八八話 再戦
森の中に転移した。
「ソーフスさん。大丈夫ですか?」
「ああ、君のお陰で私は死ななかったよ」
「ご家族は?」
ソーフスさんが自分の手を握り締めた。
「もっと早くあなたに頼っていれば……」
聞かなくても分かる。殺されたのだろう。
襲っていた男の少しやり切った目を見れば予想は出来ていた。
「これからどうします?」
正直、今回の事件は俺にとってはプラスに働く。
脅しを使っても、優秀な商人を得られる。
「戻ったら命が危ないですね」
軽い口で言っているが、かなり深刻な目をしている。
「私はあなたの商売の力を信用しています」
「今ではこんな様ですけどね」
「あんな変人。この世界には不適合ですよ」
あの勇者もどきはいい仕事をした。
ソーフスさんの鎖を殺す。
助かった。本当に助かった。
「そこで、提案なんですが私の弟子に商売。いや、人間との接し方を教えてやってくれませんか?」
「私で良ければ、いくらでも使って下さい」
弟子たちが元奴隷のハーフである事、《洗脳》である程度記憶を消した事を話した。
「そうですか。分かりました。一から店長まで成り上がった私の力を伝授しましょう」
「あと、復讐についてのお話を」
「いいですね。私の大切な家族を殺された恨みをどうしようか悩んでいましたから」
新たに、商人のソーフスさんが仲間になった。
とりあえず、弟子たちが戻ってくるまでは寝ていて貰おう。
彼は早いうちにこの世を去る。
――――――
一週間は暇な時間を過ごした。
弟子たちは〈死の戦争区域〉を未だに攻略出来ていない。
スキルも魔法も使えない空間なんて初めてだろうから余計に時間が掛っているのだろう。
今はマクロとイスに座って日向ぼっこをしている。
才能がなくとも必死で追いつこうと頑張った。
たまにはのんびりするのもいいだろう。
「そうだ。マクロにいい対戦相手がいるんだけど、戦いたくない?」
「師匠たちや姉さんたちに全く勝てないので勝てる相手がいいですけど」
「分かった。手を握れ」
「はい」
転移で屋敷に移動する。
「兄さん。約束の日は……」
「師匠。あの人は誰ですか?」
「弟だ」
互いに俺を倒そうとするいいライバルになるだろう。
実力でいえば、同じ位。丁度いい。
「お互いに高め合うにはいいと思うが、戦って貰えるか?」
「僕はいいですよ。君は」
「僕も大丈夫だよ」
シュウが模擬剣を取り出した。
昔使っていた模擬剣を【アイテムボックス】の中から出し、マクロに渡す。
互いに構える。
「始め」
二人の剣が合わさる。
うん。いい拮抗具合だろう。
「帰るから終わったら勝手に帰って来い」
「分かりました」
転移で家に戻る。
二人の人間が目の前で座っているにいる。
レイは座りながらも寝ている。
毎日のようにシザから『姉様。姉様』とくっつかれていたら精神的に疲れていたのだろう。
逆にガイゼルは座りながら、のんびりストレッチをしている。
こいつの場合はエネから何度も告白されているのに難聴系で誤魔化しているので、体力に余裕があるのだろう。
それにしても、十人で賑やかにやっていた時に比べれば若干寂しいな。
「リュウ。帰ってきたか」
ガイゼルが話かけてきた。
目を見れば、何が言いたいか分かる。
「久しぶりに戦え。だろ」
「流石、物分かりが早いな」
「地形はどうする?」
「昔を思い出せるような。闘技場みたいな場所がいいな」
「それなら、運動場があるから行こうか」
竜人の里に居た時にドクの為に作った場所を使おう。
「あと、これを使ってくれ」
真っ白の秩序魔剣ポネストを渡す。
ダンジョンで入手した物だが、ガイゼルの分身みたいな魔物を倒して入手したので渡してもいいだろう。
「これ俺の魔剣じゃないか」
「魔物からドロップしたぞ」
「だから、【魔剣召喚】に反応されなかった訳か」
元々、ガイゼルの魔剣で今は召喚出来ない。
薄々気付いていたが、この剣はかなり厄介な事情を抱えているかもしれない。
今考えても面倒なので何もしない。
「じゃあ、戦うか」
移動をする。
「魔法は無しの剣で戦おうな」
「楽しみだぜ。こうやってお前と戦えるなんてな」
剣を構える。
懐かしい。召喚された初日にボコボコされた事を思い出した。
チートを使っても死にかけまでにされた事は未だに覚えている。
「じゃあ行くぞ!」
様子見をせずに剣を振る。
目を見られると先を読まれてしまう。
俺の読める手は精々、五秒先の行動だけ。対して、ガイゼルは戦闘になると五十秒先まで読んでくる。
努力じゃどうにもならない差だ。
こうやって、目を見られない程攻め続けるしかない。
「そうやって来るとは分かっていた」
剣を持つ手を狙われた。
躱す為に後ろに下がると同時に剣の軌道が変わった。
切っ先に剣を当てられ、上を見てしまった。
「残念だったな」
目を見られた。
これから、五十秒先まで完全に読まれる。
どうしたものか。
こうなったら、ガイゼルには悪いが技を使わせて貰う。
「圧縮散弾。掌波」
二つの魔王拳を組み合わせて使用する。
勿論、効果も含め読まれている、
「凄い技だが、当たらなければ意味が無い」
「そうだろうな。だが、もう遅い」
不可視の弾丸すら避けられる。
これだから、目は見られたくなかった。
「さて、これからどうするか?」
「分かってるだろう」
ガイゼルからの攻撃を全力で避ける。
目を見られない様に視線を剣で隠す。
「攻撃しないと勝てないぞ」
「分かっている。だからこそ、こうやっている」
「怪しいな」
後、五秒。
「何を考えているかは分からないが、これで終わりだろう」
「流石だな」
押し倒された。
このままだと俺の負けだろう。戦っている間は楽しい時間だった。
残念だが、もう勝負は決まった。
「背中に攻撃を!?」
「ほんの五十秒前に放った攻撃だ」
先を読まれるなら、読まれない範囲に攻撃が到着するようにすればいい。
圧縮散弾によって作れらた空気の銃弾は空中をしばらく漂う。
一回目は躱されたが、掌波の威力をガイゼルの後ろの鉄棒に当てて、反射される。
漂っていた空気の弾丸が衝撃波によって戻ってくる。
大体、五十秒を経過してからの攻撃なので読まれていない。
「俺の負けだ」
やっと、ガイゼル相手に魔法無し、チート無しで勝利した。
あの頃の剣聖にやっと勝てたという嬉しさが心を舞う。
「勝てたんだな」
「そうだったな。今まで俺に近接戦闘で勝てて無かったよな」
「ああ、スキルを使わないと勝てなかった」
試合が終わったので、手を差し出す。
ガイゼルは手を掴み立ち上がる。
「これからは、次の世代の為にやってくれるか?」
「ああ、勿論だ。それに弟子たちを育てるのも楽しいからな」
丁度いいタイミングで頭の中に音が響いた。
弟子たちが〈死の戦争区域〉を攻略したのだろう。
「じゃあ、俺は弟子たちの所に行くことにする」
「俺も連れていってくれないか?」
「ああ、分かった」
攻略していないガイゼルを連れていくのはいいのか分からない。
まあ、ダメならダメで帰せばいい。
転移で目的地まで移動した。




