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メンテリオの所在

「トパジー殿下を操っている?」


 翌早朝、トパジーがまだ眠る部屋の前で、おれはミリアに事情を説明していた。


「どうしてそんなこと……」


 ミリアは思いっきり顔をしかめている。やっぱり良い顔はしないか。そうだよな。まるでアダマーサ女王みたいなマネをおれはしたんだから。とはいえすべて説明しないわけにもいかない。


「トパジーがまた帝国兵を攻撃すれば、帝国はトパジーを殺しちまう。おれが人間兵器になって、そしてトパジーの敵意をなくすことでトパジーを守るんだ。トパジーだけじゃなくて……おれの弟も……ヤーデも」

「ロッチャくんはともかく、ヤーデ様って……オマエはあの人のことを母親とは――」

「たとえ母親と認めたくなくても、アイツが襲われてるのを目にしてムシャクシャしたのはまぎれもなくおれの気持ちだ。それが『守る』という目的に繋がるんだと、おれは思う」


 ミリアは長い長いため息をついた。


「帝国に買われるってことですね」


 そして二度目のため息だ。


「わかりました。オマエがそう決めたんなら、あたしはそれについていくことにします。あたしにも、オマエを守るという目的がありますから」

「……ヴィクトロのためか?」


 おれが訊くと、ミリアは微笑み、おれの頭を撫でてきた。




 昼過ぎ、おれとミリア、そしてトパジーはラフェンのもとを訪れることにした。


「おー? どうやら女傭兵はすっかり復活らしいな」


 食堂にいたラフェンはテーブルに頬杖をつきながらミリアを見て笑っている。


「俺に何か用? まぁメシでも食いなよ。魚の干物しかないけど」

「あとでいただきます。ラフェン、あたしはオマエに訊きたいことがあるのですが」

「なに? 彼女の有無? わりぃけど今はそういうのに興味はないんだよね」

「違いますし、あたしもオマエに興味はないです」

「冗談冗談。おたく既婚者の腕輪してるしね。で、質問って?」


 おれたちはひとまずラフェンの向かい側に着席した。


「メンテリオはどこだ?」


 ミリアにかわっておれが尋ねた。


「あー……それね……」


 突如、ラフェンがうわのそらを見上げる。


「メンテリオって誰?」


 トパジーが訊いてきた。


「おれの父親だよ。認めたくないけど。んで、ヤーデの旦那で、ロッチャの父親でもある」

「父親……」


 トパジーは納得したらしい。おれはふたたびラフェンを見る。


「メンテリオにはルーグ・カンパニーがついてたはずだろ。そいつら今も一緒にいるのか?」

「ん~。いるっちゃいるけど」

「……なんだか煮え切らないですね、さっきから。ラフェン、これはあたしの予想ですけど、ヤーデ様とロッチャくんをここに連れてくるとき、オマエら帝国兵はメンテリオに乱暴したんじゃないですか?」

「まさかまさか、こっちからは仕掛けてないらしいぜ!」

「……したんだな、乱暴」


 ラフェンは悪びれる様子もなく小魚をボリボリ噛み砕いている。


「俺も報告書で読んだりヤーデたちを連れてきた仲間に聞いたりしただけだから、実際の現場の様子は知らねぇんだけどさ。なんでもメンテリオがいの一番に抵抗したらしいぜ? ルーグ・カンパニーよりも先に」

「ヤーデ様たちが連れていかれることに?」

「そうそう、女傭兵の言うとおり」

「あのメンテリオが?」


 おれは眉間に力をこめた。


「あのメンテリオがどのメンテリオかも俺は知らねぇけど。ちょうどここにその報告書を持ってるから読み上げてやるよ。えー、オホン。……『ええーいっ! ややややヤーデと、ろろろろロッチャを連れていこうとする輩は、ぼ、ぼぼぼぼぼボクがっ、このボクが許さないんだからなーっ! こ、ここここ今度はボクも戦うんだいっ!』……って叫んだらしい。そのあと帝国兵に殴りかかったってさ。どうだ、今の似てたか?」

「似てはいねーけど……口調はそれっぽかったぞ。内容は信じられねーけど」

「成長したんですかね。メンテリオのくせに」


 おれはミリアと顔を合わせて頷きあった。やっぱりミリアも信じられないらしい。


「……フェジュのパパって、そんなに強い人なの?」

「いや、秒で負けたってよ、お姫様」


 負けたんかい! おれとミリアは同時にうなだれた。


「俺もメンテリオを見たのは一度っきりだけど、なんか弱っちそうな男だったなぁ。ひょろっちぃし、いかにもインテリ系で力仕事はできなさそうって感じ」


 まあ、ラフェンの見立てはだいたい合ってると思う。


「――それはウチの夫を侮辱しているのかしら? 帝国兵」


 うおっ。いつのまにか、おれの背後にヤーデとロッチャが立っていた。二人はジジイのところに行ってたのかな……お香のにおいがする。


「俺は見たまんまを供述しただけですぜ、ヤーデ様。ああいう男にはならなくてよかったなぁっていう個人の願望と安堵感をそこはかとなく込めては言いましたが」


 まんま悪口じゃねーかよ。つーかラフェン、ヤーデとロッチャがいることを知りながら悪口を言ったのか? どういう神経してるんだコイツ。いや今さらか。ラフェンにうんざりしていると、おれとヤーデの目が合った。そういや、あの夜から、まともに会ってなかったな。おれは気まずくなり、すぐに視線を逸らした。


「夫を人質にとられていなければ、わたしだって魔法を使ってあなたたち帝国兵をケチョンケチョンにしてやるのに……わたしからしてみれば、帝国も王国も卑怯者の集まりだわ」


 アイツ、人質になってるのか……


「まぁまぁ落ち着きなさいって、ヤーデ様」

「ふん。おまえ、ラフェンとかいったわね。敬う気すらないくせに様だなんてつけないでくれる?」

「あ、じゃあヤーデって呼ぶわ。ラッキー。いや~、おまえの帝国での立ち位置がよくわからないとはいえ緑頭に様づけするのって嫌だったんだよねー! 考えてみれば敵国の元お姫様に気ィ使う必要もなかったわ。ゴメンゴメン」


 切り替え早っ。


「あ、あの……ケンカはやめて……」


 ヤーデが発するピリピリした雰囲気を感じとったのか、トパジーが言った。


「……どうしてわたしがアダマーサの娘に指図されなくちゃならないの?」


 すかさずヤーデの鋭い視線がトパジーに突き刺さった。

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