side 元勇者の弟 四
暗殺者の特徴は分からない。
でも、僕と一緒に居てくれる少女を殺されたりしたら、気がおかしくなるかもしれない。
同じ位の貴族が近い部屋になる事は知っている。
イーズ家の名前を探す。
クソ! なんで、アーボン家ばっかりあるんだ?
必死になって、目的の場所を探した。
左目が痛み始める。
広い王城を見渡していると足音が聞こえ始めた。
月の光を頼りに足音の先を見る。
「イザちゃん?」
あの姿を間違えるはずがない。
「シュウ。逃げて」
よく見ると、イザちゃんを追いかける人影があった。
イザちゃんを置いて逃げる?
そんな選択肢は僕にはない。
魔剣を召喚する。
「ガキ風情が逃げれると思っているのか?」
男の声が聞こえた。
敵は分かった。
イザちゃんが僕の後ろに隠れる。
男が僕の目の前に立った。
「お前は誰だ!」
敵対心をむき出しで聞いた。
「お前は剣聖の息子だな。丁度いい」
背筋が凍る感覚を味わった。
この男、強い。
「もう一人の剣聖の息子が来ると流石の俺も勝てない。まあ……」
咄嗟にイザちゃんに抱きついた。
別にふざけている訳では無い。
「外に出ようか」
体を蹴られた。
全く見えなかった。
イザちゃんと共に窓から外に出た。
僕がクッションになったお陰でイザちゃんには怪我はないみたいだ。
「大丈夫?」
「私は大丈夫。でも、シュウは」
口の中に広がる鉄の味を感じる。
兄さんなら、この状況をどう対処するのだろう。
「逃げるよ」
「うん」
全力で逃げた。
僕の力では、あの男に勝てない。
「待てよ。火の精霊よ我の魔力と恨みを代償に……」
男が魔導の詠唱を始めた。
詠唱から分かる。今の僕が受けられない魔導だ。
「城の中に逃げよう」
「分かった」
そうだ。城の中には兄さんがいる。
どんな生物であろうと兄さんに勝てるはずがない。
悔しいけど、ここは兄さんを頼るしかない。
「《呪・火玉》」
魔導が放たれた。
後、もう少しで城の中なのに……。
そうだ!
「ごめん」
イザちゃんの腕を掴んだ。
そして、地面に魔剣を突き刺す。
「潜れ」
箱のような空間が作られ、その中に二人で落ちた。
火が地上を焼いた。
なんとなく、普通の火よりも温度が高い。
この後、どんな手に出ればいいかを考える。
「どちら様でしょうか?」
僕らを襲っていた男が丁寧な口調で喋った。
「剣聖の息子。リュウ・ローゼン」
兄さんの声と名前が聞こえた。
まさか……。
穴から這い上がり、外の状況を確認した。
「良かった。兄さんが来てくれた」
小さい声で呟いた。
「あれが、シュウのお兄様?」
「うん」
兄さんが味方なら、呑気にお喋りをしていても結末は変わらない。
「あそこの燃えている草見える?」
「うん」
「兄さんはあの火を受けても無傷なんだよ」
「何!? その化け物」
確かに兄さんは化け物だ。
でも、時々変な行動をする。
例えば、
「なんで槍を投げたんだろう?」
男とは全く違う方向を向いて、槍を遠くに飛ばした。
ただの槍なのにあんなに飛ぶのは恐ろしい。
「あれ、いつの間にか消えた」
男も兄さんも消えた。
「これで、もう安全だね」
「シュウのお兄様。消えなかった?」
「あれが兄さんの力の一部だよ」
少しでも早く兄さんと争える位の強さが欲しい。
イザちゃんを公爵家の待ち部屋がある場所まで一緒に帰った。
そのあとにローゼン家の部屋に戻って、寝た。
どうやら、疲れがたまっていたみたいだ。
――――――
目が覚めた。
左腕と右目に違和感を感じる。
痛みは特にないけど、自分じゃない何かが体で渦巻いている。
とりあえず、周りの様子を確認した。
「あれ? 変だな」
近くにいる使用人の人からモヤモヤとした、霧のような物が出ていた。
「どうなさいましたか?」
ルーミスさんが僕に近づいてきた。
今まで知らなかったけど、この人は僕より強い。
直感で分かる。
もしかして、相手の強さが分かるようになったのかな?
「そういえば、リュウ様がさっき来て何かをなさっていたのですが」
「兄さんが!?」
この腕と目の違和感は兄さんがやったことだろう。
僕の無くなった部位を金属に代えてくれているはずだ。
兄さんは時々、行動が読めない時があるけど約束は果たす男だと信じている。
なら、人から出ているこのモヤモヤは兄さんが持っていた金属に関係するんだろう。
「ルーミスさん。握手しませんか?」
「いいですよ」
女性のような細い手を本気で握った。
普段から剣を振っているから、僕の握力は普通の人と比べて高い。
同年代の貴族の子なら、簡単に手を砕ける。
「あの。ちょっと痛いんですが……趣味ならばれないようにおやり下さい」
「ごめん」
全然押し切れなかった。
まるで、固い金属を握っている気分だった。
この人は本物だ。
短髪の赤髪で女装をしているだけの人ではない。
「さて、僕はイーズ家の所にでも行こうかな」
「お前。まさか、あのイーズ家の所に行くのか?」
父さんが話しかけてきた。
僕の行動を阻害する権利は兄さん以外にはない。
「イーズ家は魔導を最も得意とする貴族だぞ。あんな、もやしな所は止めろ」
「そうなんだ。でも、僕には関係ないよね」
親は剣聖だ。
だけど、兄さんよりも弱い。
本当は兄さんが剣聖の名を名乗るべきなのに。
だから、僕はこの親を信用しない。
「僕は行くから」
「おい。待て」
父さんを無視して、イザちゃんがいる部屋に向かった。
――――――
イーズ家の部屋の前にイザちゃんがいた。
「あれ、なんで部屋の外にいるの?」
「シュウ。私は分かったの。リュウ様こそが私に相応しいのよ」
「え!?」
驚いてしまった。
……いや、元から知っていた。
兄さんの戦闘する姿を見たあたりから、彼女の眼は変わっていた。
僕と仲が良かったのにまるで兄さんに盗られた気分だ。
でも、兄さんなら、僕に勝ち目はない。
「そうなんだ。兄さんが好きなんだ」
「うん。あの方の強さに感服しました」
この気持ちは、なんだろう?
この子は僕の物だったのに、なんで、兄さんが盗るんだ?
ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ?
「僕が君と兄さんの懸け橋になるよ」
「ありがとう。シュウ」
今の僕は心の無い人形のような、行動をしているだろう。
自分でも何が何だか分からない一日だった。
――――――
「シュウ。帰るぞ」
親が声を掛けてきた。
「はい」
僕の気持ちなんて、誰も分からない。
でも、人間としての行動をしないと。
――――――
一週間の時間が過ぎた。
僕は毎日を無意味に消化していた。
今日は剣を振る日だ。
最近、兄さんが帰ってこない。
僕から逃げているのかな?
庭に出て、剣を振った。
こうやって、剣を振っている時間が僕にとって一番安定する。
自分という存在がはっきり分かる。
剣を振っていると気配がした。
これは兄さんの物だ。
振り向くと兄さんが玄関の前に立っていた。
「久しぶり、兄さん」
適当に兄さんと話をした。
兄さんは僕に付けた、義手と義眼の様子が気になるみたいだ。
僕自身の事はまるで興味がないのかな?
兄さんとのつまらない話が終わり、兄さんは家に入っていた。
剣を何度も振った。
型なんて忘れて、とにかく全力で振った。
何回か振って、自分の心にあるモヤモヤに気付いた。
兄さんが向かった場所は父さんの部屋だ。
剣を戻し、部屋に向かった。
部屋の近くで聞き耳を立てていると怒声が聞こえ始めた。
全て、兄さんの怒声だった。
始めはローゼン家を貶すような言葉だった。
剣聖は【魔剣召喚】しか取り柄の無い家だと思われているらしい。
次は父さんに対する暴言だった。
「剣聖より賢者の方が剣で強い。そんな落ちぶれた称号いるか」
兄さんが本音を言っている。
僕の精神は確実に削られる。
止めは……。
「俺に追いつくと言って、全然成長しない弟」
僕に対する悪口だった。
なんで、僕は兄さんの為にいろいろ諦めたのに。
こんな仕打ちは無い。
僕が一体何をしたって言うんだ!
扉を蹴って、兄さんを殴る勇気は僕にはなかった。
兄さんの怒鳴りを聞けなくなり、外に走った。
「クソ! 僕が。俺が悪いのか?」
僕の中に知らない何かが、渦巻いた。




