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「パパに会いたい」

 それからしばらくしたあと。おれはテントの中に戻り、トパジー王女にスープを手渡した。すでに王女の両手は解放しているが、彼女が魔法を使う気配はない。


「なあ、トパジー王女――あ、そういや、おれまだ名乗ってなかったな。おれはフェジュ。フェジュって呼んでくれ、おれもトパジーって呼ばせてもらうよ。トパジー、どうしてこんな戦場に来たんだ?」


 トパジーは明らかに訓練された兵士などではない。ドレス姿だし、自前の武器も持ち合わせていなかった(さっき彼女が操ってたのは帝国兵や王国兵の死体が持っていた武器だった)。自分の意志で戦場に来たとは思えない。


「……パパ……」


 トパジーは、全身を震わせ、涙をこぼし始めた。


「パパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたい」

「ちょ、ちょっと、落ち着けよトパジー」

「パパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに会いたいパパに……」

「ひとまずスープでも飲んでください、トパジー殿下、スープ飲みましょう、うん。ごはんをちゃんと食べないとパパが悲しんでしまいます」


 ミリアがそう言うと、トパジーはおとなしくスープを飲んだ。

 な、なんつーか、強烈だな。こんなこと言いたくはないが、さすがはあの女王の娘といったところか。ヴィクトロを結晶化させてしまったのはおれに非があるが、トパジーのこういう姿を見ると、よけいに罪悪感が膨らんでしまう。


「よ、よし、今日はもう休もうぜ。あぶないヤツがこないよう、おれが見張ってるからさ。トパジー、安心して寝ていいぞ」

「パパに会いたい……」

「夜はしっかり寝るようパパはいつも言ってましたよ。ねっ、トパジー殿下」


 ミリアが声をかけると、トパジーは横になってくれた。おれは安心しつつ、寝息をたてるトパジーを見ながらミリアと話す。


「なあミリア、トパジーはどうして戦線に駆り出されたと思う?」


 おれは、さっきトパジーと二人きりで会話していたミリアなら何か聞いてるかもしれないと思って尋ねたのだった。


「わかりません。が、女王が絡んでることはたしかでしょう。王女に指示できるのは女王しかいませんから」


 ミリアは続ける。


「さっきまでのトパジー殿下、すごく怯えた様子だったことが気になります。ただ単にここが敵地だからなのか、それとも誰かに脅されているのかなんなのか……それは殿下本人に聞かないかぎりはわかりませんね」

「そっか……」

「あの様子を思うと、無理に聞き出すのもはばかられますけど」

「はばから……れ?」

「遠慮してしまうって意味です」

「へえ……うん、そうだな。はばかられちまうな!」


 でも、いつかはきちんと聞き出したい。そう考えているのはミリアも同じだろう。なんにせよ、帝国兵には魔法使いの価値をチラつかせたけど、帝国にトパジーを利用させるなんてことはしない。そう考えているのもまたおれだけじゃないはず。



 翌朝、おれたちのもとにドモンドのジジイと皇帝親衛隊員ラフェンがやってきた。


「おお……」


 二人をテントに案内すると、ジジイはトパジーを見るなり悲しげな表情を浮かべた。


「ジジイ、無理してシュバルに乗ってこなくてもよかったんじゃねーか?」

「バカを申せ、フェジュ。こんな一大事に駆けつけぬアホがどこにおるというんじゃ。して、トパジー殿下、おひさしゅうございます。ワシはヴィクトロの父であります。おぼえていらっしゃいますかな?」


 トパジーは無言ながらもうなずいた。ジジイは「ありがたき幸せ」と言いつつも、なんだか居心地が悪そうにした。ジジイはトパジーがヴィクトロの実子ではないことを知っている。だからだろう。


「ミリアは……」


 と、ジジイは次に、横たわったままのミリアと顔を合わせた。


「……何があったのかはおおよそ想像がつく。まずは命があって何よりじゃ」

「ドモンド様に珍しく優しくされると言葉に詰まっちゃいますが、ありがとうございます」

「ひとこと余計じゃわい、まったく」


 そういやミリアはジジイのことが苦手なんだっけ。それもこの七年でだいぶ解消されたとは思うけど。なんだかんだ、ジジイはミリアのことも気にかけてるみたいだし。


「フェジュも。聞けばおまえがトパジー殿下を止めてくれたそうではないか。よくやった」

「へへっ。まあな!」


 ジジイに面と向かって褒められると嬉しいな。鼻がむずがゆい。


「ところでドモンド様、その紫髪の男は誰です? 七年前、メンテリオの家で見かけたヤツですが」

「よう、ヴィクトロの秘書とやら。おぼえててくれたんだ、俺のこと。ありがてぇ幸せだぜ。名はラフェンってんだ、仲良くする気はねぇがよろしくな~」


 あ、ミリアがすげー怖い顔になった。ついでにセリフを盗られたジジイもしかめっ面になってる。


「まさか七年経ってもフェジュたちに危害を加えるつもりじゃないですよね?」

「仮にそうだとしたらとっくに殺ってるってぇの。俺は迎えにきたんだよ。皇帝親衛隊っつっても俺は皇帝陛下の雑用係なんでね」

「迎えにきた? おれをか?」

「ちげぇよ、フェジュ、おまえはここに残れ。それが陛下のご命令だ」


 じゃあラフェンは誰を迎えにきたんだ。

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