ってこなかった。

 何を食べたか、何を話したかも良く憶えていない。友衣さんの話に相槌を打ち、結局、明日以降会えなくなることも言えなかった。割り勘でと言う友衣さんに、会計だけはぼくが払わせてもらった。二人で一万円もしなかった。

 帰り路、ぼくはオレンジ色のセーターを着て、友衣さんと同じペアの時計を付け、不忍池のほとりを腕を組んで歩いていた。もうほとんど夢の中だった。

 ドヤに戻り、まだ、夢から醒めないでいたが、あの時の血のぬくもりの感触、竜一の薄笑いを思い起こし、明日の予定を確認した。もう一人の自分が今日は最後の晩餐のようなものだと言っているのがわかった。


25日(土)朝、やはり不安と興奮で思うようには眠れなかったが、時間になり起きる。下着に良さんの遺品の血だらけになったラクダのパッチとモモヒキを着る。もちろんきれいに洗濯はしてある。そして首にチロの金属鋲の太い首輪を巻くちょっとみっともないので上からバンダナを巻く。作業服を着て、良さんの位牌を手ぬぐいで包み内ポケットに入れる。上にドカジャンを羽織る。靴は治さんにもらった。安全ブーツをピカピカに磨いてある。

 レンタカー店に電話をして引取りの時間を告げ向かう。途中簡単な朝食を取り、再度メモをみて予定を確認する。

 店ではユンボが積み込んだ状態でスタンバイしていた。簡単な説明と点検を受けると余計なことはしゃべらないように、素早くセルフローダーに乗り込み発車させた。一度、宿に戻り置いてあった、工事中シートとポール、手荷物を積み込み、引き払うことを確認して、

 いざ出陣。


竜一の邸宅に向かう途中、停車させて仮眠を取る。十六時半には少し離れた場所に停車できていた。邸宅の駐車場に乗用車も竜一が普段使うバイクも無い。もう、後戻りはできない。これからどうなるのか。脳裏をよぎる。家族や世話になった人たちにどんな迷惑をかけてしまうのか考えだしたらきりはなかった。だが、あの時の、竜一の薄笑いだけを思い出す。

 十七時を回った。車を離れ邸宅を確認する。予定通りお手伝いの女性は裏手から鍵を閉めて帰って行った。念のため三十分ほど待機する。待つ時間は長い、時計の秒針はなかなか進まない。

 十七時半時間が来た。車を動かし駐車場に入れる。大きなスペースの駐車場はスムーズに停車できる。まわりの樹木と柵に用意してきたポールも使い工事用シートをかけて廻る、一見、外からは工事中に見えるように工夫する。

このおかげで人目は気にならなくなる。セルフローダーからユンボを降ろし動かす。邸宅の玄関口の前に移動する。

 やはり、いざ、壊すとなると躊躇する。何も考えず機械的にバケットを玄関口の柱にぶち当てるガツンと鈍い音はするが壊れはしない。自分の考えていた画面とは違う、もう一度大きく振り回してぶつけるが、びくともしない。なんだこれは、こんなに頑丈な物なのか。

 ユンボのパワー不足か、アタッチメントを替えるべきだったか、いろいろ後悔するが後の祭り。別の角度から何度もバケットをぶつけたりかませて引き寄せる。車体を回転させバケットをぶつけ屋根側から圧力をかける。少しずつなれてきてコツがわかってくる。やっと柱を壊す。しかし、作業は思ったほど進まない。それでも何とか玄関口部分を壊し終えた。午前零時まで時間はまだある。近隣の住宅と離れていても騒音が夜遅くなれば通報される可能性があるので注意する。

 短時間にぼくの手で竜一の家をなくす(ホームレス)がぼくの目的。

 その時、バイクの爆音が響く、(えっまずい、あれは竜一のバイク)爆音が近づく。やはり竜一だった。最悪だ。でもぼくは壊し続ける。

 バイクを倒して竜一が駆け寄ってくる。

「お前、何、やっているんだ。自分のやっていることが分かっているのか」

「気が狂っているのか」ぼくを操作席から引きずり降ろそうとする。ぼくはしがみつき壊そうとする。

「止めろ、止めろお」竜一が叫ぶ。ものすごい力で、やはり、ぼくは引きずり降ろされる。ぼくは殴られる。ボコボコに。でもぼくは殴り返さない。それは決めた事だから絶対に人を傷つけない。ぼくはまた操作席にしがみつき壊そうとする。

 竜一は何を思ったのか、無くなった玄関から家に入って行った。そして、鬼の形相で戻ってきた。手に白い棒を持って、いや、日本刀だ、鞘を捨て振り回す。それでぼくを切るのか。気が狂っているのはお前だ

 もう何もわからない。もうしょうがない。それでもぼくは壊そうと操作する。鬼がぼくを蹴り落とす。転がって四つん這いになったぼく。鬼がぼくの首に日本刀を振り下ろす。

 終わった、すべて終わった、残念。

カキーン、えーっ日本刀が折れ宙を舞う、首がめちゃくちゃ痛いが意識はある。チロの首輪あの凄い金属の鋲だ。

 鬼の竜一も我に返る。遠くからパトカーのサイレン音。さすがにこの剣幕では通報されるか。

 12月25日十九時八分ぼくは建造物損壊罪で現行犯逮捕される。

 

 ぼくはかなり肉体的にダメージを受けていたため手当と診断を受けた。そして、警察で取り調べを。やったことはすべて認めた。良さんの事件で竜一を憎んでいたことも正直に話した。そして、共栄土木は一切関係ないこと、またレンタカー店も何も知らないことをありのままに話した。また、暴力は受けたが一切自分からは手を出さなかったことは伝えた。それは状況からも明らかだったと思う。

 父が頼んだという弁護士がすぐに接見にきてくれた。父がレンタカー店への謝罪や不起訴にするための示談金などいろいろ動いてくれているようだった。竜一側は応じていないが、先方の一方的な暴力でぼくがかなりのケガを負ったため、それは逆に交渉していくというような話だった。


 検察での取り調べを受け、その後、弁護士さんのお力かぼくは勾留を免れた。

 迎えに来てくれた父の車で帰る。ぼくは申し訳なくて一年ぶりの父の顔が見れなかったが、会うなり父は「本当に俊介か、あの青白かったお前が、真っ黒で筋肉隆々のの凄い体になったな、顔付も変わった。まるで別人だ」と背中を叩いてくれた。ぼくは「いろいろ申し訳ありませんでした」と深く頭を下げた。

 しばらく沈黙が続いた車内で父が静かに話した。

「俊介、父さんずっと忘れていたんだ。知っているだろ父さんと母さんは学生結婚だった。父さん小さい時に両親亡くして、ばあちゃんに育てられた。そのばあちゃんも大学一年の時に死んでしまって、一人だったから、母さんと一緒になれて家族ができて凄いうれしかった。

そして、早くにお前ができて、向こうの親には反対されていたからいろいろ苦しかった。でも、その時決めた。どんなことしてもお前と母さんを守るって。いつの間にか、お金稼げるようになってそれなりの地位もできて、そしたら誓ったことなんか忘れていたんだ。

 良さんって人はお前にとって大切な友だちだったんだろ、父さん全然見ていなかった。まあ、お前のやったことはバカみたいなことだけど。俊介、男としてのスケールはお前が上だ。父さんには思いもよらない。相手に一切手を出さなかったことも。

 俊介を父さん守る。金なんか二の次だ。母さん、お金無くたって父さんに付いてきてくれる。真由はできる子だしな。それとな、お前、父さん受け取りで結構な金額の生命保険に入ってただろう、まあ、いいそんなもの早く解約しろ。」

「今回の件は、面白い恰好のネタで、家にもかなり取材が押し寄せている気を付けろ」

 ぼくはまさかの言葉に上を向いて涙をこらえるしかなかった。

父の言う通り、家にはいくつかの取材陣が張り付いているようだった。ぼくは避けるように急いで家に入った。家族に顔をみせると、 母は泣きだした。「ごめんなさい」とだけ言った。

 妹にも「すまなかった」と言うと

「兄さんが変なことするのは慣れてるから、知りません、関係ありませんで通すから、でも兄さんイケメンになったね」相変わらず強い妹だ。

 まさか、家で年末を迎えられるとは思ってもみなかった。溜まっているメールの返信をなんと書こうかと迷っていると、なんと昼のワイドショーでこの事件を紹介していた。不思議な気持ちだった。

 ルポライターの森島さんから家に連絡が入る。他の電話は断る母だがこの電話はつないでくれた。会って話がしたいとのことでぼくは承諾して、指定の待ち合わせ場所と森島さんの携帯番号を控える。

 その日の夕方、指定の喫茶店で森島さんと会う。ぼくは良さんの葬式の時のお礼を述べる。

「俊介君、すごいことをやったね」ぼくは何と答えていいのか返事に困る

「君のハンサムぶりも相まってマスコミは大注目だ」

「はあっ」気のない返事をする

「あっ、ごめんなさい、今日伝えたいことはきみにとって素晴らしいニュースだと思う。前に、堀田の会社のことを調べていて、良さんの事件も少し当たってみるって言ったよね。それであの事件の被害者の少女に夏に会うことができたんだ。

 あの少女は母子家庭の子でね母親が生活に困って働くために施設に預けたんだ、よっぽど母親が恋しかったんだろうね、そのショックで失語症のようになってしまい、そしてあの事件だ。でも、保護されてすぐにお母さんがびっくりして、また引き取って暮らすようになった。そうしたら、しばらくしてまた、ちゃんと話せるようになったんだ。そして、ぼくはあの子と母親にいろいろ聞くことができたんだ。

 あの時、あの子は風邪をこじらせて施設を抜け出したんだ、その理由がね、いつも病気の時は母親が大切に看病してくれていてそれが恋しくて、母親を探して出てしまったらしいんだよ。そしてずぶ濡れで良さんに会った。良さんはやさしい人だからね。どうしていいのかわからずにとにかく自分でできること濡れた洋服を着替えさせてテントに寝かせてあげた。その時あの子はいつもと同じ症状で鼻が詰まっていて、唸っていたようなんだよ、お母さんから聞いた話ではあの子はよく鼻を詰まらせ、その度にお母さんが鼻水を吸ってあげていたんだよ。そう、苦しそうなあの子の鼻水を良さんは吸ってあげていたんだ。もしかしたら、良さんも子供のころにそんな経験があったんじゃないだろうか。これはあの子がはっきり言ったんだ。もうろうとしている中でおじさんが母さんと同じように鼻水を吸ってくれたって。全然怖い感じなんかしなかったって。お母さんもこの子の本当の話を聞いて感謝しているんだよ、良さんに。俊介君」

 

 「良さん・・・」ぼくは号泣した。喫茶店で他に人がいるのに抑えられなかった。

「俊介君、泣くなよ、君は純粋な男だな。うん、この話の価値が分かるのは君しかいないと思っていたんだ。事件はもういたずら未遂で終わっている。警察だってこんな話は関係ない。でも君ならわかってくれると思っていた。それで相談だ、俊介君、君は今、時の人だ。ぼくは君も良さんも堀田竜一も知っている。あの子のお母さんも良さんの名誉のために証言してもいいって言ってくれてる。

ぼくに君の今回の一連の事件、もちろん一年前の良さんの事件からの特集記事を書かせてくれないかこの一年君がユンボを扱えるようになった経緯も合わせて。もちろん嘘は書かない約束をする、まあ、ぼくが載せられるのは三流ゴシップ誌だがね」

「ありがとうございます。良さんのこと本当にありがとうございます。森島さんどうぞ、本当のこと書いてください。ぼくはすべて協力します」

「ありがとう、俊介君。良い物を書くよ。それと、堀田の会社の収賄疑惑はもう検察庁が動いているとの噂だ。大変だろうあそこも、竜一もね本当は可哀想な子だ。父親の妾の子だ、小さい時から父親と一緒に暮らしたことなどない。俊介君が壊した本宅、あっごめん、あそこにだって父親はめったに帰って来ない。ずっと他の女の所だ。竜一もずっと父親の顔色を伺って生きて来た」ぼくはすこし竜一の狂気が理解できた気がした。

 この後、出た森島さんの記事は当たったようだ。そして弁護士さんの力でぼくは不起訴になった。父の損害賠償もぼくが玄関しか壊せなかったことも幸いして財産をつぶすことにはならなそうだ。ぼくに芸能界なんて話もきたが、そんなふざけた話はクソくらえだ。世間の噂もその内に消えるだろう。

 

 新緑の頃、今のぼくにとっての大ニュースは共栄土木の社員になって再び働きだしたこと、友衣さんと正式に結婚を前提にしてお付き合いさせてもらっていることだ。あと、師匠、廉さんの保証人になってアパートに移ってもらったこともだ。今は寮の窓からオヤクロたちのエサを見ている。なんだか不思議な気持ちだ。ひきこもりのぼくが良さんとチロに出会い、そしてまた、いろんな人に出会い、全く別の人生を歩き出した。

 竜一の薄笑いはもう忘れかけてきた。でも、良さんとチロに手を合わせるのは忘れない。彼らはぼくの大切な友達だから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ