片翼の想い
見晴らしのよい高台で静かに流れる風の心地よさを感じながら僕は彼女と手すりにもたれて、澄み切った青空が映し出す景色をぼんやりと眺めていた。
付き合って五年も過ぎると言葉を交わさなくても同じ場所にいるだけで十分だと感じる。
この安心感が心地良くて好きだった。
「ねぇ、知ってる?」
彼女は楽しそうに手すりに寄り掛かりながら微笑を浮かべて僕に話しかけてくる。
「何が?」
僕は小首を傾げながら彼女に視線を向けた。
「人の心にはね…みんな翼を持ってるんだって」
両手を大空に向けながら彼女はう~んと背筋を伸ばす姿に釣られ僕は澄みきった青空を見上げた。
「翼かぁ…」
大空を気持ちよさそうに飛ぶ鳥たち見つめながら
あの大空を自由に飛べるなら
どこまでも飛んでいけるなら
どれだけ世界が広がって見えるだろう。
そんなことを想像した僕の口元は自然に笑みが溢れた。楽しいだろうな……。
僕の楽しそうな笑みに彼女は僕の顔を覗き込むように見つめながら悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「でもね、その翼は片翼なんだって…ねぇ、どうしてだと思う?」
その言葉を聞いて想像した世界が急に光を失う。
「…片翼かぁ」
何だか哀しい気持ちになった。
だって、そうだろ?
大空を飛ぶ翼があるのに飛べない。
どんなに悔しいだろう。
「哀しいね……飛べない翼」
けれど、彼女は僕の手をギュッと握りしめた。
「でも、二人なら飛べるわよ」
あぁ、そうか。
僕は彼女を見つめる。
「君が僕のもう一つの翼なんだね」
そして僕は彼女と一緒に、澄みきったどこまでも続く青空を見つめたんだ。
二人で一人。
僕は彼女と想像する。
陽光に照らされた純白の両翼を大きく広げながら果てしなく広がる大空を二人で舞う姿を……。
~Fin~