表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/71

潜入成功

 ミリアの案内のおかげで私たちは誰にも見つかることなく王城、王宮部分に潜入することができた。


 うーむ。ここは我が家であるはずなのに、ちっとも気分が落ち着かない。情けないことにソワソワしてしまう。シュタとトパジーの顔を見たいが、この時間だ、どうせあの子たちはすっかり寝ているころだろう。起こすのも忍びないからあとでコッソリ顔を見るか。


「使用人たちも少ないですね。潜入時間に深夜を選んで正解でした……あ……あー」


 ふとミリアが顔をしかめて足を止め、唸りだした。


「どうしたミリア?」

「うーん……いや……あの……えっとですね」

「なんだ、おまえにしては珍しく歯切れが悪いじゃないか」

「そりゃ悪くもなりますよ。殿下のために、まずあたしが先頭に立ってアダマーサ陛下のお部屋を尋ねます、殿下のために」

「なにがヴィクトロのためなんだ?」

「お子ちゃまには聞かせられないことです、フェジュ」


 あー。わかったぞ。


「すまん……頼むミリア。私とフェジュは三歩さがってついていく」

「えっ、三歩で足りるんですか殿下?」

「いや十歩にしよう」

「そうしてください、そして気遣いできる美人秘書に感謝してくださいね」

「ああ、とてもとても感謝する」

「ハイ。中がオッケーだったら合図しますんで」


 ということで、まずミリアにアダマーサの部屋に入ってもらうことにした。

 終始イミがわからなさげにしていたフェジュにはあと十年経ったら教えてやることにしよう。

 いや、十年後では遅すぎるだろうか? そのあたりのことをメンテリオがフェジュに教えてやっているわけもないだろうし、やはりここは私が教えるべきなのだろう。王族や貴族の子どもには教育係がいるから私の出番はないのだが、フェジュは生まれこそ尊き血筋だが育ちはあのメンテリオだ。エグオンスに在籍していた期間も短いだろうし、あのルーグやシカリースがわざわざ教えてやっていることもない気がする。しかしきちんと教えねばいかんことでもあるし、だが、ううむ、どう教えればいいのだ。


「――ヴィクトロ、ヴィクトロ! ミリアが変な動きしてるってば!」

「えっ? あ、ああ、すまんフェジュ、ボーッとしていた」

「なんでこんなときにボーッとできるんだよ!」


 ごもっともだ。


「とにかくミリアの変な動きだったな。ミリアのあの合図はオッケーの合図だ、フェジュ」

「あれ合図だったのかよ……おれ、ミリアの頭がおかしくなったのかとビックリしたよ……」

「無理もない。さあ、行こう」


 私はごくりとツバを飲みこみ、いざアダマーサの部屋へと入った。

 キャムはいない。ホッ。アダマーサは大きなベッドの上で寝息を立てて眠っている。


「殿下、失礼」

「ん?」


 部屋に入るなり、ミリアはとつぜん私の懐をまさぐり始めた。


「ちょ、ちょ、何をするッ」


 変な気でも起こしたか!?


「あ……短剣」


 フェジュが気づいた。私も気づいた。どうやらミリアの目当ては私の懐にしまっておいた短剣だったようだ。って、


「ミリア、何をするのだ!」


 あろうことかミリアは短剣の刃先をアダマーサの喉もとに当てた!

 そしてつい出してしまった私の大声に感づいたらしいアダマーサはぱちっと目を覚ました。


「……あなたはミリア? なぜここに……いえ、それよりも、これはなんの真似です」

「あたしはどうせ殿下の美人秘書ですし、こうして今さら脅迫容疑が増えようが関係ありませんので、このくらいはさせていただこうかと。だって殿下は今となっては反逆者なのでしょう、アダマーサ陛下?」

「……ヴィクトロもいるのですか?」

「ハイ、そこに」


 ミリアにふさがれて身を起こせないアダマーサの目には、私は映っていないのだろう。


「アダマーサ、手荒な真似をしてすまない。今夜はキミに訊きたいことかあって戻ってきた」


 私はフェジュを連れてベッドのそばに近寄った。よし。私は意を決した。


「キミがバマリーン様を殺したのは魔石を奪うためかい? キミはいったい何を考えているのだ?」


 私やフェジュのところからではアダマーサの表情まではうかがえない。だが、アダマーサが息を飲む気配がしたことはたしかだ。


「私を操っていたのはなんのためなんだい、アダマーサ。答えてくれ」

「そう……そこまで知ってしまったのですね……」

「な、なんとか言えよ女王! そんなコトバを聞きたいんじゃねーよ、ヴィクトロは!」

「……あのフェジュまで一緒に。ずいぶんあなたに懐いたようですね、ヴィクトロ」


 あ! まずい!


「さがれミリア! 今シーツの中で魔法を使われた!」


 くそッ。ミリアはアダマーサの顔だけを見ていたらしく、シーツの中で隠れて魔法を使うアダマーサにいち早く気づいたのは私だった。

 私は慌ててフェジュを抱きかかえて後退した。ミリアも無事だ。


「あれっ? 女王の姿が消えたぞ!」

「ど、どういう魔法だ?」


 アダマーサが魔法を使ったと思えば、次の瞬間にはアダマーサの姿はごっそり消えていた。


「フェジュ、今の魔法に思い当たる節はないか?」

「えっ? う、うーん……よくわかんねぇけど、物体移動みたいなモンだと思う」

「移動か……厄介な魔法だな……」


 私はフェジュを降ろした。


「すみません殿下、逃がしました」

「いま反省するのはよそう、ミリア。また見つければ問題ない。とにかくアダマーサを探すぞ」


 アダマーサが行きそうな、逃げそうな場所。キャムのところか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ