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「〝これ〟は罪人だ」

 我々王家の者たちがプライベートな時間を過ごす宮廷は公務や評議会をおこなう朝廷部分と比べて静かな空間だ。メイドに訊くと、シュタとトパジーはすでに就寝しているらしい。うむ、規則正しい生活で何よりだ。

 そしてアダマーサは、この廊下の先にあるキャムの部屋にいるらしい。

 キャムがいると厄介だな。フェジュに何を言うか見当がつかない。朝になるのを待つか? しかし、フェジュのことで城の騒ぎになるのも避けたい。しかたない、今ふたりを起こすことにしよう。



「なるほど。つまり、〝これ〟はわたしの部下を傷つけたというわけですね」

「キャム、私は、おまえは来なくてもよいと言ったはずだが」


 その後ふたりを起こし、我々は急きょアダマーサの執務室で話し合いをおこなうこととなった。


「子どもを〝これ〟とか呼ぶんじゃない」


 私が強く指摘するとキャムは鼻で笑った。


「これは立派な人間兵器です。魔法で相手を攻撃した以上はね。そしてその兵器はリベルロ王国軍を襲った」

「待て、そんな言いかたをするな!」


 私もうろたえているが、執務室に君臨するアダマーサの眉がぴくりと上下したのを私は見逃さなかった。だがそれも一瞬のことで、アダマーサは温度のわからない瞳でフェジュを見る。


「フェジュといいましたね。あなたはなぜそんなことをしたのですか?」


 ソファーに座らせられたフェジュはメイドと遊んでいた先ほどと違い、子どもに似合わない仏頂面で黙りこくったままだ。


「正直に言わないと、苦しい厳罰を下すぞ」


 キャムが追い打ちをかけた。


「まあ、どっちみち投獄は免れませんがね」

「投獄だと? 子どもを牢に入れるというのか!」

「ヴィクトロ殿下。あなたは先ほどから『子ども、子ども』ばっかりだ」

「それがなんだ」


 キャムは黒髪を揺らしながら腕を組む。いつにも増して視線が鋭い。


「この者は兵士を負傷させたのですよ。我が国の兵士を!」

「それはそうだが……」

「その時点で加害者の年齢は問わぬべきです。このフェジュとやらがいくつの子どもであろうとも、成人の罪人と同じ罰を与えるのが公平というものです」

「罪人……」

「そうです、殿下。〝これ〟は罪人だ」


 私はかたく拳を握った。フェジュが罪人……子どもが罪人。

 キャムの言うことも頭では理解している。窃盗、放火、暴行等々、フェジュが犯した過ちは多い。だが心に、私の胸のうちに、シュタとトパジーの顔が浮かんでやまないのだ。もしもフェジュの立場にシュタやトパジーがいたとしたなら……キャムは同じことを言えたのだろうか? 私はなんと主張するのだろうか? アダマーサはどう思うのだろうか?

 子どもも……おとなの罪人と変わらぬように扱うべきなのだろうか?


「なんだよ。おまえらも結局あいつらと同じなんじゃねーか!」

「フェジュ?」


 静かにしていたフェジュが突如、立ち上がった。


「リベルロ王国だったらウマいメシが食えるとか! キレーな水が飲めるとか! あったかい布団で眠れるとか! おれのソーゾーでしかなかったんだな!」

「とうとう口を割ったな。やはり貴様、帝国の差し金か」


 キャムがどこか満足げに言った。


「……ああそうだよ! メーレーされてきたけど、でも、どっか期待してた。あいつらとは違うかもって! 違うトコかもしれないって! だからあいつらに従うフリして、ここがどんなトコなのか、見ようと思った……」


 フェジュが吠えているあいだに、キャムが執務室の外へ兵士を呼びにいった。アダマーサは険しい表情でフェジュの言葉を聞いている。


「でもやっぱりここもツメテーとこだったんだ!」

「フェジュ、落ち着け」

「うっせーゴリラ! おまえもおれを捕まえるんだろ! おみとおしなんだからな!」

「待て。ここで魔法は……」


 フェジュが自由のきく手でもう片手の包帯を解き、魔法を使おうとした、その時、


「うぐっ……うああああああああああアッ!」


 眉間にシワをつくったアダマーサが両手を組み、フェジュを攻撃した。


「フェジュ、大丈夫か!」


 苦しみ悶えながら床に倒れたフェジュをあわてて抱きかかえる。

 アダマーサは数少ない〝魔法〟の使い手だ。魔法にもさまざまな効果があるらしいが……今フェジュの様子を見ればハッキリとわかる。アダマーサはフェジュの動きを封じたのだ。フェジュの指どころか全身が、奥歯でさえがちがちと震えている。

 なんと哀れな。


「そんなものを庇うとは……殿下、貴殿は甘いですね」


 くそッ。キャムが兵士を連れてきた。


「まさか、我々の妨害はしませんよね? 殿下、あなたはアダマーサ女王陛下の夫なのだから」

「卑怯だぞ」

「そういう文句は軍事機密を盗み出そうとしたソレに言ってください」

「アダマーサ、キミがキャムをとめてくれ!」


 私は口を閉ざしているアダマーサを見た。軍の最高司令官であるキャムをとめることができるのは彼女しかいない。


「魔法は……リベルロ王家特有の能力なのだぞ!」


 そう。この世の魔法というものはリベルロ王家の血を受け継ぐ人間しか扱えない代物。〝だからこそ〟アダマーサ一世女王陛下は強大な帝国からの独立を成し遂げることができ、〝だからこそ〟王家はその血を遺すことに執着している。

 裏を返せば……このフェジュと、アダマーサは、〝血のつながりがある〟ということ!

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