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クヨクヨはしてらんねー

「わ、悪かったって、ミリア!」


 ヴィクトロの結晶化に関して、もともと気が強いたちのドモンドのジジイはあんまり気落ちすることはない。だけどミリアは、ちょっと目を離すと落ち込むんだ。

 今のはたしかに、軽率にヴィクトロの名前を出したおれも悪いけど。


「そんなに暗い顔すんなって。ヴィクトロは絶対おれが助けるんだし!」


 おれは自分の胸を叩いた。けど、見てのとおり、ミリアは悲観的だ。


「オマエはなんでそう楽観できるんです。もう七年ですよ。七年、殿下はあの結晶に……」

「七年結晶化されてるからってなんだよ! 王都への七年の偵察でわかっただろ。ヴィクトロは死んでないって」


 そう、ミリアやジジイ、そしておれはこの七年間、なにもボーっとして過ごしてたわけじゃない。とくに最初の数年はヴィクトロを助け出そうと躍起になっていた。


「女王も結晶化は『愛された人間が生き埋めにされる』って言ってたろ」

「ですが七年、殿下は人間としての生理現象がないまま過ごしてるんですよ。飲み食いだって、排泄すらしてないんですよ!」


 おれが知ってるミリアは気が強いヤツだ。なのにヴィクトロのことになるとこうしてネガティブになる。


「それも……おれのせいだ」

「フェジュ……あたしはそんなつもりで言ったんじゃ……」

「けど、ミリアだってジジイだってわかってるだろ。〝おれがヴィクトロを愛してさえいなければ〟ヴィクトロは結晶化せずに済んだんだ」


 そうなのだ。

 ヴィクトロが結晶化してしまった原因は――ヴィクトロを本当の父親みたいに大好きになったおれ自身にあるんだ。


「けど!」


 おれは強い口調で言う。


「だからこそ、おれがヴィクトロを助けてみせるんだ! そのためにメンテリオに頭下げて結晶化の研究もしてもらってる。リベルロ王国からヤーデやおれの弟を守ったりもしてる。あとはヴィクトロを助けるだけだ」


 クヨクヨしてらんねー!

 おれはミリアを引っ張って王都へとシュバルを走らせた。





「やっぱりヴィクトロのシュバルに乗ると爽快だな」


 あれから三日後、おれはリベルロ王国王都にて呟いた。

 おれが乗っているシュバルは――七年前、ヴィクトロがおれの身と引き換えにエグオンスに売ったシュバルだ。おれは数年前からコイツに乗っている。ドモンドのジジイに武術を教わりながら傭兵として働いて、そうしてコツコツ貯めた金で買い戻したんだ。

 ヴィクトロがルーグに力説してたとおり、七年経ってもこのシュバルはまだまだ現役。脚力に衰えは見られない。ほんとに良いシュバルに乗ってたんだなあヴィクトロは、とコイツにまたがるたびに思う。


「にしても、この王都もすっかり様変わりしたよな」


 おれは王都に入るなりミリアに言った。ミリアは頷く。


「まさか結晶化が人間以外にも及ぶなんて思わなかったです」


 そうなのだ。

 ヴィクトロの結晶化は、王城にいた人間のみならず、王城そのものや、外の街にも及んだ。

 今では王都の半分は結晶に覆われている。これ以上結晶化は進まないとはいえ、事情を何も知らない王都の住民は全員気味悪がって王都外に移り住んだ。無理もねーな。おれだって、当事者じゃなけりゃこんなところに住もうとは思わない。


「それだけ〝愛〟ってものが大きかったってことです」


 ミリアが言った。


 おれがメンテリオに研究成果を聞いたところによると、結晶化は想いが強ければ強いほど被害も大きくなるらしい、とのことだった。その想いだとか愛だとかがおれのものかヴィクトロのものか、はたまたシュタ王太子やトパジー王女のものかはまだわかっていないみたいだけど。


「ミリア、このまま王城の地下に行くけど、オマエはどうする?」


 王都の中をしばらく進み、王城の入り口に立ったおれはシュバルから降りるミリアに尋ねた。


「あたしも行くに決まってるじゃないですか」

「そこは平気なんだな……」

「オマエが見聞きした情報だけだと心配だからです。あたしもちゃんとこの目で見ておかないと」

「そりゃどーいう意味だよっ!」

「どっかの誰かに似て、オマエはたまにおっちょこちょいになるって意味です。オマエもいずれ秘書を雇うことを考えたほうがいいですよ」


 おれはヴィクトロみたいにおっちょこちょいじゃねーよ。そう言おうとしたけど、せっかくミリアがいつものミリアに戻っているため言わないことにした。実際、ミリアが一緒だと何かと心強いのはたしかだしな。


「じゃ、行こうぜ」


 おれたちは結晶に包まれる王城に入った。

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