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おっさんが来た理由

「で……トーワ殿下は、七年前に王城の地下にいらっしゃったトーワ殿下である、と?」


 お茶がずいぶん減ったころ、ドモンドのジジイは苦い顔をしながらトーワのおっさんに確認した。「ああ」とおっさんが頷く。


「ぼくは妹アダマーサに蘇生されたんだ。一年前にね。その後、ずっとアダマーサの近くにいた」


 おれはジジイと顔を見合わせたけど、やっぱりおれもジジイもこのおっさんの言うことがあんまり信じられない。けど、おっさんは実際にこうして生きてる。ということは、本当にあの女王はおっさんをよみがえらせたのか。


「……あれ? でも、ちょっと待てよ。たしか蘇生には魔石が必要なんだろ? ふたり分……つまり二つの魔石が必要ってことだ」


 だから女王はヴィクトロや自分の子どもを利用していたんだ。けどヴィクトロの体内には王太子と王女ふたり分の魔石以外に、おれの分の魔石も発生してた。そのせいでヴィクトロは結晶化してしまったんだ。


「ふたりとも、リベルロ王国の内情については詳しいのかい?」

「今ではきっと、トーワ殿下のほうがお詳しいかと」

「そうか……」


 トーワのおっさんはとりあえずと言った感じでお茶を一口すすった。なんつーか、死人がお茶を飲んでる光景ってなかなか不思議だな。いや、もう死人ってわけじゃないのか。なんかごちゃごちゃしててわかんねー。


「アダマーサには新しい子どもが誕生している」

「へっ? なんで?」


 七年前、ヴィクトロはキャムのアレをスッパリといった。それはミリアも確認してる。つまりキャムにはもう繁殖能力がない。ないんだよな? おれの知識、間違ってるかな? いや、間違ってないよな。でもどういうことなんだ? えーっと。


「誰とのお子でいらっしゃるので?」

「あ、そうそう、まずそこを聞くべきだよなジジイ! さすがだぜ!」


 なんかおれひとりでスゲー焦ってるのがバカみたいだったぜ。よかったー、ジジイがこのときばかりは冷静で。


「どこからか引き連れてきた男妾との子どもだ」

「あンの女王陛下はまた性懲りもなくゥーッ!! いつもかつも妾がおらねば不服なのかァッ!!」


 ジジイは立ち上がり、椅子を蹴飛ばした。

 よかったー、なんてジジイを見直したおれがやっぱりバカだった。このジジイにしてあのヴィクトロありだ、まったく。


「ジジイ、落ち着けって。たぶん女王は魔石目当てで男妾を置いてるんだよ」

「それはそれ! これはこれじゃい!」


 ジジイはおそらく、かつてヴィクトロが正夫でありながらキャムを男妾に置いたことを根に持ってるんだろうな、たとえそれが以前あれだけ忠誠を誓っていた相手であろうが。まあ、気持ちはわかるけど。

 トーワのおっさんは意味がわからないとでも言いたげに首をかしげている。なのでおれはおっさんに「気にしないでくれ」とフォローした。


「一年前、その子どもが五歳になってね。物心つく年ごろになったからだろう。その子の乳母の体内に……」

「あーっ、ぜんぶ言わなくていいよ、おっさん! 胸糞わりー。その乳母の体内にできた魔石とキャムがすでに持ってた魔石で……ってことだろ?」

「ああ、そのとおりだよ。フェジュといったね。きみはずいぶん魔石に詳しいんだな」

「そりゃ、魔石にはイヤな目に遭わされてるから」


 おれがそう言うと、ジジイは自分で蹴飛ばした椅子をていねいに置きなおし、あらためてそこに座ると咳払いをした。


「それで、殿下。アダマーサ陛下のおそばを抜け出して、わざわざローリー帝国の人間に会いにいらっしゃった理由とはなんなのでしょうか?」

「そうだね。まずはおまえにも説明しなければね、ドモンド」


 トーワのおっさんはお茶を飲みほし、


「アダマーサを止めてほしいんだ」


 と言った。

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