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私の父ドモンド・オーリブ

 なぜ父上がここに。

 父上のハゲ頭が朝日と重なって非常に眩しいが、そんなことを言っている場合でもなさそうだ。まなざしから見てとれる鬼のような気迫。白く太いヒゲがゆさゆさ揺れるほどの鼻息。研ぎ澄まされた剣に映る――困惑している私の姿。父上ことドモンド・オーリブは今、とてもお怒りになられている。


「ドモンド様、えっと、なぜここに?」

「黙れ女郎ッ」

「ひっ。ごごゴメンナサイ! うわーん殿下、あたしこの人ムリ! 昔っからムリ!」

「黙れと言っとろうがァッ!」

「ひえーっ」


 その怒号にはあのミリアでさえたじろぐ。ミリアが父上に怯える理由、それは、


「今日はおまえを連れ戻しにきたヴィクトロ! 抵抗するなら叩ッ斬るぞいッ!」


 このような、実の息子といえど決して容赦はしない蛮勇っぷりである。


「叩き斬っては連れ戻そうにも連れ戻せませんよ、父上」

「死なないよう叩きのめすのだバカ息子! いちいち揚げ足を取るなといつもいつもいつもいつも言っておろうが!」

「それは父上に隙があるからです」

「隙? 隙と言ったか、このワシに! おまえに武術を叩き込んだのはこのワシと忘れおったか? ええい、やはり今日という今日はおまえを殺さねば気が済まぬ!」

「だから殺しちゃダメでしょうが。どうせ、おおかたアダマーサに何か言われて来たのでしょう?」

「バカの言うことを認めたくはないがあえて言うならそのとおりだ!」


 ご覧のとおり、父上は少々めんどくさいご年配である。

 とはいえ父上の言うように、私に武術を教えたのは父上だ。そう、私を王国最強の武人に仕立てあげたのは父上であると言っても過言ではない。そしてその私がミリアを育てたのだから……ミリアが父上に頭が上がらないのもしかたないというものだ。ちなみにミリアは以前「あたしに優しくないからキライ」と父上について語っていたことがある。人の好き嫌いはよくないが、まあ気持ちはわかる。


「それからァッ」

「ひいっ」


 父上は無骨な指でフェジュをさした。


「そこの小童はキチンと殺す。ここで殺す!」

「まさか、それがアダマーサの命令ですか?」

「察しがよいのはワシの血だな、ああそうだ」

「いや、アダマーサの命令でもなければ父上が突然あらわれた上にそんなことを言うわけもないでしょう。誰でも察しがつきますよ」

「そのイヤミは誰に似たんだまったく!」

「とにかくフェジュを殺すのは待ってください」

「はアン? 待つ?」


 父上はわざとらしく耳に手をあてた。


「アダマーサ陛下から聞いたぞ。そのガキは王国兵を襲ったと。なればそいつは重罪人! 斬ってもオーケー!」

「極論すぎますって」

「黙れワシの息子のくせに!」


 見たまえ、フェジュはさっきから放心しっぱなしだ。おそらく父上の気迫に圧倒されているのだろう。おまけに私以上の大声だしな。無理もない。


「フェジュはリベルロ王家の血縁です。父上はそれでも殺すと?」

「うむ。それが陛下のご命令なのだ」

「だけどちょっと待ってください」

「さっきから『待ってください』『待ってください』ばかり……嗚呼、不甲斐ない! 男なら悪・即・斬を貫けェッ!」

「どこの剣士の信条ですか。外から持ち込むのはやめてください」

「とにかくそのガキは王国にとって悪ということ。すなわちワシがおこなうのは悪叩斬、『悪は・叩ッ・斬る』だ!」

「一文字だけ変えるのはセコいです父上、どうせいま思いついたんでしょ」


 ええい、話が進まん。


「私たちは今からこの子、フェジュの身元を探るために旅に出ます」

「身元ってどこだ?」

「だからそれを探りに行くんですよ!」


 フェジュが昨晩明かしてくれた母親の名前はここでは伏せるとしよう。なお、まだアダマーサにも伝えていない。


「しかしそのガキはローリー帝国の手先なのだろう? つまり身元はローリー帝国ということだ」

「フェジュは利用されていただけなのです」

「利用? 魔法使いだからか?」


 リベルロ王家の血を引く者が魔法使いの素質を持っていることは、私や父上のような貴族出身ならば知っていることだ。


「ますます許せん……」

「そうでしょう父上、ローリー帝国が許せないでしょう。私たちはそれを深く探りに……」

「許せぬのはガキのほうだァッ!」

「え、そっち?」


 思わずミリアも呟いてしまったようだ。父上は続ける。


「魔法という天賦の才を持ちながらやすやすと利用されおって! いいかガキ、初代女王アダマーサ一世陛下のようにッ! 魔法使いならッ! 利用される前に相手をしこたま叩きのめせェェェエッ!」

「子ども相手に無茶を言いなさいますな父上……」

「魔法を前におとなも子どもも関係ないわァッ!」


 父上の頭の輝きがいっそう増した気がする。


「今いちど聞け。ワシはアダマーサ陛下に『子どもはその場で殺し、ヴィクトロを連れ戻せ』と言われて来た!」


 父上が剣を構える。それに呼応するよう私も長剣を構えた。


「私は『ミリアとフェジュと旅に出ます』。『旅を終え目的を果たすまで王都には戻らぬ覚悟』です」

「両者、相容れぬな」

「ええ、父上」


 事態を察したミリアがフェジュの手を引いて離れたところに避難した。


「ヴィクトロ、いざ……」

「尋常に……」

「勝負だァァッ!」


 話し合いで解決できねば武力で解決。それがオーリブ家のならわしであると私の身にも染みついている。

 ここに戦いの火蓋が切られた。

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