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国境を越えるには?

 ミリアが先日フェジュに言っていたが、リベルロ王国の南方はローリー帝国のアグマ領と隣接している。そしてフェジュはそのアグマ領から南の戦場に侵入したと言い、ローリー帝国に戻る際にもアグマ領を通れ、とエグオンスのリーダーに指示されているらしい。

 なので、そのリーダーの指示に堂々と乗っからんがため、我々は再三南の戦場付近にやって来た。田舎村を発って早三日。ここまで、アダマーサの部下やあの赤髪の男との接触はない。父上も王都に着いたころだろう。アダマーサにはなんとお伝えするのか。まあ、考えてもしかたない。今は目前の問題にとりかかろう。


「通常、いや、戦時中である現在はめったに使わないが、一般的にローリー帝国へ移動するには関所を通らねばならない」


 森林にシュバルをとめ、私たちは木陰に腰をおろしながら今後の相談をしていた。


「フェジュ、キミはその関所を通ってきたわけではないのだな?」

「ああ。近くに小人のデュク族の狭い集落があってさ、そこを通ってきたよ」

「それは国境の向こう側ですか?」

「違うよミリア。国境の上にあるんだよ」


 国境の上。なんと。小人族であるデュク族は世界各地に点在しているとは知っていたが、まさか国境の上にも住んでいるとは。デュク族はミリアのようなグレ族と違い、私含む一般人との交流が盛んだ。手先の器用さをウリに土木工や日用品の造形師、商人など、あらゆる分野で活躍している。

 しかし国境の上か。


「それは違法じゃないのか? 私もアダマーサも許可したおぼえはないぞ」

「そりゃそうだよヴィクトロ……って、あっ、やべ、言っちゃった! ヴィクトロは女王のダンナなんだった!」

「もう遅いですフェジュ」


 私もミリアもやや落胆したが、ここで私がとるべき行動は国境上に住むデュク族を厳しく取り締まることではなく、ローリー帝国へ赴き、エグオンスからバマリーン様とヤーデ姫の所在について聞き出すことだ。


「よし、そこを利用させてもらおう。私が権力をカサに着れば無料で通行させてもらえるだろう」

「うわっ、殿下ずるい。ていうか軽はずみに身分を明かしちゃダメです、混乱を招きます」

「それもそうか」

「あたしに良い考えがあります。つまりフェジュ、そこのデュク族はエグオンスのことを知っているってことですよね。ここはあたしに任せろ、です!」





 そして私たちは、ミリアの発案に乗じて例のデュク族の集落に来たのだが。


「なんで私が手縄を……」


 集落を訪れる前、私はミリアによって両手首を縛られた。


「殿下はフェジュがエグオンスの命令でつかまえた捕虜を演じるんです。……ほら、チャッチャと歩けゴリラ! ゴリラみたいなデカい図体しやがって!」

「そんなノリノリなミリアは何役なんだよ?」

「あたしはオマエが偶然リベルロ王国で見つけた美人傭兵役です、フェジュ。どうです、殿下もとい捕虜ゴリラから預かった剣もこうして似合ってるでしょう」

「ずるいのはおまえだぞ、ミリア」


 ここぞとばかりに私を好き勝手に呼びおって。

 そんなこんなで私たちはフェジュを先頭にデュク族の集落を歩いていく。集落の真ん中には雑に積まれた石垣が横たわっている。アレがリベルロ王国とローリー帝国の国境線だ。

 あ、石垣に穴が開いている。おそらくデュク族が出入りするための穴なのだろうが、小人専用のせいで小さい。フェジュですら通るのにやっと、というところだ。


「むう。さすがに国境線を破壊するわけにもいかんぞ、ふたりとも」


 それは王配としての立場ゆえ心が痛む。


「でもモタモタしてると……ほら、デュク族の連中がこっちをジロジロ見てきます。怪しまれます」


 周囲を見渡しているミリアの言葉どおり、あちこちに小人の姿が現れ始めた。見かけは一般の子どものようだが、たとえ老人でも一般の赤子程度の背丈なのがデュク族の特徴だ。彼らもグレ族同様、耳が尖っている。しかし銀髪ではない。


「そうは言ってもだな、ミリア……ええい、しかたない」

「え? ……ちょっと何するんですっ」

「うわあっ、急に抱きかかえんなよ!」


 思案するのが面倒になった私はミリアとフェジュをそれぞれ両脇に抱え(手首を縛られた状態で抱えるのは小難しかった)、そのまま石垣を飛び越えた。


「ふんッ」


 ふう、これで第一関門突破と言ったところか。華麗に着地した私はホッと安堵の息をもらした、ところが。


「……どーいうこった?」


 着地した先には、あの赤髪の男が待ち構えていた。ヤツは私を見るなり、私の首もとに短剣を向けた。


「シカリース……ここでおれを待ってたのか?」


 フェジュがヤツの名前を呼んだ。やや怯えた声色で。


「テメェがあんまり遅いんでな。今日ここにテメェが来なければ、オレがそいつを殺しにいこうと思ってた。だが、まさかそっちからわざわざ出向いてくれるとは」


 あの銀色の瞳が私を見ている。刃物に似た瞳だな。


「今日は先日のようにキミと戦うつもりはない。シカリースと言ったか、まずは私の話を聞いてくれないだろうか?」

「あ? 両手を縛られた分際で何をほざきやがる。殺してくれと言ってるようなもんだぜ、そのザマは。今のテメェはまるで家畜だ」

「殿下、あたしを離してください。あたしがコイツを家畜のエサにしてやります」


 脇の中のミリアか身をよじった。


「いや、おまえはもちろん離すが、おまえが戦う必要はない、ミリア」

「あ、テメェ!」

「ヴィクトロ、何してんだよ!」


 私はスティクトに向けられた剣を、縛られた両手でグッと掴んだ。


「まずは話し合おうと申し出ているんだ、シカリースよ」

「ちょっと殿下、手から血が!」

「ミリア、なに、死にはせん」


 このシカリースに暴れられたら厄介だ。なので私は彼の動きを封じたのだった。獲物は刃物だ、もちろん私の手は傷ついたが、まあいい。


「エグオンスのリーダーと話をしたい」


 するとシカリースはしばし口を閉ざしたあと、こう答えた。


「テメェがなんのつもりか教えろ。リーダーのもとへ案内するのはそれからだ」

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