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魔法には魔法を

 前方からは無作為に放たれた武器が飛んでくる。剣や槍、いくつもある。全部トパジー王女が操ってるみたいだ。だけど、空中を切ってくる武器は敵を敵として認識しているのかわからない様子。要するに、おれから見たら、トパジー王女は自暴自棄になっているようなのだ。

 トパジー王女はずっと両手を組んでいるまま。あの両手を解かなければトパジー王女の攻撃は止まないってことだ。しかも、武器だけじゃなく、爆発も起こしてきやがる。なんて厄介なんだ、魔法って!

 でも、トパジー王女が武器を操ることができるんなら、おれにだってできるはず。操りの魔法ならおれだって使える。


「よっしゃ!」


 目の前に飛んできた剣を操り返すことができた。剣は、はたから見たら手品のように空中に浮かんでいるように動きを停止している。実際は、おれのほうへ剣を飛ばしたいトパジー王女の魔法と、そんな剣をここではないどっかに移動させたいおれの魔法がぶつかりあってる状態だ。変な光景だけど、とにかくトパジー王女が飛ばしてくる武器にはこれで対処できるぞ。


 あとはトパジー王女が起こす爆発(発火地点はこれまた無作為みたいだ。魔法で爆発を起こすなんてすごいな)とトパジー王女の両手だけが残る問題だ。

 どうすればトパジー王女は両手を解くだろうか? ちからずく、か? ヴィクトロが知ったらおれが殴られそうだけど。いやいや、結晶の中で眠りこくってるヴィクトロにビビってる場合じゃねーよ、おれ。眠ってるのかどうかは知らねーけど。つーかヴィクトロのためにもトパジー王女を止めるんだし。そうだし。


「だからごめんな王女!」


 攻撃の中をかいくぐり、おれはトパジー王女に接近した。


「……いや! こないで!」


 トパジー王女がおれをようやく視認したのか、王女に距離をとられた。自我は保ってるのか? おれが再度ちかづこうとした直前、横槍が入った。帝国兵がトパジー王女に剣を振りかざしたのだ。


「王女!」


 あのままだとトパジー王女が殺されちまう! おれはとっさに王女を庇った。肩を斬られた。


「くっそ、痛てーな」

「なんだ貴様、傭兵のくせに王女を庇うのか!?」

「そうじゃねーけど、そうだよ! 悪い、この王女は大切な人なんだ。殺さないでくれ!」

「ふざけたことをぬかすな!」

「真剣だよ!」


 って、やばい、トパジー王女に逃げられちまう。王女はおれや帝国兵に背を向けている。おれは魔法を使い、かぶっていたフードを王女の右手に巻きつけた。王女が驚いている隙を狙い、おれは彼女の腕を掴む。


「王女は捕まえた。このまま帝国に連れていく。ここだけの話だが皇帝は魔法使いのちからを欲してるよ。ここでこの王女を殺しちまうのは得策じゃねーと思うけどな」

「くっ……」


 おれと言い合っていた帝国兵はそれきり黙り込んだ。よし、あとは当のトパジー王女だ。


「トパジー王女。おれはヴィクトロのためにオマエを守りたい。おれについてきてくれないか?」


 するとトパジー王女は肩を震わせ、「パパ……?」と呟いた。トパジー王女の中ではまだ、ヴィクトロはパパでいられてる、らしい。


「痛いことはしないって誓う。乱暴はしない! あ、いや、こうして腕を掴んでることだけは見逃してほしいんだけど……えっと、その、とにかく悪いようにはしねーから!」


 おれはルーグの言葉を借りた。トパジー王女は暗い面持ちながらもうなずいてくれた。よかった。


 その後、おれは機械ネズミを使ってドモンドのジジイに連絡した。トパジー王女はおれとミリアのところにいることと、ミリアの怪我のこと。あと、急に飛び出してゴメンってことを伝えるために。

 ジジイからの返信を待つあいだ、おれはミリアとトパジー王女の三人で野営をすることにした。ミリアの回復も待たねーとな。さっき聞いた話だけど、どうやらおれがトパジー王女のところにいるあいだ、帝国軍の衛生兵が世話をしてくれたんだと。ミリアはもちろん、おれも礼を言ってきたところだ。とはいえ今は帝国兵たちとは距離を置いてる。テントの外から監視はされてるみたいだけど。


「ミリア……ごめんなさい。わたしのせいで怪我を……」


 夜、ドレス姿のままのトパジー王女はテントの中で、やっぱり泣きながら口を開いた。寝たきりのミリアは王女をじっと見つめている。


「あたしのことはどうかお気になさらないでください、トパジー殿下」


 ミリアの容態は安定してる。発声にも支障ないようだ。ただ、その表情はトパジー王女をひどく心配しているみたいだ。


「あなたがご無事で何よりです。トパジー殿下も疲れていらっしゃいますよね。フェジュ、ぼけっとしてないで殿下にスープのひとつでも持って来てください」

「人づかい荒いな!」


 そう文句は言いつつも、きっとミリアもトパジー王女と二人で話したいはず。おれは外でスープでも炊くか。

 中の様子が気になりながらも、おれは近場で自炊を始めた。

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