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「ザマァ見ろ」

 ミリアとフェジュをうしろに退らせ、私はひとりでキャムと対峙した。

 この怒り、ひとりでまき散らさねば気が済まん。


「剣ならばわたしにも勝機があるはずですよ!」


 などとキャムがのたまうが、先日、私に負けたのはどこのどいつだったのやらだ。

 いま怒っている、それを発散するのは私のエゴだ。大半がエゴだ。それはわかっている。わかっているが、王家の人間を平気で惨殺するような、おまけに遺体の前で笑えるような男を、シュタとトパジーの父親だとは私は認めたくはない。


「くそっ……」


 キャムの表情が徐々に歪んでいく。だが、そのうちキャムは形勢を持ち直し、先ほどよりも強気で攻めてきた。そしてキャムはこう叫ぶ。


「ここで勝たねば! わたしが〝父親〟になれないッ!」

「父親に……」

「ああそうだ! 六年間、わたしがどんな気持ちでおまえらを見てきたか!」


 キャムは続ける。


「自分の子どもたちに父親と呼んでもらえない。父親である事実がこの世から抹消されている! 父親になりたくてもおまえがいる。……のうのうと父親面するおまえには、わたしの気持ちがわかるはずもないだろうな! 子どもたちを奪い、いつまでもその地位を譲らぬコソ泥がッ!」


 私が、キャムから、子どもたちを奪った?


「奪ったのは……貴様もだ」

「なんだと?」


 私の言葉にキャムは頬をぴくりと痙攣させた。


「アダマーサも、家族と過ごす時間も、バマリーン様のお命も……奪ったのは……貴様も同じだ。貴様は奪い、奪われたのだ! ひとりだけ悲壮感を漂わすんじゃない、吐き気がする!」


 私はキャムの剣を思いきり弾き飛ばし、キャムの頬を殴って倒し――


「う……ぎゃああああああああああああッ!!」


 心ゆくままキャムの男性器を斬り落とした。


「ああああああッ」


 なるほど相当の激痛だろう。そしてショックだろう。キャムは延々と叫び続けた。

 だが、不思議なもので、その叫び声を聴くほどに私の心は静まっていく。長年の鬱憤がいま晴らされたようだ。こんなことを言うのはシャクだが、せいせいする。


「……殿下……激昴しすぎです」


 ミリアの声がしたのでうしろを振り向いた。

 私のつい今しがたの行動はフェジュに見せてはいけないとミリアは判断したのだろう。ミリアの両手はがっちりとフェジュの両目をふさいでいる。


「もう落ち着いた」


 そうだ。私の怒りはもう発散し尽くしていた。


「ならいいんですけど。あ、これはあたしが言っておきますね、キャム様」

「な……なんだ……」

「ザマァ見ろ!」


 ミリアはキャムに向かって大きく舌を出した。そして私は剣をキャムの喉もとに向ける。


「さてキャム。アダマーサの居場所を吐け」

「うぐっ……お、おまえなんかに……」

「次は両足を斬り落とそうか?」

「くっ……」


 激痛を受けながらもキャムは、意識は保っているようだ。忌々しそうに私を睨んでくる。


「……その扉の、奥です」


 キャムはそう答え、床に突っ伏した。


 『いつまでもその地位を譲らぬ』、か。言われてみれば、私は今までキャムの気持ちを考えたことは――いや、とにかく先を急ごう。





「ここ……どこだ? すっげー広い……」


 キャムの研究室からさらに奥へ進むと、そこはフェジュが驚くようにとても広い空間だった。地上の王宮部分くらいはあるだろうか。いつのまにこんな場所が地下に?


「てっきり空洞があるのかと思ってましたが、殿下、ここ、まるで住居みたいですね」

「だな。家具も置いてある」


 この地下空間はどう見ても〝人間が住まうための場所〟だ。ロウソクの火が灯り、廊下にはチリひとつなく、絨毯まで敷かれている。


「なんかブキミだ、ここ。ほんとに女王がいるのかな、ここに?」

「この期に及んでキャムがウソをつくようにも思えんし、間違いなくいるのだろうが、こうも部屋数が多いとどこから当たればよいのかわからんな」


 そう、ここには部屋もずらりと並んでいるのだ。アダマーサはどこに?


「手分けして探します?」

「いや、ここで別行動を取るのは危険だ、ミリア。時間はかかろうが、ひと部屋ずつ探していこう」


 私たちは目の前の部屋から当たっていった。





 にしても、探せば探すほどに気味が悪い。どう見ても人間の住居なのに、肝心の〝人間〟がいないのだ。アダマーサはなぜこんなところに来たのだろうか。


「……うわぁッ!」

「フェジュ! どうしたッ?」


 とある大部屋の中を探索していると、とつぜんフェジュが声をあげた。急いでフェジュの視線の先を見ると――


「えっ、この人って!」


 ミリアがあんぐりと口を開ける。私も内心、非常に驚いている。


「こ、この人は……」


 〝その人〟はキングサイズのベッドに横たわっていた。はたから見れば〝その人〟は眠っているようでもある。

 だが、『そんなわけがない』。なぜなら〝その人〟は、すでに『死亡しているはず』なのだから。


「なぜトーワ殿下がここに?」


 キングサイズのベッドでひとり横たわっているのは、十年以上も前に戦死したはずのトーワ殿下。ヤーデ姫の父親であり、キャムに殺されていたバマリーン様の夫であり、アダマーサの兄君だ。

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