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二人が連れてこられた理由

「なんであの二人がここにいるんだよ!」


 おれはそう叫ぶしかなかった。おれやトパジーの視線の先では、ラフェンがヤーデとおれの弟ロッチャを古城に招き入れている。


「フェジュ、あのふたりはだあれ?」


 さっきよりはだいぶ落ち着いた様子でトパジーが訊いてきた。


「おれを産んだ人と、おれの弟だよ。ヤーデとロッチャっていうんだ」

「弟……フェジュはお兄ちゃんだったの?」

「まあな」


 それっきりボーッとし始めたトパジー。きっと王国にいる自分の双子の兄のことを思い出してるんだろうな。って、それどころじゃない。ヤーデとロッチャはルーグが守ってたはずだ。それなのに、どうしてここに連れてこられてるんだよ。


 夜を迎えた古城の廊下で、おれとトパジーはヤーデとロッチャを連れてきた帝国兵を捕まえた。そこで聞き出した結果、ヤーデとロッチャがここに来たのは「トーワの思し召し」だってことが判明した。思し召しってことは、つまりトーワのおっさんが二人に会いたいと言ったってことだ。


「まあ、おっさんからしてみれば、あの二人も家族ってことになるんだけどさ……」


 帝国兵を解放したおれはトパジー相手に愚痴る。


「家族?」

「あれ、そうか、トパジーには言ってなかったな。あのヤーデって女の人は、トーワのおっさんの娘なんだよ。その子どもがおれとロッチャってことだから……トパジーにとっておれたちは親戚なんだよ」

「だからみんな緑色の髪の毛なのね」

「そういうこと」


 おれは腰に手を当てて考える。ヤーデとロッチャはこれからここでどう暮らすんだろう。つーか、メンテリオはどうしたんだ? ドモンドのジジイなら何かわかるかな。


「トパジー。ヤーデとロッチャはいまトーワのおっさんと三人で会ってるし、おれはこの隙にドモンドのジジイと話がしたい。ついてきてくれるか?」

「うん……フェジュが行くなら」

「ありがとう。大丈夫、ジジイはオマエに悪さはしねーからな」


 おれはジジイがいる部屋へ向かった。



「おい、ジジイ。起きてるか?」

「なんじゃ……フェジュか。ん? ややっ、これはこれは。トパジー殿下もおられましたか!」


 相変わらず態度が激変するこって。ジジイはトパジーを部屋の中へとエスコートした。けっ。


「ここはトパジー殿下のお口に合うような品は用意できませんで……果実をしぼったジュースくらいしかお出しできませぬが」


 ジジイはトパジーにだけジュースを差し出し、おれには何も寄越さなかった。


「ところでジジイ。あれ、どういうことだよ。ルーグは何してるんだよ! ジジイはとめなかったのか?」

「むろんワシとてルーグに抗議したわい」


 おれのとなりでベッドに腰掛けているジジイは腕を組んだ。


「じゃが……ルーグにも守るべきものがあったということじゃ」

「はあ? なんだよそれ!」

「大人が守りたいものは子どもには見えづらいのじゃ……目線の高さが違うからのう。これに関してはもう質問するでない」


 ……という言葉でヤーデとロッチャの件は片づけられた。なんだよ、目線の高さって。そんなもん、背丈が違うんだからあたりまえだろ。


「ちっ。どいつもこいつもおれをガキ扱いしやがって」


 おれはベッドに仰向けになった。


「舌打ちも禁止じゃ、フェジュ。そんなものが癖になってしまうとロクな大人にならん」

「勘違いすんなっつの。ロクなおとなが周りにいねーからガキがロクに育たねーんだよ!」

「ええい。さっきから聞いておれば、なんじゃその口の利きかたは! きたないのう! 汚物を吐き出すのは尻だけにせんか馬鹿タレが!」

「きたねーのはどっちだよ! それでも元貴族なのかよジジイ!」

「ワシの家系はもともと貧民じゃ。残念だったな!」

「誇ってる場合かよ!」


 などとおれたちが口論しているうちにトパジーはジュースを飲み終えたらしく、「おいしかった」と言いながら空のコップをジジイに返した。ふん。ジュースを褒められたくらいでへらへらニコニコしやがって、ジジイ。こんな状況だってのに、何が嬉しいんだか。バカみてー!


 その後、おれはトパジーを連れてミリアの部屋に戻り、二人が寝静まったのを部屋の外で確認した。今日も不寝の番だ。この部屋には絶対に誰も近づけるもんか。

 ヤーデとロッチャには会わずじまいだけど……ロッチャはともかく、ヤーデの顔なんて見たくない。おれはあいつらのところには帰らないって決めたんだ。それに、同じ屋根の下にいればイヤでも顔をあわすことになるだろう、いつかは。だから今は会わなくていいや。


「……ん?」


 いま、物音が聴こえた。どこからだ?


「――やめ……」


 声も聴こえた……ここから少し離れてる。あっちは……ヤーデとロッチャがいる部屋のほうだ。なんだ? 二人とも、こんな深夜にまだ起きてるのか?


「……やめて!」


 ヤーデの声だ。こうしちゃいられない。おれは立ち上がり、声がするほうへ急いだ。



 物音と声が聴こえたのは、間違いなくヤーデとロッチャが滞在する部屋の中からだった。おれは扉を少しだけ開け、中を覗きこむ。そこには……


「なにしてんだよ……オマエ?」


 おれは口に出さずにはいられなかった。部屋の中には、宙に浮いて壁に張りつけられた弟の姿と、ベッドでヤーデに馬乗りになっているトーワのおっさんの姿があったからだ。

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