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殺すなら「 」と言え

 エグオンスとバマリーン様は関係があった。『文書』、か。しかし、バマリーン様が傭兵団と連絡を取っていたことはもちろん初耳だし、そのような密接なやりとりはまずアダマーサを介するはず……ん!? いや、待て。


「バマリーン様はエグオンスに文書を送ったのだろうか?」

「え? でもフェジュはさっきそう言って……」

「違う、ミリア。その文書の〝最終的な宛先がエグオンスだったのか〟という疑念だ」

「あ! まさか」


 私が言わんとしていることを察したようにミリアは口に手をあてた。


「エグオンスはただ文書を〝運んでいただけかも〟ってことですね」

「さすがミリア、そのとおりだ」


 私が言いたいのは、バマリーン様はなんらかの文書をエグオンスに渡し、それを〝ローリー帝国の誰かに〟送るよう頼んだのではないかということだ。そうすると、とうぜん内密に、だろうな。アダマーサがそんなことを許すはずもない。


「ミリア、ところでこれは提案なんだが」

「うっ。なんだかイヤな予感します、あたし。殿下のそのハツラツとしたお顔、たいていロクでもないことを言うときですから」


 さすがは察しのいいミリアだ、私が今から言うことを読んで顔をしかめた。





「おはようふたりとも。さあエグオンスのところへ行くぞ!」

「声が大きいです殿下」


 私たちは民宿を出て、快晴の朝を迎えた村の外に向かった。


 昨晩、私がミリアに提案したのは聞いてのとおり『エグオンスとの接触をはかること』だった。

なぜならエグオンスに訊けば、私たちのわからないこと、

 一、屋敷襲撃の犯人。

 二、屋敷襲撃を私たちに知らされていない理由。

 三、バマリーン様の死体の行方

 ……この一と三がイッキに判明するからだ。それにフェジュと――ヤーデ姫についてももっと知りたいしな。


「む、どうしたフェジュ、元気がないぞ。朝食はガツガツ食べてたろう?」


 防寒具を身につけたフェジュはとぼとぼとした足取りで私たちのあとをついてきている。


「でも……だって、おれ……」


 そういえば昨晩から元気がないのだったな。


「おまえを『殺れ』って言われてるんだぞ。なんでおれを連れていくんだ、平気なのか? なんでおれと一緒にメシを食えるんだ? なんで一緒に眠れたんだ?」

「フェジュ」


 ミリアもどう言っていいかわからない様子だ。ここは私がしっかりせねばなるまい。


「フェジュ、キミは人を殺したことがあるか?」

「ねーよ! そんなコエーこと! 火を吐くのが精一杯だった」


 南の戦場でのことか。


「なら大丈夫だ、まだまだキミに私は殺れまい」

「ちょっと殿下、そんな軽いノリで……」

「ああ、軽くはない。人を殺すことは軽いことではない。だがそれはフェジュも理解できているみたいだぞ、ミリア。でなければ死体の前で涙は流せないし、なによりこんなに怯えはしないだろう」


 私は腰に長剣を、懐に短剣を挿している。こいつらは人を殺める道具だ。もう何度も使ってきた。とても重い。はたしてこの重みを背負える少年なのだろうか、フェジュは。見たところ、そうは思えないが。


「フェジュ、キミはキミのままでいい。そのままで私たちと一緒に来ないか?」

「え?」

「そうして私を殺したいと思ったなら殺せばいい。もちろん、殺したくなかったら殺さなくてよいぞ」

「な、なに言ってるんだよ、おまえ。おれは命令されたんだぞ」

「命令された、そのあとどうするかを〝決めろ〟と言っているんだ、フェジュ。命令したのはエグオンスだが、命令を守るかはキミが決めること。それがだいじなんだ」

「決める……」

「そうだ。人は人をそうやって殺していくんだ。殺すなら、『誰かに言われたから殺した』『ほかにやりようがなかったから殺した』、そんな言い訳を使っちゃダメだ。……そうそう、せっかくだからフェジュ、今から私が言うことをよくおぼえておきなさい」

「な、なんだよ?」


 フェジュの瞳に恐怖の色がより浮かんだ。私はすうっと息を吸う。


「人を殺すなら、胸を張れる殺しをしなさい。『殺したかったから殺した』と言いなさい。それができないかぎり、人殺しなんてするんじゃないぞ。そしてそれが〝決める〟ということだ」


 フェジュのミトンがぎゅっと丸くなった。


「でも、殺さなきゃ、エグオンスがおれを……」

「何を言う、そのときは私が出る。キミがちゃんとキミ自身で決めることができるまで、何度だって一緒にごはんを食べよう。何度だって一緒に眠ろう。何度だって一緒に朝を迎えよう」

「なんだよそれ」

「不服か?」


 フェジュは勢いよく首を横に振った。


「いっこだけ言わせろ」

「なんだい」

「あのとき、おれを助けてくれて……ありがとう」


 こ、これは……感涙ッ。


「……殿下、ハンカチどうぞ」

「ずばないミリア!」


 わだじどじだごどがッ、嬉じぐでつい……朝空に嗚咽を響かせてじまっだッ! まざがお礼を言われるとばッ!


「……なにが……」


 ん?


「何か言ったかミリア、フェジュ?」

「え? 言ってませんけど」

「――なにが『ありがとう』だァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアッ!」


 うおッ、何事だ!

 どこからか野太い声が聴こえてきたと思ったら、木陰から誰か飛び出してきた。せっかく泣きやんだところなのに。ミリアもフェジュも、私たちのシュバルも驚きまくっている。


「あ、あれは……」


 身構えた私とミリアだが、その木陰から現れた姿を見て呆気にとられてしまう。


「……父上!?」


 なんということだ。とつぜん剣をたずさえて木陰から出てきたのは、私の実父、ドモンド・オーリブだった。

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