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〝エグオンス〟とバマリーン

「あいつ『ら』?」


 ミリアが追及する。


「そのエグオンスとやらは何人いるんです? オマエもその仲間だと思っていいんですね?」

「仲間なんかじゃねーよ!」

「どういうことだ?」


 ムキになったフェジュは明らかに様子がおかしい。仲間と呼べるような温かな存在というよりも、畏怖すべき対象として、その〝エグオンス〟とやらを見ているようだ。


「おれはエグオンスへ売られたんだっ!」


 私とミリアは顔を見合わせた。


「親に、か?」


 なんということだ。私がそう訊くと、フェジュは頷いたではないか。

 私は無意識のうちに奥歯を噛みしめていた。こんな子どもが傭兵団に売られた。そして売ったのは、その親。そこにいかなる事情があったとしても、看過できることではない。


「オマエの親の名前は?」


 ミリアの問いに、フェジュは、


「ヤーデ。ヤーデ・ローア・リベルロ」


 そう答えた。

 失望。失望するしかない。誰に? そんなもの決まっている。アダマーサの姪、ヤーデ姫に、だ。


「殿下。お気持ちはわかりますが、そう顔色を悪くするのはチョット待ってください。まだ話はすべて聞いてません」

「あ、ああ、すまん、そうだな」


 私としたことが、顔に出ていたらしい。気を取り直して再度質問だ。


 その後、フェジュは案外素直に回答してくれた。

 フェジュが言うには……エグオンスはローリー帝国出身ばかりの者たちで構成された、小規模な傭兵団の名称らしい。傭兵団としての任務は要人や民間人の警護。もっともそれは表向きの顔で、おもな仕事内容、つまり裏稼業としては、暗殺やスパイ活動をおこなっているそうだ。ただ、傭兵団のクライアント――依頼主についてはフェジュも知らないらしい。

 そして、フェジュがなぜそんな組織に『売られた』のか? それについては、フェジュは口を閉ざしたがった。だが、ヤーデ姫が傭兵団の一員というわけでもなさそうだ。

 エグオンスとヤーデ姫。ここにどんな関係があるのか、知る必要はじゅうぶん感じる。


「ヤーデ姫はご存命なのか? ええと、ゾンメイ……今も生きておられるのか?」

「生きてると思う」


 それすらフェジュはハッキリとは知らないのか。


「じゃあ、フェジュ、オマエの父親は誰です?」

「ちちおや……」

「いるんですよね?」

「……あんなの、父親じゃねーよ」


 ミリアが肩をすくめた。ここにも何か深い事情がありそうだな。


 エグオンスと、それからフェジュの関係についてさらに聞き進めていくと、フェジュはエグオンスのリーダー格から「国境を越え、南の戦場にて敵軍の軍事機密を奪え」と命令されたらしい。そうして私やミリアと出会ったというわけだ。

 さてどうやってフェジュが国境を越えてきたのかというと、なんとエグオンスは独自のパイプを持っており、隠密に国境を越えるルートを用意しているのだそうだ。聞き捨てならん話だ。あのときリベルロ王国軍最高司令官キャムが南の戦場にいることも、エグオンスはそのパイプとやらからの情報で知り得たらしい。


「つまり王国内に、ローリー帝国からの内通者がいる、ということですか」

「そうだろうな、ミリア。先ほどの赤髪の男を国内に手引きしたのもそいつだろう、どうせ」

「あ、そだ。フェジュ、その赤髪の男はエグオンスのリーダーではないんです?」


 いくぶんか柔らかさが増した視線をミリアはフェジュに送った。


「シカリース。あいつの名前はシカリース。リーダーはべつにいるよ」

「リベルロ王国への内通者……スパイのことは聞かされてますか?」

「スパイ……さあ、聞いたことねー」

「ホントですね?」

「ウソなんてつかねーよ! だから今もこうしておまえらに話してるんじゃねーかっ」

「話すんだったらもっと早くに言えってんだ! もっと早くにそうしていたら、ワザワザこんな村まで来る手間もかからなったです!」

「ミリア。そう責めてやるな。ここは正直に教えてくれたことをフェジュに感謝すべきだ。それにここに来なければ、屋敷の惨状も私たちは知らぬままだったろう。話を少し前に戻すぞ」


 私はふたたび手を叩いた。


「なあフェジュ。キミが数ヶ月前、エグオンスのみなといたとき、バマリーン様に関係する話を聞いたことはなかっただろうか?」

「へ? バマリーンっていう名前は、ヴィクトロの口から聞いたのが初めてだけど……それがなんだってんだ?」

「いや、もし聞いていたら、バマリーン様のお屋敷を襲撃したのはエグオンスかもしれないと思ったものでな……」


 もしそうなら、私が先ほどアダマーサに抱いた予感も消え去ってくれる、そう思ったのだが。隣に座るフェジュは頭をがしがしと掻きながら首をかしげる。


「そのバマリーンってヤツかはわかんねーけど、なんか、ひと月、ふた月……いや、三月前かなあ。エグオンスのやつらが『王国の例の、どうたらかんたら』って話してるとこは見たことあるぞ」

「『王国の例の』……その先は思い出せないか?」


 気になるな。フェジュはしかめっ面を浮かべ始めた。


「うーん……あ」

「ん?」


 フェジュが意味深な声をあげた。私とミリアは例に漏れずフェジュを見る。


「違う。違うよ。おまえの口から聞いたのが初めてなんかじゃない。そのとき……そのときだよ。

『王国の例のバマリーンから文書が』って、あいつら言ってた!」


 これは。


「その続きはなんです!?」

「それはミリア、えっと……あー、だめだ、そっからは思い出せねー! っていうか、そいつら話しながらアジトの奥に消えてったから、たぶん聞けなかったんだと思う、おれ」

「チッ。肝心なとこで役立たずなガキです」

「ミリア、言葉づかいには気をつけなさい」

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