表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

まずは僕の不幸自慢から。

平和な日常を送っていた高校2年生の僕、金原弥生(かねはらやよい)と、年の離れた小学生の妹、明日香(あすか)にまつわるお話。


妹に君付けで呼ばれるお兄ちゃんってどれ程いるんだろう。

何はともあれ自慢の妹です。


僕はどこにでもいる一般的な高校生だ。

人並みの体力。顔は可もなく不可も無くと自分では思っている。

2年生という半ばの時期も相まって、勉学に勤しんでいるわけでもない。


―ただ、すこぶる運が無い。


その一例として、妹の話をするとしよう。

妹とは年が離れていて、今年小学5年生になった大人ぶったガキんちょだ。

偉そうにお節介を焼く奴で、年が近ければ犬猿の仲になっていただろう。

まぁそれは置いておくとして。


先日、妹と大型デパートに出掛けた時だった。

雑誌の18歳未満はお断りコーナーで立ち寄るべきか決断しかねているときに、手にしたプリンをせがもうと僕の元へやってきた妹にその現場を目撃され、しばらく口を聞いてもらえなかった。


そして2週間ぶりに妹は僕の部屋を訪れ、ようやく雪解けとなった所に、教育に宜しくないようなDVDを大量に抱えた友人が突然アポ無しで入ってきて、妹はさらに2週間僕の存在を否定した。


運というよりタイミングが悪いのかもしれない。

まぁ後半は僕の友に非があるわけだが。



そんな、ある意味平和な日常を送っている中、世間は連続放火事件の話題を賑わせていた。


幸い死人は出ていないものの、今月に入ってから既に3件の被害が出ており、昨日流れた速報ニュースではここから二駅離れた隣町での被害を報じていた。

更には、被害に会った家の隣が妹の友人がいるアパートで、警察から色々と事情聴取をされているらしい。

現場付近で一人暮らしの友人を放っとけないと、お節介の妹はその子の家に泊まりに行くことになった。


「買い物はしたからご飯は自分で作ってね。戸締まりはしっかりと、窓もちゃんと締めるんだよ。明日の夕方には帰るから。返事は?」

「はいはい…」


支度を整えながら母親気取りで命令を下す妹は、適当な返事で返す僕をジロリと睨み付け溜め息を吐いた。


うちは片親で、共に暮らす父親は出張のため今は家を空けている。

現場の近くに泊まる妹の方が危険なはずなのだが、妹にしてみれば放火魔の出回っている時に家に一人となる僕が心配なのだろう。

小学生に心配されるってのも変な感じだ。


少女はトントンとスニーカーを鳴らし玄関を開ける。

「じゃあ行ってくるから。留守番しっかりね、やよい君」


妹は小学校にあがったときから僕を名前で呼んでいる。

僕を兄として認めていないのか、対等の立場であることを強調したいのかはよくわからない。

「お前も気をつけろよ」

一言そう伝えると、幼い少女は勝ち気な笑顔を向けてきた。



午前1時。

蒸し暑さを感じ目を覚ます。

これから初夏というこの時期は日によって、更には時間帯によっても温度差が大きく、昼との気温の変化で起こされることは少なくない。

絡みつく布団をもぎ取り、喉の渇きを潤そうと冷蔵庫を開けた。

しかしぼんやりと照らす光の中にお目当てのものは無く、溜め息と共に冷気を閉じ込める。


小金を持ち、軽く着替えて外へ。

深夜ということもあり多少気が引けたが、歩いて5分程度にあるコンビニなら大丈夫だろう、と結論づけた。


店内に入ると店員の笑顔が出迎えてくれた。

深夜にしては品揃えが良く、あれもこれもとカゴに詰めていくうちに結構な手荷物になる。

帰ったらどれから食べよう、など幸せな気分に浸ってた刹那、視界の端に人影が揺らぐのを感じた。


…………?


横目でそっと確認するが、そこには来た時と変わらない暗い道が続いているだけ。


気のせいか?いや、こういう時は絶対に何かいる。


映画の主役になったような気分で、そろりそろりと足を進めていく。

近付くにつれて感じる人の気配。

どうやら店と隣の建物の隙間にある細い道に居るようだ。


こんな時間に隠れるようにして狭い場所に入り込むなんて。


僕はほぼ確信を持ってこの先に居るであろう不審者に近付いていった。

これから起こることへの恐怖と、少々の、しかし確かに存在する好奇心。

激しく鼓動を打つ自らの心臓を抑えながら、僕は息を殺してそっと細道を覗いた。



まず目に入ったのは長身の男の背中。

足元には得体の知れない水たまりと、そこへ投げ込まれる空ビン。

刹那、夜の静かな街にガラスの割れる小気味良い音が響いた。

カチリ、という音と共に男の右手がぼんやりと光り、それがライターであるとわかった瞬間僕は慌てて身を乗り出した。

正義感などでは無く、極度に緊張した中でその瞬間を目撃し、慌てて止めに入ってしまったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ