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キャムの行く末

 ローリー帝国の領土であるゴーダ領は、アグマ領を取り込んだリベルロ王国にとって今や帝都心部への最短通路だ。そのため帝国側も守備を徹底している。

 よってゴーダ領は両国がぶつかりあう激戦地になっているんだけど、帝国はリベルロ王国よりも規模が大きいとはいえ、複数の隣国に囲まれた国。うち一国とは仲が良くない。だから、帝国はすべての兵力をリベルロ王国へ向けるわけにもいかず、おれたちのような傭兵をたくさん利用している。で、今もこうしておれとミリアが派遣されたってわけだ。


 にしても、ここは見渡すかぎり兵士の山だ。生きてるヤツと死んでるヤツ、両方。おれはシュバルにまたがって戦っていた。けっこう殺しちまったと思う。


 ミリアはおれから離れたところで、基本的に素手で戦っている。たまに敵兵の武器を奪って反撃もしているようだ。やっぱりミリアは強い。でも、おれだっていつかはミリア以上に、そしてヴィクトロ以上に強くなってやるんだ!


 奮起したおれが勢いそのままに敵兵をまとめて倒していると、戦況に変化があらわれた。

 ミリアが近寄ってきた。そしておれにこう告げる。


「敵兵が団をなして戦線から離脱していってるようです」

「吉報じゃん!」

「バカ、喜ぶのはまだ早いですよ。なんだか様子がおかしいんです」


 おかしいって?

 おれがそう訊く前にそれは聞こえた。


「王国側に凄腕の剣士がいる!」


 帝国兵の叫びだった。おれとミリアは顔を見合わせる。


「黒髪のヤツだ、気をつけろ! もう何人かやられてる!」


 ――黒髪の剣士。まさか。

 考えるよりも先におれは王国兵のもとへシュバルを急がせた。うしろのほうではミリアが何か言ってたけど、ミリアだっておれと同じ気持ちなはず。嫌な予感と、〝あいつ〟が今どうしてるのかをたしかめたいって気持ちだ。



 しばらく走っていると、そいつの姿が見えた。ひと気のなくなった戦場で、帝国兵の死体を蹴飛ばしているキャムの姿が。


「女王の命令だかなんだか知らねーけど……王配でありながら戦線に放り出されるのは、女王に〝捨て駒〟だって思われてる証拠だぜ」


 おれはそう言わずにはいられなかった。すると目の前の男、キャムは、その手に持った血まみれの剣をいちど払うと、ゆっくりとおれを見上げてこう言った。


「私をあの男と一緒にするな」

「するわけねーだろ、したくもねーよ! ……あー、くそ、なんでおれはこんなヤツとヴィクトロの姿を一瞬でも重ねちまったんだ」


 ごめんヴィクトロ。おれは心の中で謝りながら気を取り直す。


「しばらく見ねーうちにずいぶん老けたな、キャム」

「そっちこそ。七年のあいだに、またいっそう生意気に育ったようだな」

「そりゃどーも。で、どうして王配殿下ともあろう御仁がこんなところにいるんだよ? まさか本当に女王に扱き使われてるのか? さっきまで大勢いた王国兵たちはもう撤退したっきりだし、なんだってんだ」

「多大な精神的ストレスと他者からの洗脳はときに絶大なパワーを生み出すらしい……奇しくも、あの男がかつてそうだったように」

「は?」

「ペペトカルマボメンミーワフト」


 ――こいつ!

 キャムはなんだか意味不明な呪文を唱えながらおれに斬りかかってきた。避けきれないと判断したおれはシュバルから転がり落ち受身をとる。


「貴様の首を我が女王陛下に捧げてやる!」


 おれもなんとか剣をぬくヒマこそあったけど、キャムは人並外れたスピードで攻撃を繰り出してくる。さすがに反撃しないと自分の命が危ない。


「そして今度こそ、私が女王陛下の心を頂戴するのだ!」


 キャムは鬼のような気迫で突進してくる。けど、こんなところで死んでたまるか! おれはキャムが剣を大きく振りかぶった隙に、ヤツのふところに剣ごと飛び込んだ。


 キャムの心臓に剣を突き刺すことはできなかった。おれの剣はキャムの脇腹をかすっただけだった。おれはすぐに腹部を蹴られ、見事に横転する。当然、キャムもおれが見せた隙を逃すはずもなく、おれの頭上に刃を振り落としてくる――が、


「まだ死んでたまるかっつってんだ!」


 自暴自棄になったことは認める。というか、この状況でなりふり構ってられなかったんだ。ともかくおれはひと思いに反撃したのだった。キャムはうめきながらよろけている。これで勝てる。おれはそう思った。


「ぐあっ!?」


 にぶい音、それから断末魔とともに、キャムはうつ伏せに倒れた。

 いや、待て。うつ伏せ? おれとキャムは正面から対峙してたはず。それに、おれがキャムにつけた傷も正面からのもの。なのにもかかわらず、キャムは背中から血を流して倒れた。その背中にあるのは――無数の矢だ。


「フェジュ! 来なさい!」


 ミリアの声がした。見れば、さっきまでおれが乗っていたシュバルにまたがり、おれを連れ戻しにきたようだった。おれ腕ごと体をひっぱられ、ミリアの前に乗せられた。その間にも空中からは矢が降り注いでくる。


「ミリア……なんかおかしいぞ」

「話はあと! 逃げますよ!」

「ミリア! だってあいつ、キャム……」


 おれは後方を見た。間違いない。キャムは、自分の味方である王国兵が放った矢によって倒れたのだった。

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