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side 元勇者の弟 三

 僕は貴族のパーティーに出ている。

 豪華な食事がテーブルに置かれて、みんな好きな物を自分で取っている。


 これは、バイキングと言われる食事の方法らしい。

 僕の皿には、白く柔らかいパンが乗っている。


 裕福な貴族の人たちはこんなものを食べているのか。


 パンを食べながら、左腕を確認する。

 さっきまで、死にかけだったのが嘘みたいだ。


 大人の男の人が笑顔で近づいてきた。


「もしかして、剣聖のご子息様ですか?」

「そうだけど」

「娘です。ぜひ、どうですか?」


 女の子が僕の前に出てきた。


「あの、公爵家のイザ・イーズです。よろしくお願いします」

「僕はシュウ・ローゼン。よろしくね」


 兄さんみたいな上品な言葉遣いは僕には出来ない。

 でも、精一杯の笑顔なら出来る。


「一緒に行く?」

「いいのですか?」

「いいよ」


 貴族の子は遠慮がちとシーから聞いている。

 僕がどんな立場かは、よく分からないけど女の子と行動しても悪くは無いだろう。


「イザちゃんはケーキとか好きかな?」

「はい。好きです」

「僕が取ってくるよ」


 兄さんが言っていた。『女性と仲良くなる方法』を思い出しながら話す。

 確か、大抵の女子は甘いものが好きだって。


 そして、気が使える男がいい。


 訓練の時の足運びを意識をしながら、人ごみを抜ける。


「おい。お前。俺が誰だか分かっているか」

「すいません。伯爵様」

「お前如きが俺に楯突けば、お前の家なんてすぐに……」

「煩いよ」


 途中で煩い子供を見つけた。

 伯爵かなにかは知らないけど、ここはそんなに煩い奴は居てはいけない場所だ。


 軽く首裏を叩いて、気絶させた。

 周りから見れば、寝たように見えると思う。


「あれが、ケーキかな」


 白いクリームに包まれた三角柱の食べ物を見つけた。


 二つ取ろうと手を伸ばした。


「邪魔だ。それは僕の物だ」


 巨体に突進された。

 急な事で反応が遅れて、力負けをしてしまった。


 転ばない様に足でステップを取る。


 こいつが、兄さんが言っていたブタ貴族って奴だな。


 確か、兄さんが言っていた対処法は……。


「公爵家にこんなことをして、ただで済むと思っているのかな? おブタさん」


 家の地位を利用して、逆に脅す。

 これが、一番楽な手らしい。


 こうゆう奴らは無視しても、しつこく付いてくるらしい。


「僕はシュウ・ローゼン。剣聖の子息だよ」

「す、すいません。どうぞ、お取りください」


 ブタが慌てた素振りを見せて、僕にケーキを譲ってくれた。


 すぐにイザちゃんがいる場所に戻った。


「いいじゃん。一緒に行こうぜ」

「止めて下さい」


 兄さんと同じぐらいの身長の子がイザちゃんに肩を組んでいた。

 僕にでも分かる。イザちゃんは嫌がっている。


()()彼女に何をしているのかな?」

「なんだ? お前」

「シュウ様」


 男の腕を掴んで引っ張った。


「俺が公爵家のミペア・アーボンと知っての事か?」

「僕も公爵家のシュウ・ローゼンだと知っているのかな?」


 お互い睨み合った。


「ローゼン。あのインチキな奴が居る家か」

「誰の事だ?」


 僕の事じゃなくて、家族の事を馬鹿にする奴は()()だ。

 殺してしまうかもしれない。


「リュウ・ローゼン。あいつはインチキな奴だよな」

「兄さんの事を馬鹿にしたな」


 よりにもよって、僕の尊敬する兄さんを侮辱するなんて。


 思い出した。こいつは兄さんに遊ばれて負けた奴だ。


「決闘でもするか?」

「ああ、してやるよ。イザちゃんが嫌がっていたのにその強引な態度。アーツ王国の貴族の風上にも置けない」


 自分を正当化してから勝負を挑んだ。


 ――――――


「本当に後悔してないんだな」


 闘技場の観覧席は多くの人がいた。

 いつもなら緊張するけど、兄さんも同じハンデを背負って戦った? いや、遊んだんだ。


「宝剣ヴァリヤスの錆にしてくれる」


 ミペアが剣を鞘から抜いた。


「【魔剣召喚】。来い。魔剣オーデウス」


 腰あたりに重量が現れた。

 魔剣オーデウス。名前はさっき閃いた。


 鞘から剣を抜く。


「両者構えて」


 審判の人の指示に従い、剣を構えた。


「始め!」


 ミペアの様子を観察する。


「火の精霊よ。……」


 ミペアが詠唱を始めた。

 まさか、魔導を使う気じゃないだろうか?


「《火玉》」


 火の玉が僕を目掛けて飛んで来た。

 避ける間も無く当たった。


「残念だけど、僕に火は効かない」


 火が僕の体に纏われた。

 これが、火の精霊王(ヴェリトラ)と契約した者の能力。


「こうやって、使うんだよ。頼んだヴェリトラ」


 体に纏っていた火が闘技場の天井に当たるぐらい大きくなった。

 大きくなった火は圧縮され、火の玉になる。


「おい。まさか」

「じゃあね」


 狙いを定めて、火を放った。


「俺が悪かった。許して……」

「じゃあ、自分の弱さに懺悔するといい」


 ミペアの首あたりを叩き、気絶させた。

 これが一番手っ取り早い。


「勝者。シュウ・ローゼン」


 歓声が一斉に上がった。


「シュウ様」


 いつの間にかイザちゃんが降りてきて、僕に抱きついてきた。

 正直、照れる。


 使わなかった魔剣オーデウスを意識を解いて、消した。


「じゃあ、パーティーに戻ろうか」

「はい!」


 手を繋ぎ歩いた。

 異性を感じると少し、ドキドキした。


「シュウ様ってお強いのですね」

「いや、僕の兄さんの方が何倍も強いよ。あと、僕の事は呼び捨てでいいよ。同じ地位なんだし」


 ちょっと誇張してしまった。

 僕は兄さんの足元にも及ばない。


 でも、少し位はいいよね。


「じゃあ、シュウには婚約者っているの?」

「婚約者? 何それ? おいしいの?」


 婚約者? 初めて聞く単語だな。


「いや、いないならいいんだ」


 イザちゃんの握る手が強くなった。

 トイレにでも行きたいのだろうか?


「私をお嫁さんにしてくれない?」


 およめさん? 何のことか分からない。


 私をって事はイザちゃんに関係することなんだろうけど。


「私。お父様からローゼン家の者と結婚しろって言われていたの。本当は嫌だった。でも、シュウの優しさと強さに惚れました」


 イザちゃんは頭を強く打ってしまったみたいだ。

 僕よりも兄さんの方が、何倍も優しくて強いのに。


「しかも、シュウは貴族な感じがしないからこの息苦しさから私を連れ出してくれそうだから……」


 兄さんは僕よりも面白い話をする。

 それに僕は自分以外に責任を持てるような器じゃない。


 でも……。


「僕で良ければ、君と一緒にいるよ」


 イザちゃんが僕と居て幸せになれるのなら、僕は付き合おう。


 この後、二人でパーティーを楽しんだ。

 イザちゃんの笑顔は僕の心を満たしてくれた。


 時間が経つにつれて、僕の体が限界を迎えた。


「眠たくなってきたから、帰ってもいいかな?」

「私も疲れてきたから戻るよ。じゃあ、また明日」


 どうしようもなく眠たい。


 お父さんに部屋に戻ることを伝えてから、部屋に戻った。


 部屋に戻ったら、すぐにベッドに入り、眠った。

 フカフカのベッドが僕を包む感覚は最高だった。


 ――――――


 目を覚ますと知らない少女が僕に抱きついて寝ていた。

 虹色に輝く髪が僕の目によく入る。


 何をすればいいか分からない。

 虹色の髪をした少女が貴族のパーティーにいた可能性は無い。


 この少女はかなり、可愛い。

 寝顔だけでも破壊力がある。


 とりあえず、もうひと眠りすることにした。


 この少女は疲れから見えている幻影かもしれない。


 体はすんなりと睡魔を受け入れた。


「起きて」


 少女の声が聞こえた。

 でも、眠たさが勝って……。


「起きろ!」

「痛い」


 体がはち切れそうな締め付けを受けた。

 骨が鳴ってはいけないような音を出している。


「起きたから! もう、止めて」


 痛みで眠気はどっかに飛んで行った。


「君が私の主だな」

「どちら様ですか?」


 一体何だろうか? この少女は?


「魔剣。魔剣オーデウス」


 胸に手を当てているが、服を来ていないのは気にならないのだろうか?


 僕は目を逸らした。

 見たい気持ちは男だから勿論ある。


 でも我慢しないといけない時があることは兄さんから教えて貰っている。


「主よ。なぜ目を逸らす」


 もともと、かなり近いのにオーデウスがさらに僕に近づいてきた。

 

 体温が僕の体に伝わる。

 なんだろう? この気持ちは。


「我が不満か? そうなのだろう」

「そうじゃないよ。服。服」


 この子には羞恥心というものは無いのだろうか?


「別に我と主との仲ではないか。今更こんな密接……」


 オーデウスが喋りかけている時にノックが響いた。

 このノックの音と回数はリュウ兄さんだ。


 急いで少女を隠し、平然を装った。


「お、お帰り兄さん」


 動揺をしてしまった。


「暗殺者が来てパーティーは中止だろうな」


 兄さんがパーティーについて話してくれた。

 もしかして、イザちゃんが狙われているんじゃ。


 この後、兄さんの冗談が始まった。


 兄さんが嘘を吐く時は大体、笑顔である。


 兄さんが望む通りの動きをするために努力をした。

 オーデウスは既に消えて貰っている。


 茶番に付き合う。

 正直、イザちゃんの事が心配で会話を覚えていない。

 

 兄さんが部屋を出て行った。


 僕はイザちゃんの居る部屋へと走りだした。


 

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