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バマリーン様について、主人の話

「今からでも追いますか?」

「いや、それはいい」


 本当ならば赤髪の男を追いかけてとっちめたいところだが、今回は〝目の前のフェジュ〟から話を聞くだけでいいだろう。


「民宿に戻ろうか」


 私たちは村に戻った。


 ミリアとフェジュを民宿に寄越し、私はそれからもう一度バマリーン様のお屋敷を調べに戻った。だが、やはりバマリーン様はいなかった。そして気がかりなのが、屋敷内に残った刃物傷は、先ほど出くわした赤髪の男が所持していた武器とは傷の幅が異なることだ。つまり屋敷を襲ったのはあの男ではない可能性がある。もっとも、あの男がほかにも武器を持っていたり、共犯がいたりするなら、話は別だが。


 また、血痕にまじって見つかった足跡。これは鎧ではなく、一般的に流通しているただのブーツだということがわかった。山越えに使用する山岳用ブーツでもなさそうだ。そしておそらく、足跡の数から、複数人による犯行だと推測できる。

 だが、犯人は誰か? バマリーン様はどこへ消えたのか? それはまだわからない。しかし、何か引っかかるな。


 そうこうしていると日が暮れてきたので、私は民宿に戻った。


「ミリア」

「あ、ハイ。かしこまりました」


 私はしばし民宿の一室に閉じこもり、バマリーン様のお屋敷の件と赤髪の男の件についての報告書を作成した。報告する相手はもちろんアダマーサだ。先日はあんな別れかたをしたが、アダマーサは女王であり、私が忠誠を尽くすべき女性だからな。

 やがて報告書をミリアに手渡すと、ミリアは窓辺から口笛をふき、一羽の鳥……ミリアが飼い慣らす書簡を運ぶ鳥、アケラを呼んだ。私がしたためた報告書はアケラの足に括りつけられ王都へと運ばれていった。

 ふう、ここはひとまずこれでよし。


「フェジュは今どうしてる?」

「隣室でお昼寝してます。あ、もう夕寝か。ゴハンできたので起こしてきます。殿下は先に食堂に行っててください」

「ああ、頼む」


 その後、私たちは食堂で夕食を済ませた。フェジュのことが気がかりだったが、泣いて腹を空かせていたのか、食欲はいつもと変わらずあったようだ。よかった。ミリアも今夜ばかりはフェジュに優しく接している。彼女には礼を言わねばな。


「ご主人、晩酌がてら少し話を聞いてもよいだろうか?」


 フェジュとミリアを寝室に見送ると、私は食堂のカウンターに着席し、この民宿の主人を呼びつけた。幸い、ほかに客はいない。


「晩酌って、アンタ、そりゃジュースじゃねえかい」

「私はアルコールは飲まんのだ。そんなことはいいだろう、私はあなたと話がしたいのだ」

「まあ、いいが……なんだい、話って?」


 主人も手すきのようだったので、私はすぐ本題に入った。


「ああ、バマリーン様のお屋敷のことかい」


 そう、私は主人にバマリーン様のお屋敷について聞きたかったのだ。すると主人は頭をぽりぽり掻きながらこう言う。


「お屋敷が〝あんなふう〟になってもう、ふた月だよ。お役人さんはいつになったら片づけてくれるんだい?」

「え?」


 私は耳を疑った。


「ふた月? ふた月も経っているのか!?」

「なんだい、アンタ、そんなに驚いて。アンタらはその片づけのためにこの村に来たんじゃないのかい?」

「いや、私たちは……」


 おっと、いけない。ここでの私は王配ではないのだ、それをバラしてはいけない。


「バマリーン様の行方を探しているのだ」


 とっさに出た言い訳がこれだった。この流れで、バマリーン様についての手がかりも聞きたい。それこそが、私が主人と最も話したい用件なのだった。


「バマリーン様の行方?」


 ところが主人は怪訝な顔をした。


「何言ってるんだい、アンタ。以前きた役人は『バマリーン様も殺された』って言ってたぞ?」

「……なんだと?」


 ダメだ、ますますわからなくなってきた。





「えーと、殿下がオッサンから聞いた話をまとめると……」


 主人との話を終え、ミリアとフェジュの待つ寝室へと移動した私は、ミリアに事の次第を説いていた。


「バマリーン様のお屋敷が〝野盗〟に襲われたのはふた月前。そのとき、バマリーン様も野盗に殺害された。ひと月前、王都から役人が来たが、彼らが屋敷で何をしていたかはわからず、使用人たちの死体はそのまま残されている……ということで」

「そのとおりだ、ミリア。そして肝心なのが、さっき主人は『バマリーン様のご遺体も屋敷に残っているままだと役人は言っていた』と証言した……ということだ」


 質素なソファーに私が座り、ミリアとフェジュはベッドに並んで腰かけている。窓から見える空はすでに真っ暗だ。


「あのぅ、殿下、ツッコミどころがアリアリの大アリなんですが」

「奇遇だなミリア、私も同感だ」

「あたし言っていいです?」

「ああ、言ってくれ」

「じゃあ失礼して……コホン。……なんでその話、あたしはおろか殿下にすら伝わってきてないんですか、そもそもソコがオカシイです!」


 そうなのだ。一番ツッコミたいのがそこ、『王都から役人が来ていながら、その話、なぜ私の耳に入っていなかったのか』だ。私の執務室には王都じゅうの近状報告が入ってくる。私も、私の秘書であるミリアも、ひとつ残らず報告には目を通している。が、しかし、田舎村で隠居なさっているバマリーン様のお屋敷が襲撃されたなどという話、一度たりとも聞いたことがない。


「ましてや『バマリーン様のご遺体も屋敷に残っている』!? フザケんなです、バマリーン様の死体なんてどこにもなかったです!」

「もっと言っていいぞ、ミリア」

「『野盗に襲われた』!? 野盗なら屋敷内の金品を盗んでくハズです! でも屋敷内の金品も調度品も何もかも荒らされた形跡はなかったぞコンチクショー! だいたい『役人』ってドコのどいつだコノヤロー! 見つけたらトコロ構わずブン殴る! つーか役人は何しに来たんだってーの! クズめッ!」

「おい、ミリア、なんかコワイぞ」

「フェジュ、コワイならソファーに来い。それからこれがミリアの本性だ」


 私はフェジュを隣に座らせた。


「で! この村に村民が少ない理由! オイこれもあたし初耳だぞ! 村民はひと月くらい前から……『屋敷を恐れて他所に移住し始めてる』っ! だから村民の姿が少ねーんだ、そりゃそーだ! でもなんでそれすらあたしや殿下に知らされてねーんだよ!」


 それが私が先ほど主人に聞いた、村民が少ない理由だった。

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